黒バスSS

「妻がお世話になったようで、どうもありがとうございました」
「いえいえ。ちーちゃん……奥さんとは久しぶりに会ったので、つい盛り上がってしまって。こちらこそ、長い時間引き留めてすみませんでした」
「あなた、ここちゃんを怒らないで」
「怒ってないよ。君が、ずっと会いたがっていた子だろう? 良ければまた妻と会ってあげてください。人見知りで、あまり世俗との関わりが強くないもので」
「ええ、もちろん。ちーちゃん、またお話しましょうね」
「うんっ。ここちゃんも、また旦那さんの話聞かせてね」
「今度はちーちゃんの旦那さんの話もね」
「……ウン」

  ポッと頬を赤く染めてこくんと頷いた旧友に、九重は楽しみにしてるねと笑みを浮かべた。
 そして旧友の隣に立つ男性に一礼し、そのまま去っていった。
 夫妻は笑顔で、特に旧友である女性は小さく手を振り、その背を見送った。

「……お、怒ってますか……」

 ひどく強張った声色で、つい先程まで笑みを浮かべていた彼女は隣に立つ『伴侶』に訊ねた。
 男は薄く笑みを浮かべ「そう見えるのかい?」と返す。彼女は肩を縮こませて、何かに耐えるかのようにジッと足元だけを見て、何も喋らない。前で組んだ手の先が細かく震えており、それが異様さを際立たせた。

「怒っていないよ。言っただろう? 君がずっと、会いたがっていた子に会えたのが喜ばしいと」
「……そう、ですか」

 男は異国の風貌をしていた。ブロンドの髪に紫の瞳が特徴的な、俳優かモデルでもしていそうな長身の美丈夫だ。



「黒子テツヤは私の夫ですが」

 平然とした様子で言った九重に、部屋の中が一瞬静まり返る。
 そして数秒後、わっと絶叫で埋め尽くされた。

「よく言った九重〜ッ!」
「嬉しい…こんな嬉しいことはない……今日を国の祝日にしようッ……!」
「めでてえ、めでてぇよぉ……!」
「あの九重が、良かったな黒子ォ、一途に想い続けてよーやく実ってくれたんだなぁ!?」
「ええ。頑張りました」

 グッとサムズアップする黒子にまた室内が沸いた。
 今日は誠凛高校卒業生――それも、かつて図書委員であった面々によるちょっとした飲み会が開かれていた。

 図書委員会、と名前だけ聞けばやや地味に感じるかもしれない委員会だが、その実、図書委員会とは当時の誠凛の治安を裏から守る、対心霊特化の特殊部隊のようなものだった。
 初代委員長にして現在は誠凛の司書であるミズチを筆頭に、当時委員会に在籍した生徒達はよく不思議な――否、ホラー映画よりも恐ろしい様々な事案に巻き込まれ、チームワークを発揮し乗り越えてきた。
 そんな面々は卒業後も定期的に集まり、近況報告を兼ねてよく食事会を開いていた。
 今回の話のメインこそ、黒子と九重――二人の結婚であった。

「はーっ、収まるべきところに収まってくれて、私も一安心だわ」
「ミズチ先輩には何かとお世話になりました」
「先輩はあの白蛇先生とは結婚しないんですか?」

 ぺこりと頭を下げた黒子に対し、少しだけ悪い顔で九重が訊ねた。「うげっ」と顔を引き攣らせた委員長の姿に、他のメンバーが食いつかないわけもなく。

「えっ、なになに、ミズチ先輩まだあのセンセと結婚してないんスか!?」
「ばっか! ミズチ先輩はほら、エルダー・テイル通してあったあのハーレム男に未だにアタックされてっから」
「嘘じゃん白蛇センセはもう先輩なしじゃ生きていけない身体にされてんのに!?」
「言い方ァ!」

 白蛇先生と呼ばれているのは、ミズチが高校の頃から生徒会長である風間の斡旋した『アルバイト』の一つで世話を焼いていた小説家の青年のことだ。
 珍しいアルビノの見た目と、どこか蛇っぽさを感じるので図書委員の面々からは『白蛇先生』の愛称で親しまれていた。そんな彼と今も交流が続いているのが、何を隠そう九重であった。

「白蛇先生、私の知り合いの知り合い、みたいな感じで偶然会いまして。それで先輩と結婚したいって相談受けてたので〜」

 のほほんとした様子で語るものの、内容は結構な爆弾発言であった。
 知り合いというのは、かつて体調不良の兄を抱え一人泣いていた幼い九重を助けてくれた、両手ほど年の離れたお兄さん達だという。
 現在も交流は続いており、黒子との結婚へ行き着くまで、何故か兄に加えて彼らも壁として立ちはだかってきて戸惑ったのは記憶に新しい。


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