とある仙女の照れ隠し
「やあ、名前殿」
「…背後に立つのは止めろと言ったはずだが」
「これは失礼。美しい貴女が見えたので、つい」
何がつい、だ。心の中で盛大にため息をついた名前は眉間に皺を寄せた。
振り向けば案の定、魏軍の享楽軍師こと郭嘉が立っている。
穏やかに笑う彼に反して彼女の心中は決して穏やかではない。
「貴様は何故そうも私に構うのだ」
「貴女に興味があるから、かな」
「仙人とて今は珍しいものではないだろう。現にかぐやも女カもいるではないか」
もっとも、かぐやに手を出すというのであれば私も容赦しないが、と付け加えればにこりと微笑まれる。
「彼女には怖い姉上がいるからそう簡単には手を出せないさ。それに興味があるのは仙人ではなくて…貴女なんだけどな、名前殿」
さらりと背中に流していた髪を掬われ肌が粟立つ。思わず得物を掴みそうな手を何とか押さえこんだ。
「…成程。女カが嫌悪するのも頷ける」
「おや、それは残念だな。けれど私は貴女にさえ意識してもらえればそれで構わないよ?」
「そのような戯言に付き合う暇はな…ひっ!?」
瞬間、するりと腰に触れる温もりに驚いて声を上げる。慌てて身を捩るもがっしりとした手に固定され抵抗は無意味に終わった。
「貴様っ…何して!」
「うん、やはりこの感性には惹かれるね」
「な、ちょっ…!!」
素肌を弄る手つきに意図せずとも声が漏れる。肩を抱かれて長い指先が厭らしく首筋を撫でればぴくりと反応してしまう。
「っ…」
「仙人とはいえ、身体は人間以上に素直なようだ」
吐息で喋るな…!と目で訴えかけるも彼は満足そうに笑うだけ。しかし内股に手が降下した瞬間、ハッと我に返った彼女はついに真っ赤な顔で叫んだ。
そして。
「このっ…変態軍師がああぁぁ!!」
「!?」
盛大な雷(物理)を落としたのだった。