解呪屋とヒロフミ

「ちょっと、なんでいんの」
「おかえりー」

 自宅の鍵を開けると、見覚えのある靴が一足置かれていた。
 うげ、とイヤな予感に顔をしかめる。部屋に入ると、予想通りの相手が自分の家かのような態度で私を迎え入れた。

「鍵、渡してないんだけど」
「こんなアパートの鍵なんて簡単に開けられるよ。気をつけろよ、悪いやつが入ってくるぜ」
「あなたみたいな?」

 男がおかしそうに肩を揺らした。彼――デビルハンターであるこの男と出会ったのは、ほんのささいな人助けからだ。
 なにが気に入ったのかは知らないが、奴は二度と会うこともなかったはずの私の家や素性を突き止め、いつの間にか第二の家主のようにふてぶてしく度々現れるようになったのだ。

「ほら、着替えておいで。それとも、オレが着替えさせてやろうか?」
「結構ですっ」

 早足で自室に入り、私は急いで制服を脱いでハンガーに掛ける。
 前に一度「じゃあお願いしようかな」なんて冗談交じりに言ったものなら、あの男ほんとに服を脱がせに来た。しかもそのままいやらしいことをおっ始めようとしたのである。
 とんでもないロリコン野郎だと罵ると、彼はけらけらと笑って、それから私にキスをした。
 今思い出しても気分が悪い。最悪のファーストキスだった。悪夢である。今でもできるなら夢であってほしいと思っているほどに。

 急いでルームウエアに着替え、リビングに戻る。築年数があり外観は古いがリノベーション済みのこのアパートには私しか住んでいない。私の生業がゆえに、家族とは暮らせないのだ。
 だから一人には慣れっこだったし、なによりファミリー向けのこの広い部屋を全部好きにできるのは悪い気分ではない。難点をあげるとしたら、掃除が少し大変なだけだ。
 そんな私にとっての唯一の桃源郷が、この男の出現によってどんどん失われていってるのは由々しき事態であった。

「何しに来たわけ」
「開口一番にそれかよ。仕事が終わったから会いに来ただけなのに」
「嘘おっしゃい。……デビルハンター案件には手を付けない。その契約を守ってるんだから不法侵入しないで」
「んー」

 男はにやりと笑って、それから私を引き寄せた。不快感を顕にする私をにまにまと見つめながら、私にべたべたと触り始める。身を捩って嫌がってもどうにもならない。
 そもそも、男女で体格差もある上、なによりこの男はデビルハンターだ。そんじょそこらの男よりも鍛えていて強いのは明白で、私がどんなに抵抗してもほとんどダメージなんて入らないのだろう。不愉快な話だ。

「オレがあげたルームウエア着てくれてんの。かぁわいい」
「服に罪はないもの」
「ハハッ。#名前#らしいな」
「なにそれっ……ちょっと!」

 するりと服の中に手が入ってきて、私はいい加減にしろと抵抗する。しかしそれも彼が胸のあたりに触れてきた時点で体が鈍ってしまった。
 大きな手でやわやわと胸全体を揉んでいたのが、今度は人差し指で中心を捏ねくり回し始める。
 最悪だ。嫌だ、ほんとうに嫌だ。勝手に盛っておっ始めるこの男も、本能的に気持ちよくなろうと敏感になってく体も、どんどん湿り気を帯びてきた下半身も。何もかも最悪だ。

「いいかげんに、しろっ!」
「イテッ」

 頭部に思いっきりチョップを喰らわせて私は何とか男の腕の中から抜け出すことが出来た。そのままじりじりと距離を置き、じろりと睨みつける。

「このロリコン野郎!」
「ええ? オレと#名前#、あんまり歳変わんないって何度も言ってんじゃん」
「なんかもう……ほんといや、そんなにエッチなことしたいなら他所にいくらでも相手してくれそうな女居るだろ……」
「そんな心底嫌そうな顔すんなよ、流石にちょっと悲しいんだけど」

 本当に嫌だ。うーうーと唸り声を上げながら睨む私に、今日のところは辞めることにしたらしい男は「悪かったって」とちっとも悪びれてない声色で言い、口角を上げた。


 ◆


 彼女は蝶のようにひらりひらりと舞い降りた。
 「ねえ、生きてる?」なんて問いかける声は心底どうでも良さげで、けれど目の奥に揺れる迷子の幼子のような戸惑うような色が印象的だった。

 彼女は解呪を生業とする家の女だった。
 『解呪』が何を意味するのか――文字通り呪いを解くものなのか、それともそれ以外を示しているのか――について詳しくは知らないが、興味を示すには十分な時間だった。

 自分よりもいくつか年下というだけでほとんど同年代と言ってもいいだろう彼女――#名前#の家を突き止めて、懐に入り込むのはそう難しくはなかった。
 #名前#は普段一人暮らしのせいか、出て行けと言っても実力行使に出たりはしないし、なによりあの目の奥で自分が好意を抱いてることにも気づかず戸惑ってる姿が可愛い。

 処女だったのにすっかり体は自分専用になってしまったようで、胸の奥に充足感が広がった。
 

「――生きて帰ったらセックスしてあげる」
「それ、クスリ使ってもいーの?」
「後遺症が残らないならね」
「マジ? やった」

「ナカに出しても出来ないの、#名前#の能力なのか」

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