01-sideY

「お疲れ様でしたー」

同僚や上司に挨拶をして職場を出る。いやあ、今週も疲れた。晩御飯買うついでにお酒も買って帰ろう。そういえば録画してたドラマ溜まっちゃってるな〜晩御飯食べながら見るか。
スーパーに寄って買い物をし、音楽を聞きながら帰ればあっという間に自宅へと着いてしまった。鍵を開け中に入る。

「ただいまー」

ドスンッ

…………ドスン?
同居人がいないにも関わらず言ってしまうのは染み付いた長年のクセなので気にしないが、返事の代わりに何かが落ちる音がした。
物が落ちる音にしては重い感じだったし、割れ物が落ちたような音ではなかった。

まさか、泥棒?

「……ドアは閉まってたし、まさか窓から……?」

困った、先に警察に連絡しておくべきかな……でも、物が落ちてただけだったときを考えると警察にとっては迷惑な話だよね。
ひとまず靴箱にかけていた傘を握って部屋へと上がる。足音を消してリビングの手前まで近付くと、素早く電気をつけた。

「……男の、子?」

私のベッドには男の子が寝ていた。恐る恐る近付いて胸が上下しているのを確認すると、どうやら失神しているようだった。
少年の顔を見てこりゃまたびっくり。モデルさんのように整った顔立ちをしていた。独特な跳ね方の茶色の髪、人の良さそうな顔で青いシャツと黒いパンツは今どきの少年って感じ。ただ、履いているブーツが複雑な形をしていた。どうやって履いてるのこれ。
また、右側の腰には剣のようなものが見えたのでそっと預からせてもらう。
襲われたらひとたまりもないしね。

「土足……ってことは外国の人かな。なんでまた、こんな子が泥棒?なんかを」

ひと通り観察し終わって さて警察に連絡でもしようかと思ったが、少年の顔を見て泥棒なんかするような子に見えなくて躊躇ってしまう。剣?を預かったと言っても気休め程度にしかならないことは分かっているんだけど。
見慣れない美少年に毒を抜かれたか、はたまた無防備に寝ているのに警戒心が薄れたか。

スマホを片手にうんうん悩んでいると、

「う……」

少年の唸る声がして、私はばっとそちらを向く。スマホを持たない方の手で傘を掴んで何が起きてもいいように身構えた。
ゆっくりと少年が目を開け眩しそうに目を瞬かせる。そして人の気配に気付いたのか私の方を見た。
うわ、綺麗な目。
ぱっちりとした翡翠色の目は明らかに彼が日本人でないことを物語っていた。思わず見とれてしまったが、はっとして彼に声をかけた。

「は、ハロー……?」

自分でも引きつった笑いになってるなと思いながら、軽く手を振って高校以来使うことのなかった外国語の挨拶を口にする。意識がはっきりしたのか、私の様子にきょとんとした顔になる少年。

「……えっ、と……?」

日 本 語 だ 。
まさか母国語が聞こえるとは思ってなかったが、これはラッキーだ。言葉が分かれば意思疎通ができるし。だがしかし本当に理解できるのかも怪しいので、今度は日本語で話しかける。

「あー、と、私の話してる言葉分かる?」
「は、はい。あの、ここは?」
「私の家よ。聞きたいことがたくさんあるだろうけど、まずは話す態勢になりましょうか」

さっぱり分からないという顔をしている少年を刺激をしないように、優しく声をかけまずはブーツを脱ぐように伝える。襲ってくる様子もないので座布団を用意してそこに座るよう促した。その間に彼が脱いだブーツと傘、そして剣?をひとまず玄関に置きに行く。キッチンで二人分の飲み物を用意すると少年の向かい側に腰を下ろした。