2018 Levi
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「寒い、さっむい!」
季節はすっかり冬を迎えたこの地、朝から底冷えの寒さが襲う。
「身体を動かしゃ温まる」
「ねぇ、リヴァイ。今日もやるの…?雪降りそうだよ」
「まだ降ってねぇだろ」
寒さから身体をガタガタ震わせている私に比べ、リヴァイは何時もの表情のまま。
「今日くらい休みにしない?こんな寒さじゃ身体動かな…うわっ!」
何とか日課になっている訓練を中止してくれないかと思っていると訓練用のブレードが私のすぐ側を掠める、危ない。
「何するの!」
「てめぇが動かねぇって言うなら無理矢理動かしてやる」
すっかりやる気のリヴァイは今にもアンカーを射出しそうだ。
「分かったよ、もう、リヴァイは鬼だ」
「何か言ったか、アネモネ」
「喜んで訓練させて頂き、ま、す!」
トリガーに訓練用のブレードを装着してアンカーを放った。
空中に浮き上がるとリヴァイも付いてくる。
「これ位で音を上げてんじゃねぇ」
「今日は誰が外に出ても寒いって言う」
「俺は平気だ」
「それが異常よ」
「あ?」
他愛のない会話をしている間も訓練用のブレードを使い空中で格闘術を行う。
リヴァイと私が相棒になってから毎日早朝欠かさずやってる、日課、だけど、今日は、寒い!!
ワイヤーを巻き上げ空中で回転をする。
その反動を使って一気にリヴァイへ切り付ける。
それをサラリと躱し鞭のような蹴りが飛んでくる。
私も上に飛んで躱す。
「アネモネ!リヴァイ!!」
訓練場の林の隙間からモブリットが私達を呼んだ。
私は近くの幹に足をついてモブリットを見た。
リヴァイも隣に着地する。
「モブリット!何?」
「今日は訓練中止だって!」
「本当に?!やった」
「誰の命令だ」
「エルヴィン団長!」
「あ〜じゃあ、仕方ないねぇ〜」
「てめぇ、何ニヤニヤしてやがる」
思わぬエルヴィン団長の指示にこの寒さから逃れられる嬉しさからつい顔がニヤついてしまう。
ありがとうございます、エルヴィン団長。心の中でお礼を言う。
「何で訓練しちゃいけねぇんだ」
「今日は雪が降りそうだから早目に、とのことだ!」
「そうだよね〜!それが普通の考え…いった!」
幹の上に着地したままモブリットと話してるとリヴァイが訓練用のブレードで私の頭を小突いてきた。
「痛いよ!」
「寒さ位で訓練を中止なんざしてたら壁外で死ぬぞ」
そうは言うもの団長の判断は絶対、なリヴァイは大人しくワイヤーを伸ばして先に下へ降りていった。
「伝えたからね!」
「うん!ありがとうモブリット!!」
モブリットは私に手を振って兵団舎に向かっていった。
私もアンカーを幹に打ち付けて下に着地する。
「賢明な判断だよ」
「そうは思わねぇ」
「雪だって降りそうだし、今日は書類仕事のお手伝いに勤しもう」
「何張り切ってやがんだ」
「リヴァイも手伝ってね」
「断る」
「あ、そうだ。リヴァイ」
「何だ」
兵団舎に向かって先に歩いていたリヴァイを呼び止める。
振り返った彼に箱を投げる。
箱はリヴァイの両手にストンと収まった。
「…何だ、これは」
「プレゼント」
「何のだ」
「誕生日でしょ、今日」
「…知ってたのか」
「もちろん」
今日は12月25日、リヴァイの誕生日。
前の休みを利用して、私は目つきも悪く口も悪い相棒にしっかりプレゼントを用意した。
「リヴァイが前悪くないって言ってた茶葉覚えてる?」
「…あぁ、あれか」
「うん。そこの1番良いやつ」
「…そうか」
期待はしていなかったけど、まぁ、リアクションが薄い。
喜んでいるのか何なのか良く分からないな。
「気が向いた時にでも飲んでよ」
「そうしよう」
片手に収まる位の箱をリヴァイは持ったまままた歩き出した。
私もその後ろを歩く。
「アネモネ」
「ん?」
「お前はいつ誕生日なんだ」
「この前の14日だよ」
そう言うとリヴァイ立ち止まり振り返る。
その眉間には何時にも増して皺が寄っていた、こわ。
「…どうしたの」
「初耳だ」
「そうなの?」
「あぁ」
「この前の14日、ハンジさんがリヴァイを食事に誘わなかった?」
「…誘われたな。まさかそれがお前の誕生日だって言うんじゃないんだろうな?」
「そのまさかだよ」
ありゃ、こりゃ、ハンジさん後で怒られるやつかな。
思わず苦笑いが出た。
「あのクソメガネ…それを言いやがらなっかった」
「ハンジさん、知ってるものだと思ってたのかも」
「…悪かった」
「えっ?」
「それを知っていたら参加した」
「良いよ。リヴァイ、皆で騒ぐのあんまり好きじゃないでしょ」
リヴァイを誘ったけど断られたよ。ハンジさんが困ったように笑ったこの前の14日。
まぁ、無理強いするものでもないし、ハンジさん始めモブリットや皆が兵団舎の側の酒屋で細やかながら祝ってくれて、私はそれで充分だった。
「今度祝ってやる」
「え、良いよ」
「プレゼントの礼だ」
「…無理してない?」
「あ?」
「だって…誕生日祝うとかリヴァイらしくな…ゴメンゴメンそんなに睨まないで」
普段のイメージとかけ離れたこと言われて何の遠慮も無く言っちゃった内容が思ったより癪に障ったのか、凄みをきかせてこちらを見てくる、だからこわっ。
「…エルヴィンは」
「え?」
「エルヴィンは、お前に何かやったのか」
「エルヴィン団長?うん、綺麗な髪飾りを贈って下さったよ」
細やかな祝いの席に遅れてやって来たエルヴィン団長は、皆が騒いでいる中私を少し離れた所まで呼んで、小さな木箱を私にくれた。
そこには金細工の枠に青色のガラスがはめ込まれた、綺麗な羽の形の髪飾りが収まっていた。
アネモネ、誕生日おめでとう。仕事モードから昔馴染みモードに切り替わって贈られた言葉と優しい笑み。
大人の男性、って感じだった。
「…そうか」
それだけ呟いてリヴァイはさっさと兵団舎へ行ってしまった。
「…ちょっと、置いてかないでよ!!」
※※
「…雪、止まないですね…」
リヴァイの誕生日から2日後、私は団長の執務室で年の瀬に向けて書類整理の手伝いをしていた。
2日前に降りそうだった雪はその日の夕刻から降り始め、それから約2日間降ったり止んだりを繰り返している。
「この天候だと暫くは訓練出来そうに無いですね、団長」
窓の外を見て私が言うと執務机に座っているエルヴィン団長は書類にサインを入れながらそうだな。とだけ返された。
「リヴァイ大丈夫かな…」
「そろそろ帰ってくる頃だろう。今年中に処理しないとならないものだ、帰ってきて貰わないと困るな」
「馬車は問題無く動いていますしね」
「アネモネ。次はこれを頼む」
「畏まりました」
受け取った封書を確認して、私は来客用のテーブルに移動した。
私が今団長に頼まれているのは封書の宛名書き、中の書類は流石に代筆だと失礼に当たるので宛名だけお手伝いをしている。
因みに相棒のリヴァイは今書類を受け取りに内地へ行っている。
「戻っだぞ」
雨具のマントを腕に持ったリヴァイがノックと供に入ってきた。
「お帰り、リヴァイ。雪大丈夫だった?」
「問題無い。エルヴィン、書類だ」
私が座っている来客用のテーブルを過ぎて執務机の前に立ったリヴァイは話も早々に巻物を取り出した。
「寒い中ご苦労だったな」
「別に外を歩いて内地に行った訳じゃねぇ」
「助かった」
「もう良いか?」
「あぁ」
踵を返したリヴァイは私を見た。
「アネモネ」
「ん?」
「手出せ」
「え?」
私が手を出す前に何かが投げられた。
慌てて胸の前で受け取ると、少し重い手に収まる程の箱があった。
「…何、」
「誕生日のプレゼントだ」
「えっ!?もう用意したの?」
はやっ。
「あ…ありがとう」
「開けろ」
「は?」
「開けろと言った」
「ここで?」
「あぁ」
「いや、あの、私今職務中…」
「構わないぞ、アネモネ」
エルヴィン団長はペンを置いていて、肘をついて指を組み、その上に顎を乗せてこちらを見ていた。
「でも、団長…」
「私もリヴァイがアネモネに何を贈ったか気になる」
そう言って人の良い笑顔を浮かべた。
リヴァイの顔をもう一度見ると早く開けろ。と目が言っていた。
「じゃあ、お言葉に甘えて…」
箱のサイズの割に結構重いし、液体が入っている気配。
私はラッピングのリボンを解いて箱の蓋を開けた。
「…何?ガラス玉?」
「違う、出してみろ」
言われた通り見えたガラス玉を取り出すと、そのガラス玉は土台に固定されていた。
「ぅわ…!」
ガラス玉には透明な液体で満たされていて、その中には雪化粧のミニチュアの家と木が台座に固定されていた。
「何、これ、凄い」
「ひっくり返してみろ」
「液体出ちゃわない?」
「出ねぇから、ほら」
土台を持った私の手の上にリヴァイの手が重ねられ、ガラス玉がひっくり返される。
「わぁ〜…」
透明な液体を粉雪のような白い粉が舞う。
まるで雪が降っているよう。
「綺麗…」
「スノードームと言う」
「初めて見た…ありがとう、リヴァイ」
お礼を込めてリヴァイを見ると珍しく口の端を上げ目を細めた。
私の頭を軽く撫でて退出して行った。
何度かひっくり返りて白い粉を液体に舞わせてガラス玉に魅入る。
「アネモネ」
呼ばれて我にかえる。
団長は変わらず指を組んでその上に顎を乗せて私を見ていた。
いけない、職務中、しかもここ団長室だった。
「申し訳ございません!すぐに宛名を…」
「俺があげた髪飾りはどうした?」
「へ?」
てっきり宛名を書く手を休めてしまったことを指摘されるのばかりと思っていたのに、団長の口から出てきたの内容は意外なもの。
しかも一人称が”俺”。
「か、み、飾りですか…?」
「プレゼントを渡して10日以上経っているが付けている所を見ていないな」
「あれは…まだ付けません」
ちょっとした思惑があった私は答えるとエルヴィン団長は少しだけ眉間に皺を寄せた。
「では、いつ付ける?」
「年明けに纏まったお休みを頂いてます。ウィスティリアの家に帰るんですけど、そこで。…大切なものなので、付けた姿を最初に見て欲しいのが家族なんです。兵団の皆には、その後で」
祝いの席の後自室に戻り髪飾りを付けた自分は、私が思っている以上にそれが似合っていて、今まで見たことも無いような大人びた姿にそれは変えてくれた。
それが嬉しくて、昔馴染みのエルヴィン団長から貰ったというのもあり、最初に見せるのは家族だとその時決めた。
「せっかく頂いたのに直ぐ付けなくて申し訳ありません…」
エルヴィン団長を見ると、どこか満足げな笑みを浮かべている。
「団長…?」
「アネモネ。ウィスティリアの家にはいつ帰る」
「え…と。8日後…です」
「その日は俺も休みだ。年始の挨拶も兼ねて一緒に行こう」
「え!?」
「ダメか?」
「いえっ!そうではなくて…団長の貴重な休みなのに…」
「構わない。ウィスティリアの家は俺にとって、とても寛げる場所だ」
言われてみれば、確かに。
ウィスティリアの家に来たエルヴィン団長は何時もリラックスしていて、偶にソファーで転寝なんかもしていた。
「それでは兄上に文を送っておきます。喜びますよ」
「またあいつの話し相手をしなければならないのか。大変な休暇だ」
「その辺りは覚悟しておいた方が良いかもしれません」
リヴァイから貰ったスノードームを丁寧に箱に戻しながら返事をした。
「リヴァイはそれを買う為に遣いを受けたんだな」
「え?」
「内地へ書類を受けとる件、最初はハンジに頼んでいた。昨日になってリヴァイが自分が行くと言ってきた。何か事情はあるかと思ったが」
「そう…だったんですね…」
私は膝の上に置いたプレゼントの箱を見つめた。
「私は良い相棒を持ちました」
「…ただの相棒と思っているのは君だけかもしれない」
「団長?何か仰いましたか?」
団長の声が余りにも独り言のようで聞き取れず訊ねるとエルヴィン団長は何でもない。と口の端を上げた。
「リヴァイが持ってきた書類に取りかかる。君は封書の続きを書いてくれ」
「畏まりました…」
ちょっとだけ団長の言葉が気になったけど、職務再開の号令をかけられてしまえばそれに従うしかない。
ペンを手に取ったエルヴィン団長を横目に、私は膝の上の箱を箱をソファーの空いている場所に置いて封書の続きを書き出した。
Happy birthday Livi!!
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