7話

私は目の前に居る、捕まえてきた患者さんをジッと見る。
目を細めると、その患者さんはフイと私から目を逸らした。

「…お酒臭いですね…」
「うっ…」
「昨日いかほど飲みました?」
「す、少しだけ…」
「少しでこんなにアルコールは残りません。正直に言って下さい」

更にジッと見ると、患者さんは観念した。

「…チャミスルを…3本」
「1人でですか?結構な量じゃないですかっ」
「仕事終わりに飲むと美味しくて…つい」
「先々月、肝臓が痛むって薬局来たのは誰ですか?」
「…自分です」
「その時渡した漢方薬は全部飲みましたか?」
「いやぁ…飲んでる途中で痛みが無くなったから、飲むの止めました」
「それで完治出来るとでも?」
「…でも、もう痛くないんです」
「痛みが出た時点で体は悲鳴を上げてるんです。また同じような症状が出て、薬局で対処出来なかったら病院送りですよ?」
「そ、それは困ります…」
「でしょう?じゃあ、今日から処方する漢方薬は全部飲み切って下さい。それと、次の予約、入れましょうね」
「はい…」

観念したのか、患者さんは肩をガクリと落とした。
持参したタブレットを出した所で、ドスンという振動を感じた。

「…何?」

振動は上から感じた。
見上げてもそこには地下の天井しか無い。
近くに居たコミジュルの戦闘員たちが慌ただしい動きを見せた。

「何か…あったんでしょうか」
「すみません、樱花さん」

戦闘員の1人が、私が間借りした場所にやって来た。

「こいつ、連れていっても良いですか?」
「急用ですか?」
「はい」
「それでしたら。予約は後日でも取れるので」
「ありがとうございます。おい、行くぞ」
「あ、あぁ」
「あの!」

そのまま走っていきそうな2人を呼び止めた。

「何が…起こっているんですか?」

訊ねると、私に声をかけた方の戦闘員が少し躊躇った後、話し始めた。

「ブリーチジャパンがビルの入り口まで来ています」
「ブリーチジャパン…?」

って、異人町のグレーゾーンを目の敵にしてる、NPO法人団体だよね、確か。

「デモ活動か何かですか?」
「最初はそうだと思っていましたが…重機を持ち出して…」
「重機!?」

さっきの振動はその音か。
でも、重機なんて何に使う…。
いや、ある、使う場所が。

「まさか…バリケードを…!?」
「えぇ」

NPO法人団体が、そんな過激な行動を…?

「それでは、私達は急ぎますので」
「あ、呼び止めてすみませんでした…」

走っていく戦闘員の背中を見つめていると、入れ違いに今度は白衣を着た男性が私の元にやって来た。
初めて見る人、誰だろう。

「樱花さんですね」
「はい…」
「総帥がお呼びです」

ソンヒさんを総帥と呼ぶ、ということは、監視システムの方…?

「分かりました、どこに行けば?」
「このビルの中枢です」

そう言って白衣の男性は天井を指差した。



※※



男性に連れられて来た場所は、初めて入る場所だった。
何だか物々しい雰囲気。
重工な扉の先には、無数のモニターが設置されていた。
そこには見慣れた光景が幾つも映し出されている。

「これは…異人町…?」


これが、コミジュルのシノギ。
初めて見た…。


モニターが一望場所に、ソンヒさんが立っていた。
誰かと電話をしている。

「総帥」

男性が声をかける。
ソンヒさんは電話を耳に付けたまま、私を見た。

「樱花、お前と話したいそうだ」
「え?」

そう言ってソンヒさんは私にスマホを渡してきた。

「あの…誰でしょうか?」

小さな声で訊ねた。

「荻久保だ」

同じ位の声色でそうソンヒさんが返してきた。

「荻久保 豊…?」
「時間が無い、樱花」

念を押すように名前を呼ばれ、私はソンヒさんからスマホを受け取った。

「も…もしもし…」
『…君とは初めて話すな』
「はい…」

通話の向こうに、荻久保 豊が居る。
突然の機会に上手く言葉が出てこない。

『…君のお爺さんには世話になった』
「…はい」
『生きる世界が違うせいか、会うことは中々無かった。酒を呑んだのも、3回だけだ』
「はい…」
『それでも…私には親友と呼べる奴だった』
「荻久保さん…」
『あいつの意志を、継いでくれたことを感謝する。それを直接伝えたかった』


初めて話す荻久保 豊の声。
言葉の端々から、祖父との関係を大切にしてくれていたことが伝わって来る。
どうしたらこの異人町に平和にすることが出来るのか。
どうすれば争いが無くなるのか。
祖父と荻久保 豊が懸命に生きた時代、それがあるから今の異人町がある。


「…そう言って頂けて、祖父も喜んでいると思います」
『…そうだと良いな。…代わってくれ』
「はい」

荻久保 豊に返事をして、ソンヒさんにスマホを返した。
ソンヒさんがまた、電話の向こうの荻久保 豊と話し始める。


…どうして、今荻久保 豊と話を…?
このタイミングで、私と話をする意味って…?


扉が開く音が聞こえ、私はその方向を見る。

「…え?」

ジュンギさんが、思わぬ人を連れていた。



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