2019 Valentine(Levi)

「はぁ…疲れた…」

疲労感たっぷりの身体で憲兵団を後にする。
何回来ても、ここは慣れない。

「相変わらずひでぇ装飾だ、ここは」
「だよね。目が痛いよ…」

並んで歩くリヴァイの言葉に思わず同意する。

「今日はご苦労だった、2人供」

先を歩いていたエルヴィン団長が振り返って私達を労ってくれる。

「いえ、大してお役には立てませんでした」
「どの口が言ってやがる」
「何?」
「あれだけ憲兵団のお偉いさん方ボコっておいて、良く言うな」
「人聞きが悪い言い方止めて貰える、リヴァイ?」

ボコってるって…。
実際に手を出した訳では無い。
調査兵団に提出された書類の中身が無さ過ぎて、それを指摘しただけだ。

「アネモネが発言してくれたお陰で、再度会議の場を設けることが出来た。感謝する」
「職務を果たしただけです」

団長は優しく褒めてくれるのに、この相棒ったら。

「ところでだ、エルヴィン」
「何だ、リヴァイ」
「この後の予定は無いんだろ?」
「あぁ。そうだが?」
「じゃあ、こいつ借りるな」

こいつ。とリヴァイは私を親指で指した。

「は?」
「ちょっと付き合え」
「何言ってるの?団長1人で兵団舎に帰す気?」
「ガキじゃねぇんだ。1人で帰れるだろ」
「違うわよ。上官を1人で帰す部下がどこに居るのよ」
「ここに居る」

今度は自分を指差した。

「あのね、リヴァイ」
「俺は構わないぞ、アネモネ」
「しかし、団長…」
「馬車には馭者の団員も居る。問題は無い。夕刻までには戻れ、良いな、リヴァイ」
「分かった」

私を置いて話が進んでいる。

「行くぞ」

リヴァイは左側へ。

「時間は厳守だぞ、アネモネ」

団長は右側へ。


…あぁ!!もうっ!!


私は心の中で身勝手な相棒に対して地団駄を踏み、左側へ向かった。



※※


「…ここ、は…?」

着いたのはシーナ内の外れ、大きな庭園だった。
アーチ形の入り口には綺麗な緑色の蔓が絡まり、色んな花が咲いていた。
厩舎に馬を預けて、その入り口をリヴァイとくぐる。

「何、ここ」
「良いから来い」

何の説明も無しにリヴァイは庭園を進んで行く。
何がしたいんだ、君は。
仕方なく、後に続く。
ふわり。と花の香りを感じた。

「うわぁ…!!」

アーチをくぐればレンガ造りの通路の両側に咲く薔薇、薔薇、薔薇。
私の背丈位までの高さの色とりどりの薔薇が、ずっと先まで並んでいた。

「凄い…」
「こういう場所は初めてか」
「うん。シーナ、余り来ないから」

庭園の中は人で賑わっていた。
皆、思い思いに花を愛でている。
でも、あれ…?

「何か、男女の組み合わせ多くない…?」
「今日はバレンタインだからな」
「バレン…何それ?」
「知らねぇのか」
「う、うん」
「シーナ内の習慣だからな」
「その、バレンタイン?そんな習慣シーナにあるの?」
「2月14日は花を送って日頃の感謝をする。そんな習慣だ」
「へぇ〜…あ、あの黒板に書いてある」

近くに立っていた小さな黒板には今日の習慣について書き記してあった。

「バレンタイン。王が女性に日頃の感謝を込め、薔薇の花を送ったことが起源とされている。それ以来、男性が薔薇の花を…妻や、恋人に…送る…日とされて…いる」

読んで分かった。
ここに居る男女って、恋人関係や夫婦の方たちだ。

「どうした」
「リ、リヴァイ君…」
「あ?」
「何故、私を、ここに…?」

場違いにも程があるでしょ、私達。

「言わなきゃ分かんねぇのか」
「そうね…非常に難解だね…」
「考えろ、てめぇのその頭でな」
「はぁ?」

何なんだ、今日はいつにも増して言葉が足りない。
……ん?
言葉が、足りない…?

「もしかして、リヴァイ」
「何だ」
「口にするのが嫌だから、私を連れてきたの?」

2月14日、男性が女性に感謝の気持ちを伝える日。
その日に、その日の象徴である薔薇が沢山咲いている庭園に、わざわざ私を連れてきた。
となると、つまり。

「私に感謝してる…ってこと?」

そう訊ねるとリヴァイはフッと目を細めた。

「そんなところだ」
「でも、こんな恋人や夫婦で来るような所…」
「俺とお前は恋人でも夫婦でもねぇが、大切な奴なのは違わねぇ」
「リヴァイ…」

凄く、嬉しい。

「ありがとう…」

素直に気持ちを伝えれば、リヴァイは私に近づいて頭を少し乱暴に撫でできた。

「もう少し見るぞ」
「うん」

先に歩き始めたリヴァイの後を追う。

「リヴァイ」
「何だ」
「習慣としては花を送るって書いてあったけど」
「あぁ」
「花束でも良かったんじゃ…?」
「アネモネ」
「ん?」
「俺が花束持った姿、どう思う?」
「どう…?」

想像してみる。
大きな薔薇の花束を持った、リヴァイ…。

「ぶはっ!」

普段の姿からのギャップで思わず吹き出す。

「悪くは…ないんじゃ…ないかな…」
「…てめぇ…」

笑っちゃ悪いと思って堪えるけど、声が震えてしまう。
リヴァイが眉間にたっぷり皺を寄せて静かに振り返った。

「ご、ゴメ…」
「…笑いたきゃ笑え」
「違う違う、おかしいんじゃないの。普段の姿から余りにイメージが離れて…。他の花なら似合うかもよ」
「切り花は嫌いだ」
「…え?」
「枯れるのを待っている花見て何が楽しいんだ」

…なるほど、そういう考え。

「それは一理あるね」

だから庭園に連れて来てくれたんだ。

「…お前」
「ん?」
「俺の考え理解したのか」
「うん。生き続けている花が好きってことでしょ?そういう考えがあってもおかしくは無いからね」
「…そうか。お前のそういう所、悪くない」
「それはどうも」

偶に思う。
リヴァイとのこの程よい距離がとても心地良いと。
リヴァイも、そう思ってくれているようで、安心した。

「そう言って貰えて相棒として嬉しいよ」
「…俺は相棒ってだけじゃねぇけどな」
「ん?」
「…何でもねぇよ」

何かボソボソと言っていたような気がしたような。
聞き返したけど、リヴァイは答えてくれなかった。





Happy Valentine’s Day!
I hope you like it.


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