捨てきれない君の××

 寝に帰るだけだった手狭なワンルームは、平生であればこざっぱり片付いているが、今は足の踏み場がないほど物で溢れかえっている。クローゼットから棚から、家中の荷物をすべて掻き出し、その真ん中で俺とゼロは新居に持っていく物の精査をしていた。

「まさか、俺がこの仕事を任されるとは思わなかったなあ」

 それは突然知らされた辞令だった。辞令交付こそ行われたがすべて口頭で、文書を渡されることはなかった。そのため、危険な潜入捜査がこの先待っているという気がしない。

「……悪い」
「どうしてゼロが謝るんだよ」
「僕の幼馴染みだからヒロが抜擢されたんだろ、きっと」
「そうかもな。でも俺はゼロの手足になって働けて嬉しいんだ。相棒みたいでかっこいいじゃん。……それにゼロが連絡役なら失敗はしないだろうしな。任せたぜ」

 パンと肩を叩くと、ゼロは真面目な顔をして「ああ」と頷いた。
 ゼロは目の前にある衣類を問答無用でごみ袋に詰めていき、俺は写真をシュレッダーにかけていく。楽しそうに笑う顔が跡形もなく粉々に消えていくのを俺は見送り続けた。
 事前にゼロが「こっちで保存できる分は預かろうか?」と気を利かせてくれたが、一緒
に写っている人たちに万が一のことがあったら後悔しきれないから断った。しかも写っているのはほとんど彼女だったから、念には念を入れておくくらいがちょうどいい。今、吸い込まれているのは数年前に海に行ったときの写真だ。白い肌にエメラルドグリーンの水着がよく映えている。このときは、こんな別れがくるとは思わずに無邪気に笑っていた。
 付き合いはもう五年以上。大学という人生の夏休みを共に過ごし、しかも俺がカメラにハマったこともあって写真の数も莫大だ。
 それでも、俺はすべてに目を通した。過去の彼女を脳に刻みつけるために。

「神崎さんとは?」
「最後に会ってきた」

 呆気ないほどあっさりした別れの挨拶だった。任務が終わったら再会できると信じて、あえて強がって笑ってさよならをした。

「本当は何も言わない方がいいんだろうけど、捜されても困るしな。ゼロは最後に会ったのっていつだっけ?」
「随分と会ってない」
「それもそうか。……俺は今度いつ会えるかわからないから、もし遥になにかあったらゼロがどうにかしてくれよ」

 ゼロはさっきと同じくらい神妙な表情で頷いた。

ヒトリヨガリ