三期直前あたり
「ぎーのーざーさんっ」
「ん? どうした、なまえ」
後ろから覆い被さるように抱きついてきた女に、宜野座は柔らかな声で問うた。「なにかしようよー」無邪気な子供のような返答に、彼は口元に笑みを浮かべる。
「そうだな、なにがしたい?」
「えっとねー、セックス」
「そうか、セッ――ちょっと待て、今なんて言った?」
「セックスって言った」
あまりにもあっけらかんとした声で返された返事に、体が石のように固まる。はくはくと口を何度か動かしたもののうまく言葉が見つからず、宜野座は手で顔を覆った。
「なまえ――ちょっと前に座れ」
「はぁい」
するりと背の温もりが消えると共に、目の前に現れた女を見る。黒い髪の、まだあどけなさが抜けきらない少女のような女が居た。
こんなにも純粋そうな顔で――事実純粋な面も多いのだが――執行官である彼女は、かつての宜野座の部下であり、少し前まで共に執行官として活動し、現在は共に外務省に引き抜かれて仕事をしているパートナーだ。
十八歳で監視官に任命された霜月よりも若い十五歳で執行官となった彼女とは随分長い付き合いである。殉職率が高かった数年を経て共に生き残った数少ない相手。懐かれるのは自然の成り行きで、今では恋人のような――そうでないような、不思議な関係を築いてしまった。
「なまえ」
「はーい?」
「一体誰になにを吹き込まれた? 唐之杜か? 六合塚か?」
「ううん、違う」
なまえは首を振る。
「そうか……違うのか……」
頭が痛い。あの二人でないなら誰だというのか。霜月とはあまり仲がいいとは言えないし、とても可愛がっているが雛河ということもあるまい。悶々と考えていると、「あのね、」となまえが口を開いた。
「セックスって気持ちいいんでしょ? セックスは好きな人同士がするんだって教えられたの。私、宜野座さんすき。だからやってみたい」
きっと、とっても気持ちいいはずだから。笑顔でいうなまえに、返す言葉がなかった。
「あのな、なまえ」
「はい?」
「セックスは、その、女性側に負担がかかるんだ。初めてだと痛みを伴うこともある。それでもいいのか?」
「うん」
なまえは笑顔で言った。
「宜野座さんならいいよ」
「……そうか」
完全な負けを悟る。絶対的な信頼しか感じ取れない声に、もうどう言っても聞かないのだろうなと理解してしまった。
そして浅ましくも芽生えるのは、邪な欲求。
「――いいよ、おいで」
女になったかつての少女の手を引き寄せる。重なった唇は、もう引き返せないと叫んでいた。
/
「んっ、あ、は……っ」
薄暗い部屋のなか、なまえの声に背筋がゾクゾクするような感覚に襲われる。剥き出しにした肌に舌を這わせると、その度にビクビクと反応するのがいとおしかった。
「なまえ、声は押さえなくていいぞ」
「ん、んん……」
小さく頷く姿がいじらしい。下着に手をかけると、既に湿り気を帯びていたそこに思わず笑みが浮かぶ。下着の上からわざと陰核を擦れば、子犬のような高さの甘い声が耳を擽る。それが心地よくて、ゆるゆるとそこを何度も擦った。
二人分の重みでベッドが軋む音を聞きながら、どこか他人事のようにこの状況を見る自分が居ることに気づく。暗闇のなかでも浮かび上がるような白い肌。汗ばんでしっとりとした肌を蹂躙して、潤んだ目が自分だけを見つめていた。
それだけでどんどん下半身に熱が溜まっていくのだからどうしようもない。なけなしの理性ですんでのところで正気を保っているが、それが切れるのも時間の問題だ。
「そろそろ指、いれるからな」
「そんな、こと、いちいち言わなくていいよぉ……」
泣き声のような声が聞こえる。「大切なことだ」とあやして、残しておいた最後の一枚に手をかける。
「はは。糸が引いてる」
「い、いわなくていい……っあ!」
指の腹で陰核を直に触れる。ビクッと体が大きく震え、恥ずかしいのか空いた手で口元を塞ぐがそれを剥ぎ取って「我慢しなくていい」と窘める。
「ん、あっ、これ、あっ、なんか、へんになっちゃ、〜〜ッ!」
本能か、とろとろと愛液が分泌されてきていた固く閉ざされたそこに指を一本挿入する。陰核と共に溶けそうなほど熱いその中をぐりぐりと中を掻き混ぜると、なまえの嬌声とぐぽぐぽと粘着質な音が部屋に響いた。
「あっ、ぎのざしゃ、なかといっしょ、に、ぐりぐりしちゃやぁっ」
未知の快楽に思考が追いついていないのだろう。拙くも必死に言葉を紡ぐ姿に嗜虐心を擽られる。
「気持ちいいだろう? ほら、こんなに濡らしてる」
「んうう、きもち、きもちい、けどぉっ」
「ちゃんと言えてなまえは偉いな」
額に口付けると、蕩けるような笑みを浮かべたなまえが嬉しそうに目を細めた。「いい子だ」と言いながらもう一本、指を彼女の中に沈める。
けして離すまいとうねうねと蠢くこのナカに一思いに貫けたならどれだけ幸せだろうか――そこまで考えて、それはまだ次の機会にと己を諌める。彼女が痛い思いをするのは本意ではない。
「あっ、あぁっ、なんか、お腹の奥がきゅうきゅうするよぉ」
「気持ちよくてイきそうになってるだけだけだよ。ほら、ここを擦ると」
ナカで動く指はそのままに、親指でぐりぐりと陰核を刺激する。
「あっ、あ、や、なんかくる、あっ、あ、あ――ッ!」
なまえの体が小さく跳ねた。
一際大きくナカが締まるのを感じ、イったのだと確信する。挿入した指を引き抜くと愛液でどろどろに濡れていて、それをなまえに見せると、泣きそうな顔で目を伏せた。
「そんなの見せないでよ、はずかしいよ……」
「恥ずかしがらなくていい。むしろ良いことだ――そろそろ挿れるぞ」
「……ん」
こくんと頷いた彼女の頭を撫でる。
履いていた下着を下ろし、自分でも想像以上に興奮していたのか、先走り汁まで出てきていた自身を数度扱き、ゴムを取り付ける。なまえに脚を開くよう促し、勃起したそれを陰唇に擦り付ける。
「ひっ、あっ、あ、や、そこ、」
「わかるか? これがなまえの中に入るんだよ」
「っあ、わか、わかるよぉ、すごい、あついの、」
とろとろと溢れる愛液が亀頭に絡んで滑りやすくなるのを感じながら、そのまま数度焦らすように腰を動かす。待ちきれないのか、擦り寄せるようになまえの腰が揺れていた。
「入れてほしい?」
耳元で囁きかける。恍惚に染まった目が、絡み付くように宜野座を見る。
「……っうん、いれ、いれてっ、も、がまんできないのっ、ぎのざさんのっ、ほしいよぉっ」
「――その言葉、俺以外に言うんじゃないぞ」
宜野座はなまえの脚を広げ、亀頭を陰唇をこじ開けるように擦り付けて、そのまま自分の陰茎をなまえのナカに挿れた。
ずぷずぷと音を立てながら陰茎を迎え入れるそこは、処女とは到底思えないほどぬかるんでいて、数度に分けて最奥部まで入ってきた陰茎を、待ちわびたとばかりにきゅうきゅうと締め付けた。
ぽたぽたと汗が流れるのを感じながら、宜野座は呼吸を整える。
「っ……すごいな」
「あ〜〜っ、は、ひっ、すご、ぎの、さの、おっきくて、私のなか、いるって、あっ、わかるうっ」
びくびくと体を震わせるなまえに、何とか保っていた理性の箍が外れていくのに気づく。もう止められそうにない。もともと、手を出した時点でとうに理性などなかったのだろうが、辛うじてあったはずの余裕のようなものまで、全て無くなってしまったのをいやなくらい理解してしまった。
「……っは、なまえ」
「ふあっ、あっ、あ、ら、なんれすかっ、ぎのざしゃ」
「好きだ、なまえ……! お前も、俺のことが好きなように、俺も、お前が……!」
「あ、あっ、うれし、うれしいれす、ぎのざしゃ、しゅきっ、らいしゅき」
蕩けた顔で宜野座の背に手を回したなまえは、自らちゅっ、と宜野座の口元に触れるだけのキスをした。「ぎのざさん、すきぃ……」甘い声が聞こえる。なまえが拙い言葉で、好意を示してくれている。
溢れ出す多幸感と高揚感に、陰茎がなまえのナカでぐっと肥大するのがわかった。宜野座はなまえの腰を掴み、勢いよく肥大したそれで奥を穿つ。
「っあ〜〜っ! ひゅき、そこっ、しゅきぃ! あっ、ぐりぐりされてっ、きもちい、あ、もっと、もっとぉ」
「っは、本当にさっきまで処女だったのか? いけない子だな」
「あっ、あっ、らって、きもちい、だもんっ、ぎのざしゃ、の、奥にね、こつんこつんって、すごくね、きもちい、あっ、しゅき、それ、それすきっ」
快楽に染まった頭では正常な判断もできないのか、与えられる快楽を貪ろうと自ら腰を動かしている。
真っ赤な顔で汗と涙と鼻水とでぐちゃぐちゃになりながらただひたすら自分だけを求める姿、それを知るのがこの世で己ただ一人なのだと思うと、心のなかに充足感が広がるのがわかった。
「っ、そろそろ、イキそう、だっ」
「わら、私もっ、も、これ以上きたら、もっ、」
ぶちゅん、といやらしい音がピストンと共に何度も響く。きもちいい、と譫言のように呟くなまえにキスをしながら、宜野座は挿入した体勢のままなまえの体を抱き寄せる。ひっ、となまえの喘ぎ声が宜野座の耳に届いた。
「はっ、なまえ、なまえ、なまえ……っ」
「ぎのざひゃ、ぎの、あ、あっ――!」
繰返し名前を呼ぶたび、なまえのナカがきゅうきゅうと締め付けてくる。加減や余裕などもう頭のなかには無かった。互いの名前を呼びあい、キスをしながらひたすらに腰を振って貪りあう。
おかしくなってしまいたかった。永遠にこの快楽が続けばいいと、そう思ってしまった。ぐずぐずに溶けて、ひとつになれたなら。そうしたらきっと幸せだろう。けれど、
(――この顔が見られないのは、惜しいな)
全身蕩けてしまって、下がってきた子宮口を潰すかのように腰を打ち付ける。
「あ、ああっ、あ――ッ!」
もはや言葉にならない鳴き声を聞きながら膣が搾り取るかのように締まるのがわかった。なまえが絶頂を迎えると共に、宜野座もゴム越しになまえのナカで絶頂を迎えたのだった。
/
「んん、くすぐったい」
「いいから、大人しくしてろ」
「はぁい」
体のラインをなぞるように愛撫していた宜野座に、なまえは身を捩らせた。やわやわと触りながら窘める宜野座に、少しだけ掠れた声でなまえが返事をする。
「いい子だ」
そう言い、なまえの頭を撫でてやる。続けて額にキスをすると、「口にはしてくれないの?」とどこか不満げな声が聞こえてきた。
「口にしたら、またしたくなりそうだからな。口にするのは風呂に入ってからだ」
「またしてもいいのに……」
「お前を大切にしたいんだよ。初めてで疲れたろ」
「んー……まあ。ちょっと腰が……」
「初めてであれだけすればな」
むしろまだその程度で済んだことに驚いた。男で鍛えているのでそれなりに持久力に自信のある己はともかく、なまえも執行官として鍛えているとはいえ、女で初めてのセックスがあれだけ激しければ腰も抜けるかと思ったのだが。
腰の違和感で済んだあたり、若さなのかそれとも体の相性が良かったのか。おそらく両方だろう。
「なまえ」
「はぁい?」
「これからも、ずっと隣に居てくれ」
「ふふ、よろこんで」
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