正義を貫いてこそ一人前だって田舎の母ちゃんが言ってた

「お邪魔しまーす」

子どもたちを引き連れて万事屋の扉を開ければ、ちょうど帰るところだったのか総悟が驚いたように目を見開いた。

『おい名前、ちゃんと見張ってろって言っただろィ』
「だからここまで無事に送ってきてあげたでしょうが」
『そういう意味じゃねェよ。これだから馬鹿は』
「一般市民巻き込む馬鹿よりマシだと思うけどね」
『に、兄ちゃん!…兄ちゃんに頼めば、なんでもしてくれるんだよね?』
『なんでもしてくれる万事屋なんだよね?』
『お願い!先生の仇討ってよォ!』

椅子に座る銀ちゃんに向かってそう言うと子どもたちは一斉に泣き出した。その姿を見た神楽と新八くんも困ったように視線を逸らす。すると一人の男の子が前に進み出た。

『コレ、僕の宝物なんだ』
『お金はないけど…みんなの宝物あげるから。だからお願い、お兄ちゃん』

宝物だと言うキラキラ光るシールを机の上に置いた男の子を筆頭に、広げた風呂敷からはたくさんのおもちゃが出てくる。

『僕知ってるよ。先生、僕達の知らない所で悪い事やってたんだろ?だから死んじゃったんだよね?でも、僕達にとっては大好きな父ちゃん…立派な父ちゃんだったんだよ…!』
『…おいガキ』
『?』
『コレ、今流行りのドッキリマンシールだろ』
『そうだよレアモノだよ。なんで兄ちゃん知ってるの?』
『知ってるもなにもオメー…俺も集めてんだよ、ドッキリマンシール』
「銀ちゃん…」
『コイツのためならなんでもやるぜ。あとで返せっつってもおせーからな』
『兄ちゃん!』
『ちょっ…旦那!』
『銀ちゃん本気アルか?』
『酔狂な野郎だとは思っていたが、ここまでくるとバカだな』

玄関の前で壁に背中を預けていた土方さんは神妙な面持ちで銀ちゃんに目を向けた。

『小物が一人刃向かったところで潰せる連中じゃねーと言ったはずだ。死ぬぜ』
『オイオイなんだ。どいつもこいつも人んちにズカズカ入りやがって…テメーらにゃ迷惑かけねーよ。どけ』

懐にシールをしまいながら面倒くさそうに頭を掻く。

『別にテメーが死のうが構わん。ただ解せねー。わざわざ死にに行くってのか?』
『行かなくても俺ァ死ぬんだよ。俺にはなァ、心臓より大事な器官があるんだ。そいつァ見えねーが確かに俺のどタマから股間をまっすぐブチ抜いて俺の中に存在する。そいつがあるから俺ァまっすぐ立っていられる。フラフラしてもまっすぐ歩いていける。ここで立ち止まったら、そいつが折れちまうのさ。魂が折れちまうんだよ』
『…己の美学のために死ぬってか?とんだロマンティズムだな』
『なーに言ってんスか?男はみんなロマンティストでしょ』
『いやいや女だってそーヨ、新八』

そう言いながら神楽と新八くんがおもちゃを漁り始める。

『それじゃバランス悪すぎるでしょ?男も女もバカになったらどうなるんだよ』
『それを今から試しに行くアルヨ』

ピロピロ笛とぞうのおもちゃを取り出した二人は銀ちゃんの後に続いた。

『どいつもこいつも、何だってんだ…?』
『全く、馬鹿な連中ですねィ』
「でもそれが万事屋なんですよ、きっと」

私の隣にいた総悟が変装グッズを手に取るのを見て広げられたおもちゃの中から綺麗な青色のおはじきを取り出す。

『こんな物のために命かけるなんて馬鹿そのものでさァ』
『全くだ、俺には理解でき…って、お前ら何してんだ!』
「やだな土方さん、女の子に行き先尋ねるなんて野暮ですよ」
『すまねェ土方さん。俺もまたバカなんでさァ』

携帯を取り出して連絡先を開く。

「もしもし神山?悪いんだけどすぐに一番隊と十番隊招集して。あ、くれぐれも他の隊士たちには内密で。よろしくね」

ポケットに携帯を仕舞いながら、呆れたように頭を抱える土方さんににっこりと笑う。

「でも、ここにいるのはそんなバカばっかりですもんね」

くるりと振り返って子どもたちに笑いかける。

「よーし!それじゃみんな、あとは私たち大人に任せて」
『お姉ちゃん…』
『無事に帰って来てね!』
「お姉ちゃんこう見えて結構強いから大丈夫。じゃあみんな、しばらくここでお留守番しててね」

急いで玄関を抜けて三人の姿を探す。

「銀ちゃん!」
『あん?何だァ名前、今更止めても遅いぜ』
「違う違う、これ渡したくて」

追いついた銀ちゃんに懐に仕舞っていた鬼の仮面を取り出す。

『証拠品持ち出したァ、お前も中々だな』
「残念だけど証拠にはならないよ」

あの日亡くなったのは人を斬り続けた鬼じゃなく、心優しいただの父親なのだから。





「――ねえ、アンタがここの支配人?」
『!』

突如煉獄関に現れ、派手な立ち回りを演じた三人の鬼を前にして苛立ちを隠せない様子の眼帯の男に背後から近付く。

「理解できないって顔してるね」
『そりゃそうだろ、今時弔い合戦なんざ。得るものなんざ何もねェ。わかってんだよんなこたァ。だけどここで動かねェと、自分が自分じゃなくなるんでィ』
「生憎こちとら損得勘定で動いてないんで、悪しからず」

総悟と並んで刀を抜けば男は忌々しそうに顔を歪めた。

『て…てめェら、こんな真似してタダで済むと思ってんのか?俺たちのバックに誰がいるか知らねーのか』
「さあ?全然わかんないや」
『一体誰でィ』

その言葉を合図に、既に到着していた三十人余りの真選組隊士たちが切っ先を向ける。

『僕たち真選組だよ〜』
「あーらら」
『おっかない人がついてるんだねィ』

そこでようやく自分たちの置かれている状況を理解したのか、眼帯男の側にいた天人たちが一気に青ざめた。

『ッヤベェ幕府の犬だ!』
『ずらかれェ!!』

慌てて逃げ出す観客に肩を竦めながら刀を収めれば、観客席の上部で編み笠と外套を羽織った人物が踵を返すのが見えた。

「天導衆…」

大方あの男が今回の黒幕だろう。だが今ここで深入りすれば今度こそ無事では済まない。

『容疑者確保!』
『あ?』

その声を合図に、一仕事終えたと言わんばかりの顔で出口に向かおうとしていた銀ちゃんの両サイドが固められた。前に立った原田隊長がおもむろに懐に手を入れる。

『お前を違法賭博関与の疑いで逮捕する』
『………え?』

両手首に回された手錠を見下ろして目を瞬かせた銀ちゃんはまるで油の切れたロボットのような動きで原田隊長を見た。

『え…いや、あの…え、なにこれ』
『手錠だ』
『いやそれは見りゃわかんだよ、何で俺がこれ付けられたのかって聞いてんの』
『現行犯だからだ』
『…名前ちゃん…?』
「…17時35分、容疑者確保」
『よし、連れていけ』
『うっ…嘘だろォォォォォォ!?』

銀ちゃんの絶叫が煉獄関に響き渡った。

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