ロリコンif
無事に組織に潜入してイタリアから日本に移ることもでき、これであとはのんびり有事を待つだけ、と思っていた。楽な任務だと。
ベルモットはクールだけど多少のわがままは許してくれるし、バーボンなんてめちゃくちゃ優しい。甘すぎてここは幼稚園かと言いたくなるほどだった。
日本の研究所に移って組織の知り合いが増えて状況は変わった。新しく紹介された幹部は様子がおかしい。
ライという長髪の男は、やたらと私のことを知りたがる。怪しまれているのかと思ったが、聞いてくるのは私の好きな食べ物や好きな色。あと私の写真も撮ろうとする。スパイだし写真を撮られたらややこしいから必死に逃げるのが大変だ。
スコッチという髭の男は、すごく馴れ馴れしい。会えばまっさきにハグをしてくる。喋ってたらすぐに頭を撫でる。歩こうとすれば抱っこか肩車をしようとする。父性を持て余しているのか知らないが、やりすぎは鬱陶しい。
それもこれも、たまに来るのだったら我慢ができる。だけど毎日誰かしらかが私の部屋を訪れてくる。
今日は三人が同時に来てしまった。
「ライ、愛子が嫌がっているからやめてください」
バーボンが、ライのカメラを押さえた。私がやめてと言ってもやめないが、バーボンが言えば渋々カメラを仕舞った。
「ライは私の写真撮ってどうしたいの」
「部屋に飾るんだ。お前に似合うフォトフレームはもう買ってある」
え、気持ち悪い。
子どものフリなんてする余裕はなかった。普通、家に飾るなら自分の子どもの写真でしょ。なんで会って間もない子どもの写真なの。ライの家に行った人、みんな私がライの子どもだと勘違いするじゃない。
言葉を失っていると、後ろから脇に手を差し込まれて持ち上げられた。
「うわ! ちょっとスコッチ、ビックリしたじゃない!」
スコッチは笑いながら私をスコッチの膝の上に座らした。そして後ろから抱え込むように抱き締め、「はあー」と息を吐いた。まるでぬいぐるみみたいな扱いだ。
「落ち着くサイズ」
「スコッチ、愛子が苦しそうだから離しなさい」
「もうちょっとだけだから」
「スコッチ、髭がいたい!」
バーボンと私が文句を言ってもスコッチはやめない。やってることはライよりましだけど、タチが悪い。
離して、とスコッチの腕を叩くが一層力が強くなってしまった。それどころか私が呻けば、スコッチはくつくつと笑う。幼い子どもを苦しめて楽しいのか変態。
力一杯、スコッチに抵抗しているとパシャッとシャッターを切る音が聞こえた。
「スコッチが邪魔だな」
「ライ! だから撮らないでって言ってるじゃん!」
「お前が嫌がるから、顔は写っていない」
そう言ってライが見せた画面には、たしかに私が下を向いている姿が映っていて顔はわからない。でも、と文句を言おうとするとバーボンがライのカメラを取り上げ、無言で写真を消去した。
「愛子が嫌がっています」
そしてそのまま、スコッチの頭を叩いて私を抱き上げた。私の着地先はバーボンの膝の上――ではなく、元のベッドの上。
「酷いじゃないかバーボン。どうして写真を消したんだ。子どもは毎日成長してて、今日と同じ愛子は明日にはいないんだぞ」
「目に焼きつければいいでしょう。愛子を泣かせてまでやることですか」
いや、泣いたことはないけど。
バーボンの言葉に続けてスコッチも「ライが盗撮し始めないか不安だ」なんてライを非難する。が、スコッチが言える立場じゃない。いつかスコッチにセクハラされそうで不安だ。
「もう、バーボンだけが救いだよ」
「僕はいつでも愛子の味方だから、何かあったらすぐに言うんだよ?」
「うん、ありがとう」
狭い私の部屋に大人の男が三人も集まると圧迫感で息苦しい。できることなら来るのはバーボンだけにしてほしい。けれど、それを言えないのはバーボンだけになると暇で暇で死んでしまいそうになるからだ。娯楽もない部屋で一人、バーボンの訪問を待ち続けるなんてイタリアで懲りた。だからライとスコッチが多少気持ち悪くても甘んじて受け入れるしかない。私がもっと任務をこなすようになったら切り捨ててやる。
三人は時計を見て「そろそろ行かないと」と立ち上がった。
「じゃあ愛子、僕は明日も来るから。それまで部屋から出ちゃダメだからね」
「知らない人がいっぱいいるからでしょ」
「そう。部屋をノックされても僕ら以外だと出ないように。鍵もちゃんと閉めて、外が暗くなったらカーテンを閉めて、電気がついていたら外から影が見えるから」
「早く電気を消して寝ろ、でしょ。わかってるわかってる」
毎回帰るときに言われる注意。鍵を閉めてって言っても、この部屋には中から閉める鍵の他に、外から閉める鍵もある。それはバーボンが閉めて帰るのに。カーテンだって光が外にもれて所在がバレないように遮光カーテンに変えられている。すでに万全を期した部屋なんだから、私が注意することなんてほとんどない。万が一、侵入者がいたって自分で解決できる。
バーボンの過剰な心配を「はいはい」と聞き流しながら、三人を見送った。
みんなが出ていってから、私はベッドにダイブした。子どもを心配するのはわかるけど、心配されてる側は肩が凝る。
ああ、またバーボンに「生活リズムが崩れている」と怒られるな、と思いながら私は悠々と昼寝をすることにした。