緊張で強張る少女の肩を煉獄は宥めるように叩いた。

「そう緊張するな!」
「は、はひ!ええと、」
「師範と呼んでくれ!」

煉獄が明朗に笑う様に甘露寺の緊張は少し解けたようで同じく微笑む。
自分が自分のまま役に立つ事、ありのままで居られる場所を探して鬼殺隊士へなる道を選び、育手の煉獄の所へやってきた。

「甘露寺。」

もう一度聞く、と煉獄は甘露寺を見つめた。どこを見ているか分からない双眸が甘露寺に向く。

「君が決めた道は辛いぞ。鍛錬は血反吐を吐く程厳しい。」
「…っ、はい!」
「剣士になって終いではない。そこからだ。先日まで笑い合っていた仲間が次の日には亡くなっている事もある。」

ごくりと唾を飲み込む。臆するのは当たり前だ。今まで死とは遠い場所にいた少女なのだ。

「それも覚悟の上です!どうか私を鬼殺隊の剣士にして下さい!!」

迷いのない瞳に煉獄は微笑む。この瞳を煉獄はよく知っている。きっと彼女も強くなる。その確信が自身にはあった。

「暫くはこの屋敷で過ごしてもらう。」
「広いお屋敷ですねえ。」

長い廊下を歩んでいた際、縁側に出た。その先に背の高い男性が一人、あとは自身と同じ年頃の少女と煉獄に似た幼い少年が何やら話している。鍛錬だろうか。其々木刀を手にしている。じっと見つめていると少女が振り返った。ぱちりと視線が合うと大きく目を見開いてこちらに駆け寄って来た。少女の険しい面持ちに甘露寺は煉獄の背に隠れる。

「其方の女性は、どなたですか?」

緊張した声音に、後ろめたい事など何もないが何か悪い事をしたような気持ちになる。

「いや、名前これは、」

しかし言葉を続ける前に彼女はぱあぁっと破顔した。

「とうとう奥方を迎えられたんですねっ!」

おめでとうございます、と庭から縁側に上って煉獄の手を握る。
帷は遠くを見る煉獄が不憫でならずかぶりを振った。
すまない、妹はこういう子なんだ。
煉獄の手を離し嫁入りと勘違いされて赤面する甘露寺にキラキラと目を輝かせる名前。

「はあー!お綺麗ですねえ!!素敵な髪です!私、名字名前と言います。宜しくお願いします!お嫁様のお名前は?」
「あ、あの、私は甘露寺蜜璃です。けど、その、私、鬼殺隊に入りたくて、」

だから、お嫁さんとかではなく、としどろもどろ事情を話していくと、段々しょんぼりとしていく名前に甘露寺は心が痛んだ。煉獄も同様である。こほんと咳払いをして帷が間に入る。

「はじめまして。俺は名前の兄だ。帷と言う。こちらは杏寿郎の弟の千寿郎。宜しく。」
「宜しくお願いします。」
「うわあ、師範にそっくりですね!」
「帷殿と名前は鬼殺隊士だぞ。」
「えっ!?」

甘露寺は目を剥く。華奢で可愛らしいこの少女も鬼を狩ると言う。袖から覗く腕も細いのに。
甘露寺の視線に名前は苦笑する。

「でも私あんまり強くないんです…。すぐ杏寿郎に追い越されてしまって、」
「そんな事はない!君も十分強いと思うぞ!!少しは俺に守らせてほしい位だ!!自分を卑下するな!!」

間髪入れない言葉に名前は目を瞬いた。

「ありがとう。」

照れくさそうに柔らかく笑うのに、一瞬隣の煉獄が愛おしそうに目を細めた。

あ、と甘露寺はもう一度煉獄を見るが先程の眼差しは跡形もなく。

「甘露寺。寄り道をしてしまったな。君の部屋に案内しよう。」
「は、はい!」
「甘露寺さん。」

名前がちょいちょいと手を小招く。甘露寺は少し屈んで小さな声に耳を傾ける。

「多分すごく鍛錬は辛いと思うけど、さっきみたいに杏寿郎は優しいから。辛い事は全部あなたを死なせない為だから。だから頑張ってね。」
「…っ!うん!私頑張るね!!」

甘露寺は満面の笑みで手を振り随分と先に行ってしまった煉獄の背を一生懸命追いかける。

名前の言う通り彼、煉獄杏寿郎は思いやりが深い人だろう。それは既に感じている。けれど、と彼女は思う。
さっきのは優しいとは違う気がする。恋の予感に胸がドキドキと高鳴った。

前へ / 次へ
戻る
top