小さな悪戯、大きな後悔



「今年も海、見ないまま終わっちゃったなー」
『名前、そんなに海好きやっけ』
「入るのは好きじゃないけど、眺めるのは好きだよ」

海水でベタベタするのはあんまり好きじゃないけれど、ぼんやり海を眺めるのは好き。そう告げると、へえ、と海より野球の丈くんはあんまり興味がなさそうな返事をしたけれど、

『あれやったら、今から見に行く?』
「今から?夜になっちゃうよ?」
『夜の海もええんやない?ほら、名前日光嫌いーとかいうてるやん、夜ならないで』
「……なるほど」

丈くんにしては珍しい提案をしてきた。せっかくだしと頷くと、丈くんはサッと上着と車の鍵を手に取る。どうせ夜だしマスクつけるし、適当でいいかと私もカーディガンを羽織ると、丈くんの手を取った。

乗り込んだ車のラジオは、今からお帰りの皆さんお疲れ様です、とかなんとか告げていて、私たち今から出かけるんだよね、と顔を見合わせて笑う。途中のコンビニでお茶にコーヒー、おやつとカゴに入れて

「いまのうちにお手洗い借りてくる、あと頼んでいい?」
『ええよ、俺先に車で待っとるわ』

行ってき、とレジに向かう丈くんを横目にお手洗い。ついでにちょっと雑誌も……ってだめだ、表紙だけチラ見しよう。あの付録がついたやつは今度買おうかな。お待たせ、と助手席に戻ると、丈くんは袋の中からお茶を手渡してくれる。優しいなぁ、と受け取って一口飲んだ。


『名前、あっち海見えるで』
「えっどこどこ?」
『ほらあそこ』

景色を眺めてどのくらいだろうか、丈くんが窓の外を指差す。どこだ?と運転席の向こうを見ようとして……ペットボトルの蓋が開きっぱなしなのを忘れていた。大量ではないけれど、あふれたお茶が丈くんの方に少しかかってしまう。

「ごめん、すぐ拭くから」
『や、ええて、別に』
「よくないって、タオルあったっけ?」
『……後ろに積んだるけど』

いろんなグッズが置きっぱなしの後部座席、割と手に取りやすいところにあったバスタオルを手に取る。胸の下あたりからズボンの方まで、かるくぽんぽんと水気をとっていって……、気づいてしまった。だんだんと、触れるそこが固くなってきていることに。

丈くんの方を見あげると、平然と運転しているように見えるけれど、心なしか顔が赤い。信号待ちを狙って、わざとそこを擦るようにタオルで拭く、というか……悪戯?
 
『こ……、ら、名前、なにやってん、』
「えー、私親切に拭いてるだけなんだけどな?」
『アホぬかせ……っ、ま、待てって、なぁ』
「んー?あ、信号青になったよ」

もうあらかた水分は取れただろうから、バスタオルは一旦回収。もう目でみてわかるくらいに膨らんだそこに悪戯心は止まらなくって、ズボンの上から触っていく。

根元から先端まで、先端を指先でいじっては手のひらで全体を包み込んで、ほら丈くん、もう辛くない?
そんな顔で見上げれば、丈くんは震えた声で、

『……直接、触ってくれへん、』

そう告げるものだから、優しい私はベルトを外して、チャックを下ろしてあげた。途端に元気に頭をもたげる丈くんのそれを下着越しに触っていると、開口部から触って欲しそうに先端が出てくる。熱を持つそこに触れると丈くんから声が漏れた。
 
『っ、くっ、やば、』

先走りを指に絡めて、芯を持ちはじめたそこを撫でて、さすって、手のひらで掴んで。車が動いてるときは緩く、止まっているときは激しく上下に扱いて……、ダラダラと垂れる先走りで下着も濡れて、お茶よりもずっとひどいんじゃないかな?なんて。

『あかん、どっか停めるわ、』

車が曲がると、どこかに停められて、サイドブレーキが引かれた。つまりここはどこかの駐車場ということで、ちょっと視線を上げると海岸が見え――すぐに頭を押さえられた。

『舐めてくれるんよな?名前』

低く、有無を言わさない口調。シートベルトは丈くんによって外されて、身を乗り出すと先端を口に含んだ。しょっぱい先走りの味が口の中に広がっていく。もうすっかり硬くなった全体を舐めて、先端を吸い上げて、根本を手でしごいて……、裏側を舐め上げると、熱い息が上から落ちてくる。

いつもと違って横からだし、うまくできているわけでもないと思うけれど。深くまで咥えこむときに軽く頭を押さえつけられて、余裕がない時の動きだな、なんて考えて…、ちょっと興奮したなんて、丈くんには内緒。

『っ、も、ええわ、顔上げ?』

手を退けられて、はち切れそうなくらいに膨れた丈くんのものから口を離す。そのまま乱暴に口付けられて、頭がぼうっとする。もし誰か見てたらどうしよう、ようやくそんなことに思い至って、身体を離そうとするも、丈くんは許してくれない。

『こっち、席倒すな』
「えっ、まって丈くん、なにを、」
『何ってナニやん、俺のこんなにしといて、責任取れな?』

ガタンと倒された助手席の背もたれ。口に出されないなと思ったのはそういうことか……、でも、と逃げ道を探して

「ごっ……、ごむ、ないじゃん?よくないと思」
『さっきコンビニ寄ったやろ、ちゃんと買うといたわ』

そういえばさっきお茶を手渡されたけど、袋は見えなかった。はいっていることをごまかすため?というかなんで買ってるの。もしかしてドライブって言った時から……?

「でもっ、周りから見られるかもだし」
『真っ暗にしとったら見えんて。だいたい……、名前やってここ、このままでええん?気持ち悪ない?』

スカートを捲り上げられた奥に丈くんの指が入り込む。小さく水音がして、ほら、言いたげな丈くんの顔。運転席から助手席に移ってくる丈くんに押し倒される。スカートを捲り上げられて……、もう後に戻れない、拒否しなきゃと思うのに下着を取り払われる手を拒めないまま、

『ええやろ?』

小さく頷くと同時に入ってくる丈くんのものが、わずかに残った理性を犯していくみたいだ。何度か腰を動かされればスイッチが入ったみたいに気持ちよくなって、声が漏れる。

『慣らしてへんのに、すぐはいったやん。俺の舐めて興奮してたん?』
「そんなわけっ……、」
『じゃあ、どうしてこんな音出てるんやろな?』

狭い車内、音はすぐに反響して自分の耳に入る。それに、いつもより密着しているものだから丈くんの声が耳元で聞こえて、何も考えられなくなって、ただ丈くんの背中に腕を回した。誰かに見られるかもしれない場所で、最低限だけ乱された服で犯される。普段なら絶対に許さない状況なのに、どこか興奮している自分がいる。少しの悪戯心が、こんなことに。
 
丈くんも始めは揺れを気にしてか小さな動きで、それも慣れてないナカには気持ちよかったのだけど……、だんだんと大きな動きになって、奥にガツガツと当たるようになる。
そうなればもう、快楽に抗うことなんてできなくて、ただ丈くんからの刺激に翻弄されるだけ。お互いに達する頃には、何も気にならなくなっていた。


ただし、正気に戻るまで、だけれど。

「丈くんのばか」
『や、最初ちょっかいかけてきたん名前やし』
「知らない、ばか、海みたいだけだったのに!」
『ごめんてほら、海まで来たやんか』
「もういい丈くんとドライブなんてしない」
『え、それはやめろって、なぁ』






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