お揃いまであと少し 「さっきのお部屋とこっちと、どっちがいいかなぁ」 『結構悩むなぁ…こっちのが広いんやけどなぁ』 「でも、こっち駅から結構あるんだよねぇ」 新しい街の不動産屋の一角、間取り図ってのを見ながら、名前が悩んでいる。正直どっちでもええなぁ、名前と暮らせるんやから、ってのが本音。どっちも悪くない間取りやし、まぁでも夜道歩かせるのはあかんかなぁと口を挟む。 『やっぱ駅近い方がええんやないかな、綺麗やったし』 「そうだよねえ…、じゃあこのお部屋にします」 名前がふどーさんやさん(噛みそうやな、俺は噛まんけど)ににこにこと指差したのは駅近の物件。あとは契約…って、なんや、保証人とかなんとか、名前が全部やってくれたけど色々あんねやな。もう言われたままに書類を眺めるしかできることがあーへん。 「大吾くんはここにサインとハンコね。あの、同居人の欄って……」 〈ああ、それでしたら……〉 俺名前になら騙されるかもしれへんなって思いながら判子を押した。実家から出てないからなんもわからへん。 でも今回覚えた…と思うから、次の時は任せてくれって名前に親指立てたけど、大丈夫かなって顔された。 俺やってやればできる子やし。…多分。 書類の頭をみると、家主、西畑大吾。同居人、苗字名前。続柄、婚約者。 家主って責任重大やんな、俺。ていうか婚約者よ婚約者、まぁな、もうすぐ妻って書かせるんやけど。それなら世帯主のほうが責任重そうあなぁなんて浸っていたら、書類を提出し終わった名前が席を立つ。苗字西畑に今すぐしに行く? 「ほら大吾くん、寸法はかりにいくよー」 『寸法?なんのなん?』 「間取りの!家具とかカーテンとか、今日このまま買いに行くでしょ?別日設けるの大変だし」 そうやった。でもメジャーもなんも持ってない思ったら、名前がちゃあんと用意しとった。さすが名前先輩、仕事ができる。…あれ、俺いいとこなし?どこか頑張れるとこがあるだろうか、そう思いながら席を立った。 おうちの寸法も無事測り終わって、家具の量販店でお買い物。名前が買い物リスト作ってくれとったけど…こんなたくさん買うん? 新生活は物入りとはいうけれど、ほんまなんやなぁ。一人暮らししとった名前の家から持ってくるものもあるっていうとったけど、それだけじゃたりひんもんやなぁ。 「えーっと…ソファーでしょ、ローテーブル、カーテンと…」 『とりあえずソファー選ばへん?』 「そうだね、大きいものから選んでいこうか」 売り場なんて今までそんなに見とらんかったけど、ソファーってこんな種類あったんやな。色も形もそれぞれで、絞るのも大変やなぁ。大きいのはさっきの部屋におさまらへんくらいのもある、ちょっと欲しくなってきた。 「2人用か、2.5人用か…」 『これやと寝転べそうやん、どうなん』 「あ、これならちゃんとおさまりそう」 『試しに座ってみる?』 うん、と頷く名前と並んで座る。ちょっと名前が遠い気がするけど、寝転ぶと思うと大きい方が良さそうやなぁ。大きいと圧迫感あるかなぁとか名前が悩んどるけど、大は小を兼ねるって言葉もあるわけで。 別にそういうこと考えてへんで? 『俺はこっちのが好きやなぁ』 「そっか、じゃあこっちにしよ」 品番の写真は俺が撮っとこ、とぱちり。この後写真フォルダえげつないことになるんやけど、まぁしゃーないよな。 そのまま隣にあったカーテンコーナーで悩みまくる名前。柄だけやなくて長さとか幅とか、えらいよーけあるんやなぁ。 あっちへぱたぱたこっちへうろうろした名前が、これ、と決めたのはさすがのセンスで、俺は名前のいう通りに写真を撮る。正直俺要るかなって思ったけど、名前が楽しそうに笑っとるからええかぁ、なんて。 広い店内を歩き回って脚も疲れた頃、「大吾くんはベッドどうする?」なんて名前はベッドコーナーを指す。 『え、俺?』 「うん、私は今までのがあるからさ。どうするのかなって。大吾くんのはいっそセミダブルとか……」 『なあ待って、一緒のベッドちゃうん……?』 今日一番の衝撃やでお姉さん。なんやったら俺、名前のベッドでそのまま一緒寝てもええんやけど。名前はそれには首を振る。 「疲れ取れないよ、シングルに2人なんて。シングル2つ並べればいいと思うけど、だめ?」 『えー……俺名前と一緒に寝たいんやけど…』 あかん?と首の角度と声、表情を調整。 俺の必殺、おねだりモード。これ、名前が弱いって知ってて使っとる。年下のカワイイ、は使うべきやんな? それを見た彼女は、うー、と悩んで、息を吐いた。 「——っ、もう、仕方ないなぁ、」 『ありがとな〜』 多分今、俺満面の笑みってやつ浮かべてると思う。 ウキウキとダブルの方向かうと、名前は隣のクイーンサイズのコーナーを指差した。 「せめてこっちにしない?2人で寝てもちょっと余裕だし…」 『えー、部屋狭なるやん?』 それはどっちでもよくて、名前とくっついて寝たいだけやけど。20センチの差くらい、間取り的には問題無いはずやけどさ、俺は一緒におりたいんやもん。 名前は安眠がどうとかなんとか言っとるけど、俺は名前が隣におったらぐっすりやからええと思うんやけどなぁ。 意外と折れてくれへん名前が腕を組んでちょっと渋い顔。 ちらっと上目遣いでこっち見るの反則やって、そんな可愛い顔でみられたらしゃーないなぁ。さっきの仕返しなんかな。 しぶしぶクイーンサイズの写真を撮ったら、満足そうな名前が腕絡めてきよった。まぁええかそのくらい。俺がくっつきに行けばええ話やし。 最後にキッチン用品を選び終わると、さっき俺が撮った写真を見ながら配送手続きをする。……ちょっと会計が、婚約指輪ほどやないけど結構な金額。てか今日、名前指輪つけてへんやん、ちゃんと名前が欲しいって言ったやつ買ったんに。どうしたんあれは。 「あぁ、だって家具屋さん見るだもん、あれこれ触るから指輪に傷付けたくなかったの。今つけるね」 疲れたね、と家具屋近くのカフェでソファーに沈んだ名前が、鞄からパカってする箱(リングボックス!って言われた、覚えられへん)を取り出して、左の薬指に指輪を嵌めた。 照明に当たって光るそれを満足そうに眺める名前。 人生でいっちゃん高い買い物やったな。でも、それで名前が手に入るんやったら安いもんやしな。 俺は手に入れたいもんは、なんとしても手に入れたいタイプやねん。みんなの憧れの苗字さん落とすん大変やったわ。付き合っとるっていったときのブーイングが懐かしい。 「そうだ、買うものの写真、いっぱい撮ってくれてありがとうねー。さっき助かったよー」 『せやろ?もっと褒めてくれてええんやで』 「よっ、できる男〜!」 この一言で、今日俺いてよかったなぁなんて思えるから、随分単純やな俺は。入籍まであと何日やっけ、はよ一緒に暮らしたいなぁ、名前と一緒なら楽しいんやろなぁ、なんて美味しそうにショートケーキを食べる名前を眺める。 …ドレスのサイズのこと、いうたらあかんのやろなぁ。 『今日、楽しかったなぁ』 「うん、楽しかった。…これから楽しいこといっぱいだね」 『せやなぁ。はよ苗字お揃いにしたいわぁ』 彼女の苗字が西畑になるまで、あと少し。 ←back |