煉獄様、と掛けられた言葉に足を止める。
振り向けばおずおずといった風で畏まる少年が立っていた。年は自身と同じか、少し下か。見慣れた隊服を着ているのを見ると同じく鬼殺の隊士だろう。
「うむ!俺に何の用だ?」
「煉獄様は、」
「俺は柱でも何でもないのでそんなに畏まらないでほしい!」
では、お言葉に甘えて、とひとつ断りを入れて少年は躊躇いがちに口を開いた。
「…煉獄さんは、名字の恋人か、許嫁…、なのでしょうか?」
予想だにしない問いに思わず僅かに言葉に詰まる。
「いや、どちらも違うが…」
「本当ですか!?」
喜色に染まる顔に、腹の奥が冷たくなる。
恐らく、彼は彼女に想いを寄せているのだろう。
失礼します、と丁寧にお辞儀をすると彼は一目散にどこかに駆けて行った。
あの子の所だろうか。そう思うだけで胃に鉛が入っているようだ。
***
その少年とはその日から遠くなく再会した。
生憎にも名前も同伴の任務。あれ程潑剌としていた彼は力無く横たわっている。
「名字、」
「もう、無理に話さない方がいい。」
名前が傷口に当て布をし、止血の為圧迫する。しかしそれでも止めどなく流れ出る赤いそれに、恐らく助からないだろうという事は二人にも、そして本人も理解していた。
保っても数分。
名前の静止を聞かず彼は口を開く。
「俺は、…俺は、あなたが好きです…」
ドクンと煉獄の心臓の鼓動が嫌な風に跳ねた。
名前を見ると驚愕からか目を見開いている。
「一緒にいると、暗闇で灯火を見つけたような、心が暖かくなるような、…あなたの、不器用な…、優しさが好きでした…」
「私、私は、…」
名前が言い淀む。
嫌だ。やめてくれ。
冷や汗が噴き出る。どろどろと暗いモノが心から溢れ出るようで、自身の中にこんな激情があったのかと密かに驚いた。
僅かに頬を朱に染めるのに、胸が千切れるよう。
触れるな。この子は、
「そういう、所、が、好きだ…」
名前の様子に苦しげに彼は微笑む。拒絶も、心のない肯定もどちらを選んでも彼を傷付ける。だからこそ言い淀む彼女の意図を汲んでの事だ。
煉獄は羨ましいと思った。
自分も言えたなら。名前に好きだと何の後ろめたさも、失う恐怖も無く。
「苦しめ、たかった…わけじゃない…。ただ、つ、たえたかった…。すみ、ま…」
つう、と一筋涙が頬を伝い、言葉が途切れた。名前が虚ろな瞳に手をやり、目蓋をそっと閉じて俯く。
その小さな背中に煉獄は肩を抱いてやる事しか出来なかった。