辻ちゃん
「痩せたい? どうして?」
ぱちぱちと長い睫毛を揺らして、お姉ちゃんは心底不思議そうに私に問うた。
「な、んでって……か、体が重いし、その方が健康にもいいし……」
「#名前#はぜんぜん太ってないじゃない! 痩せる方が不健康よぉ」
頬を膨らませながら言う姉の姿はお人形のように可愛くて、本当に私と血の繋がった存在なのか、たまに疑わしくなる。
「ふ、太ってるよぉ……とっても肥えてるよ、豚みたいだよ」
「豚だなんて! 誰、そんなことあなたに言ったのは! 教えてちょうだい、お姉ちゃんがぶっ殺してやるから」
「〜〜っ、お、お姉ちゃんは痩せてて綺麗だから! そんな風にいえるの! 私だって、わたしだって、痩せて、きれいになりたいんだってばぁ」
ぼろぼろと耐えきれなかった涙が流れていく。「えっ、あっ、#名前#?!」お姉ちゃんが慌てている姿が見えるけれど、それに構ってあげる余裕なんてもうどこにもなくて。
「だ、だめなの? 綺麗になりたいって思っちゃだめ? ……す、好きな人に振り向いてもらいたいから痩せたいって思ったのはいけないことなの?」
がしゃん、と後ろのキッチンから何かが落ちた音が聞こえる。
「――す、すきな、ひと?」
「う゛ん……」
垂れてきた鼻水をすすり、呆然とした顔で訊ねる姉に頷いて返す。
「そ、そんな……」
よろよろと床に座り込んだ姉は、ひどく衝撃を受けた様子だった。「好きな人がいるの、でも、いまのままじゃきっと振り向いてもらえないから」だから綺麗になりたいのだと、必死に訴える。
「舞花、そんなショックを受けなくても」
「あなたにはわかんないでしょ! 私のかわいいかわいい#名前#に、そんな、恋だなんて、男なんてみんなケダモノだってあれだけ教えてきたのに」
「わ、私の好きな人はっ、女の子苦手で殆ど女の子と会話なんてできてないからケダモノじゃないもん!」
「それはそれで……最近の子にしてはすごくうぶな男の子だなぁ……」
「……痩せて、それて、告白するの?」
「……したくなかったら、諦めてたら、こんなこと、お姉ちゃんに言わないもん……私、ずっとお姉ちゃんが好きだけど嫌いだった。私にばっかり食べさせて太らせて、自分はガリガリで綺麗でモデルさんで、自分が食べられないぶん食べさせられてるみたいで、ずっとやだった……」
「わ、わたしそんな、そんなこと、いや、あるかもしれないかったけど、でもそれは、わたし、お姉ちゃんは#名前#のご飯食べる顔がいとおしかったからで」
「セーブできなくてずっと流されてきた私も悪かったけど、お姉ちゃんが太らせたんだから、痩せるお手伝いくらいしてくれてもいいじゃない……お姉ちゃんしか美に精通した人、私知らないんだもん……」