「……あー、牧瀬? つまり話をまとめるとだ、アンタは今まであの男のとこで楽しく監禁されてたってことか?」

「そうですねぇ」

千雨は片手で顔を覆いながら、頭が痛いといわんばかりの表情を浮かべながらそう訊ね、牧瀬は穏やかな微笑みを浮かべながらそれを肯定した。

「じゃあマキっちは今まであのスーパーイケメンに監禁されてたの!? 私達が世界の命運やらなんやらに巻き込まれてる間にマキっちはあの金髪年上イケメンとあんなことやこんなことをしてたと!?」

「あははは」

「あははは、じゃねーよ!」

興奮した様子のハルナに肩を掴まれ、前後に揺さぶられながらも笑顔を絶やさない牧瀬の姿は、日本に居た頃と何一つとして変わってない。元々彼女はその精神の強さを見込まれてネギパーティーに入れられたのだ。千雨に突っ込まれても平然と流すのはお手の物だ。

「マキっちったらいつの間にそんな少女漫画のようなことに――詳しく! 詳しく教えて!! 新刊のネタにするから!!」

「ええ……?」

恋愛レーダーが最大まで反応しているハルナが血走った目で詰め寄る。牧瀬は微笑みを浮かべながらやんわり避けようとするが――そうは問屋が卸さないといわんばかりに他の好奇心旺盛な少女達が逃げ道を奪う。
恋愛に興味津々、三度の飯より噂話が好きな年頃の乙女達にとって、今回の牧瀬の件は、言い方が悪いが、格好の餌だったのである。


(クリス君、大丈夫かな……)

少し離れた場所に座る彼の背中を見つめ、不安を残しながらも、牧瀬は乙女達の猛攻に対応するために視線を目の前の現実に戻した。







「……ですから、牧瀬さんは日本に帰らなければならないんです!」

「あの娘は僕と一緒に居たいと望んでる。返すつもりはないよ」

人気のないカフェテリアに、十歳程の少年と二十代半ば程の青年が向かい合って座っている。一見絵になるような組み合わせだが――真剣な表情の少年と無表情の青年が睨み合う姿は、どこからどうみても異様だった。

「そもそも、ネギ君……だったかな。君は春音のなんなんだい?」

「彼女の担任です」

「担任、ねぇ」

ふぅん、と青年は興味無さげに呟き、いれられた紅茶を一口飲む。ちらりと横を見れば、そう遠く離れてない場所で最愛の人が友人らしき少女達に囲まれてる姿が見える。押し潰されそうになりながら頑張る姿に「困った顔も可愛いなぁ」と和みながら、早く事を済まさなければと視線を目の前の子供に戻す。

ネギ・スプリングフィールド――英雄、ナギ・スプリングフィールドの息子であり、自身もまた今回の魔法世界の件で英雄になった少年。しかし青年には、今は魔法世界を救ったこの少年が忌々しく思えて仕方なかった。


「クリストフさん、牧瀬さんは日本に帰らなければならないんです」

「それは君が決めたことだろう。春音の意思は無視するのかい?」

クリスの脳裏にちらつくのは、不安そうに今日の日を迎えた牧瀬の表情だ。泣きそうな顔で「どうしよう」と言う彼女を抱き締めて、大丈夫だとあやした回数は少なくない。

今≠フ両親とうまく関係を築けなかったものの、もし自分が日本での生活を捨てた時、家族へ及ぶ被害を危惧するあたり優しい性格は変わらないままなのだろう。そしてその性格が、彼女の首を絞めている。



――自分で決められないのなら、僕が決めるよ。

逃がすつもりはない。誰にも渡すつもりもない。ようやく再会できた最愛の人を、なぜみすみす手放すような真似をしなければならないのか。
仕事が仕事なのだ、悪役に徹するのも悪くない。それが彼女にとっての救いになるなら、幾らでもクリスは悪人と罵られても平気だった

「牧瀬さんだって……いえ、春音さんだって、帰ることを望んでるに決まってます!」

「……話にならないな」

自信満々、真っ直ぐな目でそう言い切った少年に、やはり相容れない存在なのだと理解する。このまま話していても平行線を辿り、無駄な時間を消費していくだけだ。



「春音は渡さない。どんな手を使ってもね」

クリスは立ち上がり、ひどく冷たい瞳でネギを見下ろしながらそう言い放った。




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