安室×チョコ
安室さんはとても優しい。寂しいとき、ポアロに行けば安室さんが優しく話し相手をしてくれる。しんどいとき、都合がつけば駆けつけてくれる。楽しいとき、一緒に笑ってくれる。
すごく優しくて、でも、たまに優しくない。
「ナマエさん、最近運動しましたか?」
優しい口調なのに、私を見る目は冷たい。
私の顔をたっぷり時間をかけて見た安室さんは、次に服に隠れていない首や足をゆっくり滑るように見ていく。セクハラ、なんて冗談言える雰囲気じゃない。
「体育の授業で……運動したよ」
大丈夫、ちゃんと運動してる、と自分に言い聞かせながら安室さんに言うが、彼はまったく私の言葉を信じていない。
「体育の授業を受けていても、先生の指示を聞いたり準備をしたりして、五十分全部運動してるわけじゃないでしょう? それなら運動したうちに入りません」
「ぐっ、確かに」
「ナマエの年で運動不足なんて将来が心配ですよ。血行が悪くて隈ができているし、むくんでいますよ」
「ええ! ちょっとやだ、そんなコンディション悪いの?」
跳び跳ねるようにして安室さんから距離を取った。
恥ずかしい。顔が熱くなるのを感じる。
まさか好きな人にむくんだ顔で会うなんて。今すぐ家に帰りたくなった。スラッとスタイルのいい安室さんと一緒にいていいコンディションじゃない。
「夜更かしはしてないんだけど……」
「だから運動不足ですよ」
言い切られて、ガクッと落ち込んだ。
目の前で淡々と仕事を続ける安室さんが羨ましい。どうやったらこんなに綺麗になれるんだろう。
安室さんの美の秘訣を探ろうと動きを観察していると、安室さんが苦笑いを浮かべながら「僕を見ていてもダメですよ」と言った。そして、安室さんから普段からきちんと運動していることを聞き、ここまで真面目なのかと驚いた。と、同時にずぼらな私では三日坊主で終わることもわかった。
安室さんからつらつらと、運動不足によって生活習慣病や骨粗しょう症になることを説明されたが、そんな未来のこと想像できない。
「いいですか、今から生活習慣を見直さないと大変なことになりますよ。まずは歩く距離を増やしましょう」なんて言ってくるけど、やる気が出ない。いつもより厳しい安室さんに顔をしかめていると、安室さんがいたずらっ子のように笑った。
「そうですね、一人で歩くのは飽きてしまいますから、僕の買い出しについてきますか?」
エプロンを外しながら言う安室さんに、言葉を失った。安室さんと一緒に買い出し、なんて素敵な言葉。思わず何度も首を縦に振ってしまった。
ポアロでしか会えない安室さんと、一緒にスーパーに行けるなんて。見ようによってはデートと言えるかもしれない。いや、やっぱりデートではないか。それでも店員と客の関係を少し越えられた気がする。
胸が高まっている私に安室さんは「継続が大事ですから、これからナマエさんがポアロに来たときはできるだけ一緒に買い出しに行きましょうか」と二発目の爆弾を落とし、私はしばらく立ち上がることができなくなった。
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チョコ→「スイートとビター」「溶ける」というイメージから。