午前ゼロ時に、(きみとキスを)


確かに恋だった様からお題を拝借しております。




「団長、おはようござ…い…」

今日の資料を持って団長室に入ればもぬけの殻だった。
執務机に1枚の紙、良く知った文字が書かれていた。


”なまえへ。急用が出来た為王都へ向かう。帰りは遅い。以下の件を終わらせておいてくれ  エルヴィン”


「…団長…」

団長が出掛けるのに補佐官の自分を置いて行くとは。
言付けの後に書いてある職務を確認する、うわ、結構な量だ。

「だから団長、私を置いて行ったのか…」

自分が居ない間に粗方終わらせておいてくれ。そうゆう意味だろう。
帰りも遅いといっているし、この職務が丸々明日に繰り越されてしまうと流石の団長も寝る時間が無くなってしまう。

「さて、やりますかな」

兵団服の袖を少し上げて、早速職務に取りかかった。



※※



11:30


ふと、目が覚める。
私室はまだ真っ暗。
団長は戻られたのだろうか。
1度気になってしまうと、私の眠気はどこかへ行ってしまった。

「…団長室、行ってみようかな…」

この時間まで職務をしていることがザラな団長だ、王都から戻ってきて私の残した引継ぎを確認しているかもしれない。
ベッドから出て上着を羽織る。
ランタンに火を灯し、静かな宿舎の廊下を歩いた。
まずは団長の私室へ向かう。

「灯りは点いてない…」

ドアの隙間から零れる灯りは見えなかった。
と、なると。
宿舎棟から兵団の部屋がある場所へ足を向けた。


11:40


「やっぱり…」

団長室のドアの隙間から煌々と灯りが漏れていた。
まだ居るみたいだ。
ドアを小さくノックする。

「エルヴィン団長…?なまえです…」

物音1つ聞こえない。
ドアに耳を当ててみても人の気配すら感じない。
居ないのかしら?

「団長、開けます…」

小声で言ってそっとドアを開けた。

「…あ、」

最初に目に入ったのは来客用のソファから出た長い足。

「エルヴィン団長…?」

背凭れで見えない姿を確認すべく回り込むと、寝ていた。
片腕で目元を隠し、シャツを胸元を緩めて、ブーツを履いたまま。
もう片方の手には私が引継ぎをした書類を持っている辺り。

「帰ってきたは良いけど途中で力尽きた…の、かな」

この仕事中毒者め。
はぁ。と小さくため息をついて、仮眠用に置いてあるブランケットを取り出した。
団長の側まで行き、持っていた書類を起こさないようそっと取り上げる。
その腕を胸の上に置いてブランケットをかけた。
書類を机に戻し、不要なランタンを消していく。
机のランタンだけ点いた室内に低い呻き声が聞こえた。

「ぅん…」
「団長?」

もぞりと大きな体が狭いソファの中で動く。
側に行くと目元の腕が外れていてぱしぱしと青い瞳が瞬いていた。

「…なまえか」
「はい、お帰りなさい、団長」
「寝ていたか…」
「はい。ぐっすり」

寝ぼけ眼で話す団長は少し可愛らしい。
普段の精悍とした雰囲気が幾分和らいでいる。

「…何を笑っている」
「何だか今の団長、可愛らしくて」
「…こんな大柄な男を捕まえて可愛いなんて表現をするのは君位だ…」
「そうですね。このまま寝られます?」
「いや、起きよう…今何時だ」
「深夜11:50です」

団長室の掛け時計を見て答えた。
起き上がった団長はそのまま私の腕を引いた。

「わ」

隣に座らされた私の上に団長が圧し掛かってくる。
圧されて仰け反るようにソファに倒された。
器用に背凭れと私の間に腕を滑らせてきて、頭の後ろを固定される。
逃げれない私に団長はキスをしてきた。
触れるだけのキスから食むようなキスに。
団長の空いた手が私の頬に触れて、そのまま唇の下にやってくる。
指で顎をそっと引かれ、開いた私の唇の奥に団長の舌がするりとやってきた。
アルコールの匂いと味に私は少し呻いた。

「お酒…飲んだんですか…」
「付き合いで少しな。気になるか?」
「結構します…んっ」

唇を離して、それでも触れ合う位の近さで、少し不満を漏らすと、それすらも飲み込むようなキス。
団長の唇は私の唇の弾力を楽しむ様に、彼の舌は私の中を味わう様に、動く。
そろそろ息が苦しくなってきて、団長の肩を強めに押した。

「く、苦しいです…」
「あぁ、済まなかった」

全然済まなそうな表情でにっこりと微笑みながら言われても。

「君と触れ合うと疲れが取れる」
「それは良かったです。けど、」
「けど?」
「重いです、団長」

思いっきり体重をかけられ身体に結構な圧迫がかかっている。

「…退いてはくれないんですね」
「君の上は居心地が良くてね」
「酔ってます?」
「飲んだからな」
「…退いて下さい。蹴りますよ」

酔っ払いの相手なんて御免だ。
目を座らせ言うと団長は大人しく私の上から立ち上がった。

「恋人に手厳しいな」
「上官に手厳しいだけです」

私も起き上がりすっかり皺になってしまった寝巻きを払って整える。

「引継ぎを確認した。良く終わらせてくれた」
「終わらせないと団長の寝る時間が無くなりそうだと思ったもので」
「ご苦労だった」
「仕事ですから。飲み物でもお持ちしましょうか?」
「いや、今日はもう休む。明日再度確認しよう」
「分かりました」
「君の部屋へ行っても?」
「ご冗談」
「本気で聞いている」
「明日お早いのでしょう?」
「ほう。…そうゆう意味で捉えてくれるのか」

机の書類を部類別に分けていると後ろからするりと項を撫でられる。

「そろそろ俺達もキスだけの関係から変わらないか」
「…考えておきます」
「そうしてくれると有り難い。今日は自分の部屋で休むとしよう」

部類訳を終えた書類を団長の机に置いた。
時計を見ると11:58。

「なまえ」

呼ばれ振り返ると団長が私を抱きしめた。
起き抜けで体温の高い団長の温もり。

「今日は置いて行って済まなかった」
「いいえ。仕事があったんですから、仕方ありません」
「次は一緒に行こう。用が終わったら食事でもどうだ?最近碌に出掛けてないだろう」
「それも良いですね」

私も団長逞しく大きな身体に腕を回した。
見上げれば優しく微笑む私の恋人。
お互い言葉なく顔を近づけた。



午前ゼロ時に、(きみとキスを)




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