秋目前の熱
やっと暑さもひと段落してきた頃。それでもまだまだ陽の光は強くて、毎日の服装に悩むのはこの時期ならではなのだろう。
節約生活を余儀なくされているこの寮内は、冷房など付けられるわけもなくうちわで扇ぐ他ないのだ。
「あー暑い、はやく寒くならないかなぁ」
「はあ?夏がいちばんだろ」
「夏も好きだけどさ」
夏も好き、それは本当。ただこの蒸し蒸しとした暑さと、彼の監督をみる熱のこもった瞳がほんの少しだけ苦手なのだ。
「天馬は若いから、おばさんの気持ちはわからないんだよ」
「普段おばさん扱いすると怒るくせに、よく言うよな」
彼が監督を好きだっていうのはわかってるし、こんな恋にも満たない気持ちをどうこうしようとも思っていない。いつの間にか大人になったはずなのに、こうやって自分自身に言い聞かせないと気持ちを整理できない自分に笑えてくる。
「ねえねえ、天馬は監督にどう思われてたら嬉しい?」
「…はぁ?!いきなり何だよ?!」
「いいからいいから。おばさんに言ってごらん」
それでも、彼がどう思っているのか気になってしまって、また自分の首を絞めるようなことを質問する。
そんな突然の問いに慌てふためいてる様子を見て、ふふっと笑ってしまう。彼の初々しい反応がかわいくて、ついいじめたくなってしまうのだ。
「そ、そりゃあもちろん…」
なにかを言いかけた、聞きたいけど聞きたくなかった返答は、夏組の子の声でかき消されてしまった。
「ちょっと。監督がまだ買い物から帰ってこないから迎えに行ってきてよ。」
「なんで俺が!お前が行けばいいだろ!」
「はぁ…せっかくこうやって監督にアピールできる機会を与えてやってんだからさ、さっさと行きなよポンコツ役者」
めんどくさいと言いながらも、そわそわ今すぐにでも出て行こうとしている彼がどうしようもなく眩しくて、胸が痛くて少し目をそらした。
案の定、幸くんに促された彼は小走りで寮を出て行った。彼が監督に好意を寄せてるのをみんなは知っているし、奥手な彼をみんなが助けているのも知っている。そんな中、無謀にも彼に気がある私はどんな悪役なのだろう。
だけどこれでいいんだ。彼の幸せそうな顔が見られるだけでこんなにも胸が暖かくなるんだから。
「あんたも大変だね」
そう言った幸くんの言葉に少し泣きたくなった。
はやく気温も寒くなって、この気持ちも冷めてくれれば楽なのにな。