たぬきは彼に喜んでもらいたい
船から降りてきたあの人を見つけてすぐにでも駆け寄りたい気持ちを抑えてその場で待つ。
「なんか呼ばれたんだけど、どうした?」
あの人はどうして呼ばれたのか分かってないみたいで、たぬきの事を不思議そうな顔をして見てる。
見たことないやつがいるって思ってるんだろうな。
「この子がエースに助けられたお礼をしたいんだって」
頭にパンを乗せた人がそういうと、あの人はますます不思議そうな顔をした。
「助けた覚えねえけど」
「え、覚えてねーの?」
あの人とパンの人がこちらを見たので口を開く。
「あの、助けてもらったの。それはホント。でも、助けてもらった時と・・・ちょっと見た目違うから分かんないかも」
たぬきって事がバレない方がいいと思ってこういう言い方にしてみた。
嘘はついてない。
「そうか?思い出せなくてわりぃな」
「あの、お礼、もらってくれる?」
「うーん、思い出せないのに貰うのもな〜」
「でもすっごく助かったの。命の恩人」
「そんなにか?じゃあ、ありがたくイタダキマス」
一瞬貰ってくれないかもと思ったけど、やけに丁寧な仕草で頭を少し下げると優しく受け取ってくれた。貰ってくれないかと思ってドキドキした。
私が選んだ木の実、喜んでくれるかな、なんだかそわそわしちゃう。
箱を渡すと「開けていいか?」と聞かれたので頷く。
するすると紐がほどけていって、箱が開く。
「どんぐり?と、骨が入ってる・・・」
「木の実ときのこもあるよ!」
このどんぐりはね〜とどれだけまん丸でぴかぴかで良いやつか説明しようと顔を上げると、すごい、なんか変な顔で見られてた。
あれ?なんか、全然喜んでる顔じゃない。
もっとわーすごーい!みたいな顔を想像してたのに。
誰も何もしゃべらなくなって、なんかまずい事したんだなって分かった。
「えと・・・まちがっちゃった!違うの持ってくる!」
パッと箱を取り返して、走り出す。
足が痛くてぴょこぴょこした不恰好な走り方しかできないけど気にしてる場合じゃない。
無我夢中で山の麓の方まできたところで走るのをやめた。
思い出すのはあの人の驚いたような、困ったような、なんか変な物を見たような顔。
「どんぐり、好きじゃなかったかな・・・」
立ち止まり、一生懸命選んだ物たちを眺める。
ぴかぴかのまるいどんぐりは見つけるの難しいし、きのこと木の実はホントに美味しいやつを選んで取ってきた。
骨は・・・たぬきが好きだから入れたけど。
ニンゲンの雄・・・男は何が好きなんだろう?
あの人に受け取ってもらえなかった物たちが急につまらないものに見えてきてその辺にほっぽった。
箱と紐は煙が出て石と蔦にもどった。
「ニンゲンの事はニンゲンに聞いてみようかな」
ちょっと失敗しちゃったけど、次は気に入ってもらえるものを選ぼう。
***
街を歩いているとすぐにニンゲンの男に声をかけられたので、その男にニンゲンの男はな何をもらったら嬉しいか聞いてみた。
そしたら宝石(ピカピカした透明の石のことだって)とかお金とか家が貰えたら嬉しいって言われた。
家はちょっと難しいけど、宝石とかお金ならなんとかなるかな。
家が欲しいって言われたら・・・また考えよう。
ニンゲンの男にご飯とホテルに行こうって言われたから着いて行った。
そういえば、たぬきに話しかけてくる男はみんなご飯とホテルに行きたがるけど、これはあの人は喜ばないのかな?
ホテルから出て宝石を売ってるお店で1番良いやつくださいって言ってみた。
お金がたくさんいるって言うから一度山に帰ってたくさんの葉っぱをお金に変えて持って行った。
そしたら最初は冷たかったお店の人もお金を見たら優しくしてくれて、宝石を売ってくれた。指輪、って言うらしい。
すぐにあの人のいる船に向かったら、ちょうどあの人が船から降りてくるところだった。
パンの人も一緒。仲が良いんだね。
「あの!」
「あ、お前この前の・・・」
「今日は別の物持って来たの」
そう言って指輪を見せると2人ともものすごく驚いた顔をした。
「え!?でっか!!これ本物か?すげぇな」
「本物?宝石って偽物あるの?」
「え?そりゃあるだろ」
「お店でたくさんお金払って買ったから本物だと思う」
宝石って偽物があるんだ〜。お店で買ったから大丈夫だよ、ね?
だけどあの人はパンの人と一緒になって驚くばっかりでなかなか受け取ってくれない。これも気に入らなかったのかな。
「あの、受け取ってもらえないかな。これもダメだった?」
「う〜ん、俺本当にお前を助けたこと思い出せねぇんだよ。なのにこーゆーの貰うのはな〜」
「じゃあ何なら受け取ってくれる?お金?」
「えっ!?いや、お金ってのもな・・・」
お金もだめなの?じゃあ何なら喜んでくれるの?
あ。
「じゃあホテルはどう?一緒に行かない?」
そう言うと彼とパンの人はすごく驚いた顔をした。
どうしたのかな。
「いや・・・急にホテルとか言われても・・・」
「そっか、急じゃなかったら良い?」
「いや!そう言う問題でもねぇ!なんか、いや、ホテル・・・とかって、なんか、」
彼は「そんな出会ってすぐに、とか、嫌そういう奴らもいるだろうけど・・・」とかなにかブツブツ言っていてこっちを見てくれなくなっちゃった。
どうしよう・・・と眺めていたらパンの人が話しかけてきた。
「なぁお嬢ちゃん」
「なあに?」
「あんまりアイツをからかうのはやめてやってな、慣れてないからさ」
「からかう・・・?」
一体何のことだろうと思っていると、遠くから怒声が聞こえた。
「お前!!やっと見つけたぞ!!馬鹿にしやがって!!」
怒鳴りながらこちらに歩いてくるのはさっきホテルに行ったニンゲンの雄だった。
何で怒ってるんだろう。
「お前俺がシャワー浴びてる間に金だけ取っていったろう?!返せ!!」
ビリビリと響く声に思わず小さくなる。
だけどお金を取ったって何のこと?
「取って、ない」
「そんなわけあるか!!財布から金が減ってんだよ!!」
「そんなの知らない・・・」
ホテル行ってすぐにこのニンゲンは水浴び始めたから、そのまま帰ってきたのに。
シャワーって水浴びの事か。
今度からシャワーしてる間にお金貰えば良いのか。良い事聞いたな〜。
早くどっか行って欲しいな〜と思ってたらニンゲンが勢いよく腕を振り上げてきたので思わず目をつぶった。
痛いことされる!と思って体に力を入れて構えていたけど、何も起きなかったからゆっくり目を開けると目の前にパンが立ってた。
「他人のいざこざに口出すのもな〜と思って見てたけど、流石に手をあげるのを黙って見てる訳に行かねぇよな。あとおにーさん女の子に逃げられたからって追いかけてきて殴ろうとすんのはダサすぎでしょ」
パンはたぬきを殴ろうとしてたニンゲンの腕を掴んで怖い顔をしてた。
その顔をみてニンゲンは怯えて「クソっ!!」とか言いながら去っていった。
「あの・・・」
「あ〜お嬢ちゃん、人のやり方とかあんま口出ししたくないけどさ、あんまり危ないことはしない方がいいよ。見た感じ喧嘩出来そうにないしさ」
何か声をかけようと思ったけど先に色々言われてしまった。
たぬき、何もしてないんだけどな。
しょぼっとしてからあの人の方を見たらすごい怖い顔をしててびっくりした。
「あ・・・」
「俺の事もそうやってホテルに着いてったら金取るつもりだったのか?」
「え、違うよ!そんな事しない!」
「わりぃけど、ホテルには行かねーぞ。そもそも取られる金もねぇけどな」
「あ、待って・・・!」
「俺、人騙したりとかそーゆーの好きじゃねぇ」
思わず腕を掴もうとしたけど、不機嫌そうにそう言って振り払われてしまったらそれ以上何も言えなかった。
離れてく背中を黙って見つめる。
たぬき、喜んでもらいたかっただけなのに。