元関係者

 生まれてこの方、ずっとろくでもない人生を送ってきた。
 水商売の母親に中途半端に育てられ、物心ついたときには組織の末端。自分が疎ましくなった母親に端金で売られたと気づいたのはいつだったか。悲しいと思うことはなかった。血が繋がってるとはいえ、口が裂けても親子と呼べるような関係でも、環境でもなかったから。
 組織ではなんでも屋のようなことをしていた。特筆して秀たことなんてなかったので、誰もしたがらない一番汚い仕事をしていた。死体の後始末だ。
 生臭くて汚いのを片付けて、痕跡を消す仕事。肉体労働な上過酷だと入れ替わりが激しかったのに潜り込んで、それを自分の仕事にした。覚えてしまえばなんてことない。犬のクソを片すようなものだ。匂いは嫌だったが、薬品の匂いでそれもすぐ無くなる。気づくと死体損壊のプロだと言われるようになった。
 幹部にも顔を知られるようになった。特にジンは何故だか俺を気に入ったようで拷問の仕方まで教えてくるようになった。どうでもいいしやりたくない。だけど断ることもできなくて、気づいたらやらされていた。そこに俺の意思はない。
 毎日死体をバラして拷問してバラして拷問して拷問してバラしてバラしてを繰り返す代わり映えのない日々。
 趣味も何もなくても生きていける俺を、周囲はまるで『機械』だと揶揄した。

 あるとき、電池が切れたようにして行き倒れたことがあった。食事をするのも忘れてふらふらと彷徨い、いきついた公園で文字通り地面とこんにちはしたのだ。
 そこで俺は、天使と出会った。

「あの……大丈夫ですか? 具合、悪いんですか?」

 違うと答えた。腹が減って行き倒れたのだと伝えると、彼女はそれじゃあと言って、

「私のお弁当を差し上げます。あまり、美味しくないかもしれないけど、ひどくまずいわけでもないから」

 そう言って、見ず知らずの男に食事を恵んでくれた。
 弁当はとても美味かった。今まで食べたことのないくらい、こんなに食事がおいしいなんて知らなかった。世界がガラガラと崩れて生まれ変わっていくのがわかる。

「無理して掻き込んだら咽るので気をつけて……はい、お口あけてください」

 一気にがっついて噎せた俺の背を何度も撫でて、そこからは心配した彼女が手ずから与えてくれた。こんなの生まれて初めてで、俺は嬉しくて嬉しくてたまらなくて、俺はこの子と出会うために今まで生きてきたのだとわかった。

 くすんだ色をしていた世界が一気に色づいてくのがわかる。自分がなんのために生まれたのか、こんな地の底で息をしてきたのか。


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