安室×マシュマロ
※時間軸は原作編(原作安室さん登場以降)
目の前にあるのは簡単すぎる問題集。手に持った鉛筆をブラブラと遊ばせため息をついた。
「難しいかい?」
カウンターの向こうから心配した声でバーボンが聞いてくる。が、まったく真逆のことでため息をついたから返事をしにくい。平仮名ばっかりの読解問題に目をそらしたくなる。
せっかくバーボンが私のことを考えて小学校の勉強を教えてくれているのに、簡単すぎて解くのがめんどうなんて口が裂けても言えない。だけど、やっぱりめんどくさい。
「ねえバーボ……」
「安室」
言い切る前にぴしゃりと訂正された。バーボン改め安室さんは皿洗いの手を止めて私を見る。
「今、人がいないからいいけど、外だからちゃんと安室って呼ばないといけないよ」
「はあい」
小学校に行かない私を見かねて、安室さんがお客さんの少ない昼過ぎごろに、ポアロで勉強を教えてくれるようになってしばらくになる。いつもは、のらりくらりと勉強から逃げていたけれど今日は運が悪く捕まってしまった。笑顔で渡されたドリルを見て、顔が引きつったのは十分前のこと。
「ねえ安室さん」
「なんだい?」
「つまんない」
「つまらないのが勉強だよ。……ナマエ、他の子たちはつまらない勉強を毎日朝から夕方までやっているんだから、一時間くらい我慢しなさい」
知ってるよ! すでに経験済みなんだから! と叫びたいのをグッと堪えた。代わりにカウンターから身を乗り出して安室さんの腕にパンチした。けれど、安室さんはビクともしない。悔しい。
「安室さんのいけず」
「そんなことを言うのはこの口かな?」
パンチのお返しとばかりに、片手で私の口元を覆うようにして両頬をむぎゅっと掴んだ。
「うわ、柔らかい」
「安室さん変態みたいな言い方」
「このロリコンー!」と体を揺らして手を振り払おうとするが、大人の安室さんには敵わない。安室さんはむぎゅむぎゅと頬を摘まむ。クッションの弾力を確かめてるみたいで触り方が雑だ。
「やっぱり子どもの肌ってきめ細かいんだ」
「安室さんも肌綺麗だと思うけど?」
「全然違うよ。ほら」
顔を近づけてくるので、自分の頬と触り比べてみると、確かに違う。子どもの姿になって肌のハリと柔らかさに感動したけれど、比較したことがなかったので驚いた。
「ナマエはマシュマロみたいだ」
「マシュマロ……」
「なんだ、嫌なのかい?」
「嫌じゃないけど、そんなこと言われたらこれからマシュマロ食べにくくなるじゃない。共食い……」
「ふふっ、共食いって。……そうだ、ちゃんと問題解いたら、ご褒美にマシュマロを買ってあげるよ」
「え、だから食べにくいって言ったじゃん!」
なんて意地悪な人だと抗議したけれど安室さんは笑うだけで何も言わない。
これは仕返しに、買ってもらったマシュマロを安室さんの口いっぱいに詰めて、苦しませるしかない。そうと決まれば燃えてきた。さっきまで色褪せて見えていたドリルがキラキラして見えた。
――――
「安室×マシュマロ」のリクエストありがとうございました!
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