8話

「一番君…?」
「樱花ちゃん…!?」

ジュンギさんが連れていたのは一番君と、後は初めて見る2人の方々だ。

「…本当に居た…」
「え?」
「いや、何でもねぇよ」
「一番君…どうしてここに?」
「俺達は、コミジュルに加勢に来た」
「コミジュルに?」
「あぁ。条件でナンバのこと見逃してくれるって言われてな」
「ねぇ、一番。誰、この女」

女性の方が私を指差し聞いてくる。

「俺ぁ知ってるぞ。横浜流氓のシマに、漢方薬局を持つ女だろ」

もう1人の体格の良い男性が、これまた私を指差しながら言う。

「漢方薬局の…って!横浜流氓が囲ってるっていう女の人!?」
「違ぇよ。星野会長の妾なんだよな、お前さん」
「…どっちも違うんですけど」

初対面で、何でこんな言われようをされないといけないんだ、私。

「皆さん、お静かに。ソンヒが電話中です」

ジュンギさんが私達に釘を刺した時、ソンヒさんが電話を切った。

「ソンヒ、荻久保豊は何と?」

ジュンギさんがそう聞いたが、ソンヒさんは私達の方を向いた。

「…手を貸して貰えるか、春日。近江連合の兵隊がここへ来るまで約2分。だが、偽札作りの痕跡を燃やすのにはもう少し時間がかかる」
「偽札作りの痕跡を、燃やす…?」
「異人町の偽札事業は、最早これまで。…荻久保が、そう即断したよ」


だから、荻久保さんは、このタイミングで私にあの言葉を…。
今まで関わってきたチエンの祖父、そして父、私。
決して表面上では関わることの無かった我が家の行いも、荻久保さんを支え、そして荻久保さんはそれを知っていてくれた。
労うような意味合いの内容に、納得した。


「頼む!力を貸してくれ!!」

今までに聞いたことの無いソンヒさんの声に我に返る。
そしてソンヒさんは一番君達に頭を下げた。

「ソンヒさん…」
「ソンヒ!頭をお上げ下さい!!」
「……しょうがないわね。……頭上げてよ」

一番君と一緒に居た女性がソンヒさんに声をかけた。

「私…正直言うと前からあなたがいけ好かなかったし、荻久保を助ける義理もない。…でも…、プライド高いイイ女が頭下げるなんて、よっぽどの事よ??」

女性の言葉を聞いた一番君と、体格の良い男性の様子が変わった。

「この人が言ってる”恩義を返す”って気持ちは、口だけじゃない、本物だよ。わかるでしょ??」
「恩義…」

そうだ、私も。
私も、荻久保さんへの恩義を、祖父を親友を呼んで、私達が生きる時代を築いてくれた恩義を。
今、返す時…。

「じゃ、やるよ!」
「紗栄子さん」

ソンヒさんが女性を呼んだ。

「……ありがとう」

そう言うソンヒさんの顔は穏やかだった。
そして直ぐに、いつもの総帥の顔に戻る。

「樱花」
「はい」
「お前は地下に戻れ」
「…いいえ」

私の返事に皆の視線が向く。

「…ここに残ると言うのか」
「はい。一番君と一緒に、ここを守りたいです」
「樱花…」
「私もチエンの姓を背負う者です。荻久保 豊への恩義もあります。それを返せるというなら、私も手伝います」

ソンヒさんが目を細め、私を見る。

「…分かった、頼むぞ」
「はい」

ソンヒさんはジュンギさんを連れて、ドアの先に歩いていった。
そのドアが閉まるのを見届けて、一番君に向き合った。

「さて、迎え撃つ前に…お互いの自己紹介の方が先かしら」
「樱花ちゃん…良いのか?」
「何が?」
「これから俺達、戦うんだぜ」
「そうよ。あなた、戦えるの?」
「はい。こう見えて拳法が出来ます。…紗栄子さん?で、合ってました?」
「あ、えぇ、そうよ。向田紗栄子、紗栄子で良いわ」
「あちらの男性は…?」

私は壁に凭れている体格の良い男性のことを聞いた。

「ありゃ足立さんだ」
「足立さんね。私はチエン・インフゥアです。皆、樱花と呼んでくれます」
「お前さん、偽札事業に関わってたんだろ」

足立さんが壁に凭れたまま私に聞いてきた。

「…はい」
「信用出来るのか?」
「ソンヒさんが私をここに残してくれました。それだけじゃ足りませんか?」
「はっ、足りねぇな」
「そうですか…じゃあ、」

私はレザージャケットから愛用の手袋を取り出した。

「実践で、信用して頂くしか無いようですね」










「ソンヒ」
「何だ」
「宜しいのですか?」
「何がだ」
「樱花さんを…春日さん達に任せて」
「お前は樱花の目を見たか」
「目…ですか」
「そうだ」
「見ましたが…それが何か」
「あの目…あいつの父親にそっくりだった…」
「…ソンヒ」
「同じ道を歩めば、似てくるものだな」
「ソンヒ、それは…」
「安心しろ、同じ過ちは繰り返さない。それにな」

前を歩いてたソンヒは立ち止まり、私の方に振り返る。
その表情には笑みが見えた。

「あいつは強いぞ、ハン・ジュンギ」



―チエン・インフゥアが加勢に加わりました―



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