うつらうつらと微睡む視界のなか、隣で寝ていたはずの彼が電話をしている姿が見えた。ぱちぱちと何度か瞬きをして、ぼやけていた視界がクリアになっていく。

「――ああ。じゃあ、そうしておいて。後は纏めて明日決める」

クリス君は電話の相手に少しだけ険しい顔でそう答えて、若干荒っぽい動作で電話を切り、小さく舌打ちをした。……なにかあったのだろうか? そう思い、恐る恐る彼の服の裾を掴む。

「クリスくん……?」

「春音? ごめん、起こしてしまったね」

一瞬だけ驚いた顔をしたものの、ふわりと優しい笑みを浮かべながら、彼は何でもないよ、と私の頭を撫でた。

「……なにかあったの?」

「いいや。春音が心配するようなことではないよ。……心配してくれたの?」

「うん……」

怖い顔をしていたからと伝えると、彼はそっかと苦笑いをして、起こしていた体をベッドに沈め、私を引き寄せる。

大きな体に包まれるようにして寝るのは好きだ。たまに息苦しいときもあるけど、基本的に彼が加減をしてくれるのでそんなに苦しくはないし、胸元に擦り寄って直に温かさを感じられるから。


「明日、少しだけ仕事に行ってくるよ」

「気を付けてね」

「本当は春音と一緒に居たいんだけど……」

少しだけ不満げな顔をしている彼の頭を撫でる。思えば、私を此処へ連れてきた日から、彼が長い時間外に出る姿は見たことがない気がする。

いつもは家のなかで私とお話しているか、電話をしたりパソコンのような機械に文字を打ち込んでいるかで、多分、あの機械から仕事の指示を出していたのだろうけど――流石に本人が居なきゃ成り立たない仕事もあるだろう。

クリス君は社長さんだし、むしろ今までこうして外に出なくて済んだことが奇跡だったのだ。


「大丈夫、ちゃんとお留守番できるよ」

外には出れないけど、家のなかで家事をするのは楽しい。日本にいた頃よりものびのびと生活できているし――なにより、やっと彼と会えたのだ。帰ってきてくれるとわかってるから、待っているのも悪くない。

(前≠烽謔ュホテルの部屋で帰りを待ってたなぁ……)

甦る思い出に懐かしさを覚えながら、一定のリズムでぽんぽんと布団を叩いて私を寝かそうとしているクリス君にぴたりとくっつく。「甘えん坊だなあ」とくすくす笑う声が頭上で聞こえたけど、そんなのは知らんぷりである。

「おやすみ、クリスくん」

「おやすみ、春音」

額に柔らかな感触を一つ感じて、視界はゆるやかに闇に包まれていった。




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