「カツキすげーよ、
「やっぱタフだよなー!」
次の日。爆豪の机の周りにはいつもの取り巻きに便乗してクラスの男子の大多数が集まっていて、昨日大物
あの後、何故かあの現場にNo.1ヒーロー・オールマイトが現れると、たったの拳一振りで
いつものオドオドした様子ではなく、その顔は晴れてすっきりとしていた。すこしキラキラと輝いても見えるようなその表情に驚きながら緑谷を見つめると、わたしと目が合った彼は一気に頬を染めていつもの挙動不審な様子に戻る。
「お、おはおは…お、おひゃ…」
「おはよ、緑谷」
「…っおはよう、苗字さん……」
挨拶を噛みまくって、プシューと沸騰したかのように顔を真っ赤にしながら両腕で顔を隠して照れている緑谷を見て、クスリと笑った。昨日の勇姿を見せた本人だとは思えないほどピュアだ。
「あ、そうだ緑谷」
「?」
「昼休み、時間ある?」
「あ、あるけど…なんで?」
授業の準備をしようと教科書をリュックから出し始める彼に声をかけると、依然頬を染めながら緑谷は大きな瞳をわたしの方へ向けた。
昨日緑谷が爆豪を救けた姿をみて、彼に伝えたいことが出来た。転校した初日に本当は伝えたかった事。状況を考えて伝えるかどうか迷っていたけれど、もう何でもいいや。わたしが伝えたい。そう思い、昼休みに時間を取り付けた。
「な、なんで一緒にお昼…?」
「まぁまぁ、いいじゃん」
昼休みになり、校舎裏にお弁当を持って二人で移動する。何事かと身構えていたであろう緑谷も困惑気味になんでお昼を一緒に食べる流れになったんだろう?と首を捻った。「嫌なの?」と聞くと思いっきり首を横に振って強めに否定する割には「他の人に見られたら、君があれこれ言われるから…」と眉を下げてしゅんとする。別に、気にしなくていいのになぁ。あんなやつらには言わせておけばいい。そう言ってもあまり納得はしてなさそうで。
「あっ、!そういえば…昨日、助けてくれてありがとう」
「へ?昨日?」
「ほら…かっちゃんに言われて、"取り消せ"って言ってくれたでしょ?」
とりあえず、いいから食べよ!と言ってお弁当箱を広げて食べ始めると、緑谷はおずおずと食べ始めながら、昨日の出来事に対してお礼を言った。昨日は色んな事があったから最初は緑谷が何に対してお礼を言っているのか分からず、一瞬ハテナがいっぱい頭に浮かぶ。でも内容的に爆豪が「ワンチャンダイブ」とか巫山戯たことを言った時のことのようで…ん、待てよ?ていうか。
「かっちゃん?」
「…え、…あ、そう…」
「アイツかっちゃんって呼ばれてるの??」
爆豪勝己のあだ名がかっちゃん。随分可愛らしい呼び方で呼ばれてるんだな、今度呼んでやろ。とケラケラ笑っていると、緑谷は「多分怒ると思うけど…」と眉を下げた。
どうやら聞くところによると、緑谷と爆豪は幼稚園からずっと一緒の幼なじみらしい。小さい頃はよく一緒にヒーローごっこをして遊んでいたほど仲が良かったのだとか。そんなお互いがあだ名で呼び合う…いや、爆豪の「デク」は蔑称なんだろうけど。でも、それほど仲良しだった二人がいつからこんな風になってしまったのだろう、なにか原因でもあったのかな?と首を捻るが、緑谷自身も原因はよく分からないらしく、気が付いたらこうなっていた、と話す。
「助けたっていうか首突っ込んだのも、なんか思い返したら逆に迷惑だったかもとも思ったんだけど…」
「そ、んな……!迷惑だなんて!」
「そっか、それなら良かった」
自分と重ね合わせて無謀な挑戦を止めるべきか迷って、結局口をはさんで、でもそれは緑谷にとって迷惑なことかもしれないと思い返して。結局わたしは迷ってばかりだったけど、緑谷はまた大きく首を横に振って「迷惑じゃない」とはっきりとわたしの行為を肯定してくれた。
「…ねぇ緑谷」
「なに?」
転校初日、わたしは彼に「ヒーローになりたいのか」と聞いた。緑谷は俯いて自信がなさげな顔をしながらも「うん」と答えた。ヒーローとは、一見華々しい姿をよく見るが実際のところは危険な仕事だ。
そんなヒーローに、
彼の深緑の大きな瞳からは、昨日までには感じられなかった覚悟のようなものが滲んでいるように見えて、「なりたいのか」なんて無粋なことを聞くのは辞めた。
「緑谷は、いつかきっとすごいヒーローになる」
無個性だとか、貧弱だとか、ヒーローヲタクだとか、全然何も関係ない。大衆を掻き分けて爆豪を救けに走った姿はわたしが今までに見た誰の背中よりも眩しくて、小さな背中に勇気を貰ったのだ。”無個性”だとか”没個性”だとか、そんなのは夢を諦める理由にはならないんじゃないかって。
わたしは、この世界で脇役だと思っていた。この世界に存在するその他大勢の通行人A。個性も成績も平凡で、たいして突出することもない平均的な子。だから特別にはなれないし、誰かの特別な人にもなれない。ヒーローにもなれない。そんなことを漠然と思っていた。
でも、昨日緑谷がわたしに教えてくれたのだ。わたしはわたしの思うまま生きていい。心の赴くままに、身体の動くままに、動いて走っていいんだ。この世界の脇役でも、特別になりたいと願ってもいいんだ。
わたしだって、ちゃんと自分の人生の主人公なんだって。
「そう教えてくれた緑谷は、もうわたしのヒーローだよ」
わたしがそう言うと、緑谷は泣き出しそうな顔をした。
きっと彼も思い悩む日は多かったんだろう。わたしと同じように諦めようと思った時もあったかもしれない。そしてこれからもあるかもしれない。でもどうか諦めないで欲しい。きっと緑谷は最高のヒーローになれるから。
「…僕の方こそ…君だって、」
「ねぇ、行くんでしょ?雄英」
「へっ?…う、うん……」
大きな瞳から零れ落ちそうになる涙をぐい、と制服の裾で拭った緑谷に詰め寄るように「雄英行くよね?」と聞くと、不思議そうな顔をした緑谷にわたしが常々両親に言われている言葉を送る。入学初日に伝えたかったことだ。
「”思いの強さは、実力に勝る”んだって」
そういうと、緑谷は瞳をキラキラと輝かせながら「思い…」と繰り返す。小さなころから達観したように「自分は特別ではない」と自分自身を諦めている私に両親は何度もこの言葉をわたしに伝えようとしてきた。今まではこの言葉があまり好きではなかったのだ。思ったところで何ができる、結局は心でしかなく存在しないものなのに…と。でも、目の前にいる緑谷はまさに昨日”思いの強さ”で敵を打ち負かした。緑谷はとても、とても強かった。
「わたしも雄英行く、挑戦してみる」
「えっ!本当?」
「一緒に”思いの強さ”で頑張ってみよ、それで爆豪ぎゃふんと言わせようよ」
「…それは……できるか分からないけど…」
緑谷と同じ進学先をわたしも受験すると言うと、彼はその大きな瞳を更にキラキラと輝かせた。ひとりで雄英に受かると信じ切っているあの幼馴染の泣き顔を一緒に拝もうと言うと、緑谷は少し笑いながら現実味ないけどやってみよう、と言った。
緑谷にできるなら自分だって…なんて思ったわけじゃない。出来るかは分からないけど、やってみたいんだ。この小さなヒーローがどこまで飛んでいくのか、どんな風に強くなっていくのか、どうやって誰かを助けるのか。それをずっと近くで見てみたい、そう思ったのだった。
笑われるかな、笑われてもいい。大人になったつもりで簡単に自分や夢を諦めてしまうより、きっとずっとこっちのほうがいい。あなたの放つ光を掴み損ねてしまうより、その光に触れられている方がよっぽどいい。
あなたのようなヒーローに、わたしもなりたい。
そう、思ってしまったのだった。