みかんちゃ
冷たい風が吹き、葉が枯れ落ちて丸裸の木々が揺れている。びゅうびゅう吹く風は問答無用で私たちの身体を貫き体温を奪っていく。コートの中に入っているカイロの存在が、今の私たちの生命線だった。
「うーっ、さむさむ〜」
「寒いねえ……」
赤くなった鼻をすすりながら震えるみっちゃんに私も頷いて返す。
季節は十月の終わり、秋から本格的に冬へ移り変わろうとしている、ちょうどその頃であった。
「なまえちゃんさー」
「んん?」
「進路決めた?」
「んー……」
まだ決まってないよ、と口に出すのも億劫で、唸りながら首を横に振る。だよねえ、と頷くみっちゃんは、「もう二年生か……」と遠い目で呟いた。
そう、二年生。
私達も気付けば来年には受験生になってしまう立場になってしまった。鞄の中には今日渡されたばかりの進路希望票が存在を主張していて、腹の辺りがずっしりと重たい。
正直燃やしてしまいたいが、人生に関わることなのでそういう訳にも行かず。私達はこのあと、私の家でふたり頭を悩ませる予定だった。
「やだやだ、もう二年生ですよ……来年は受験生ですよ……」
「考えたくないね」
「ないよねー。綴くんは? どうするの?」
「今年は受けるって言ってた。なんか、新設校できるらしくてね、知り合いがやってるみたい」
「へー」
すごいね、とみっちゃんが笑う。
本来、私の二つ年上の兄である綴くんは、今年から高校へ通う筈だった――のだが、何を思ったのか、彼はどこの高校も受験することなく中学を卒業した。
これには当時の兄の担任、校長を始め、いろんな人達が頭を抱えた。なにせ綴くんの外での姿は見た目も中身も完璧な優等生の完璧超人。年を越え、受験日のギリギリまで先生たちが家まで来て数人がかりで説得している姿を見た覚えがある。一番焦らなきゃいけない筈の両親は「まあその選択もアリだよね」と笑って受け入れていたけれど。
先生達に説得を続けられても、綴くんはそれに流されることはなかった。
「自分の人生は自分で決めますので」
――と、一国を落とすのも容易であろう美しい笑みを浮かべ、そのまま彼は卒業式を終えたのである。
そんな綴くんは現在、「やらなければならないことがある」と全国を駆け回っている。でも一切帰ってこないわけではなくて、夏休みは家族みんなで旅行へ行き、夏の終わりにはみっちゃんたち御鷹家のみんなも含めての温泉旅行へ行ったりもしていて、ご丁寧に私たちや弟たちの勉強まで見てくれたので、個人的には大変助かったのだが、なんというか――血の繋がった兄だけれど、彼の頭の中はわからない。
「とりあえずさっさと帰ろ。早くなまえちゃんの家に行きたいー!」
因みに今日のおやつはなんですか? とちらりちらりと私の顔を窺う親友は可愛い。今日はお母さんが居る予定なので私にもわからないのだと返すと、「じゃあ早く行こう!」と目を輝かせた彼女に手を引かれ、私達は小走りで家に向かった。
「おいしー! やっぱなまえちゃんママ料理上手だよね」
みっちゃんは幸せそうにケーキを頬張りながら、お母さんが入れてくれた紅茶を飲む。
事前に部屋も暖房が入れてあって、お母さんの優しい心遣いが伺える。そんなお母さんは私達が帰って来るまで待っていてくれたようで、おやつを用意して買い物に行ってしまった。
私たちが帰ってくるより前に帰って来ていた縁くんは、みっちゃんの弟である柊くんと共におやつを食べてから御鷹家に遊びに行ったらしい。
みっちゃん曰く、家にはみっちゃんのママが居るから多分あっちでもおやつ食べてるよとのこと。夕飯は食べられるのだろうか。そう思いながら、私達はおやつの時間を楽しむ。外の寒さを忘れて甘いもので空腹を満たす、それは女の子にとって至福のひととき。カロリーからは目をそらすのが鉄の掟だ。
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