CP0のひとりと相討ちとなり、地に伏せた男。血溜まりに沈んでいくその姿を、天井からひっそりと除く娘がひとりいた。
ぼやけた視界の中、ひそ、と耳元に女の声。
「お菊ちゃんのおにいちゃん。どうかそのまま、動かず」
イゾウの頭が一気に明瞭となる。「ばれないように、そのまま倒れてて。私の姿は彼らには見えていません」耳元でそう囁くや否や、冷たくなっていくだけであったイゾウの体の奥に熱が宿る。――娘が治癒行為を始めたのだとすぐにわかった。炎に包まれる城の中、治療行為は文字通り命懸けだ。一刻も早く逃げなければ、この羽衣の乙女まで道連れにすることになる。それだけは絶対に避けなければ。二度も彼女を死なせるわけにはいかない。弟分を命に代えて助けた彼女に、白ひげ海賊団のクルーだった彼らは計り知れないほどの恩義があるのだ。
「お菊ちゃんと錦えもんはだいじょぶ。ぎりぎりだけど、命は繋がる。いま一番危ういのはあなた」
お菊ちゃんのおにいちゃんなんでしょう。ぼやけた視界では確認できないが、そう告げる少女の瞳の無垢をイゾウは知っている。二年――二年。海よりふたたび現れたのは、肉体はそのままに、一切合切を喪った無垢な生命だ。エースの姉――麦わらのルフィの実姉が仮死状態となったエースとともに保護した少女に、落とし前戦争から生き延びた白ひげのクルーたちはできる限りのことを教えた。海賊として生きていけるように、ふたたび仲間の元へ行けるように、戦力として、味方を守る力を蓄えられるように。
麦わらの一味においてその治癒能力から「船医助手」として動いていた名前に、マルコは医術を教えた。目を覚ましたエースは体の使い方を、ルフィの姉はヒトの本質の見極め方を、イゾウは狙撃の基礎を。
「おおい、ま、マルコくーーん!」
「名前!?」
おぼつかない飛行状態ながら、必死に名前が天井から降りてくる。背から飛び出した羽衣はヒトを一人包み、床につかないようギリギリのところで持ち上げていた。
「マルコくん! わたし、もうむりかもぉ」
「イゾウ!!」
「すまん……」目を開ける気力も無い状態のイゾウをマルコに預け、地に足をつけた名前はへなへなとしゃがみこんだ。「ちかれたぁ」と肩を落とす名前の頭をマルコが慣れた様子で撫でる。
「ありがとよい」
「あい……やな予感して行って正解だった。イゾウくんったら相討ちで死にかけててね、赤いお水がどっかんだよ! お菊ちゃんに合わせる顔がなくなっちゃうもん」
「そうかよい。よくやったなあ、えらいぞ、名前」
「なんとかなれーっ! てがんばったぁ〜」
「名前〜〜!」
「おなまえちゃ〜ん!」
「ナミ! お玉ちゃん!! ふたりとも無事でよかったあ!」
駆け寄ってきたふたりと抱きしめ合い、名前は満面の笑みを見せる。
「お〜い、名前〜!」
「チョッパー!!」
ギュウと抱きしめ合い、「名前」と泣きそうな声でチョッパーが名前を呼ぶ。「がってんだ!」コクリとうなずいた名前は、スウと息を吸い込む。
「きんきゅうちりょーするよー! とりあえず怪我ひどいひとから治すから、いいこにしててー!!」
その叫びとともに、名前の背からいくつもの羽衣が飛び出した。