たぬきは彼に会いたい

恩返しをしたい。
だけど何をすれば良いんだろう?

助けてくれたあの人の匂いを辿っていくと、海に着いた。
大きな船が泊まってる。あそこに住んでるみたい。
さてどうしようかな。
うーん、と考えていると、お腹からぐぅ、と音がした。痛みで気づかなかったけど、何日も食べてないからお腹が減ってるんだ。
何か食べながら考えよう。

山に戻り、木の実とかきのこをもぐもぐ食べていると閃いた。
そうだ、あの人にも木の実をあげよう!

痛む足を無視して、いそいそとお気に入りの木の実が有るところへ向かう。
木の実だけだとお礼にならないかな?美味しいきのこと、ぴかぴかのまあるいどんぐりと、なんか、小さい動物の頭の骨もあげよう。
噛んでると幸せな気持ちになるし。
芋虫とかも居ればよかったけど、今の時期は見当たらない。
羽の生えた虫は口の中がくしゃっとするからあんまりすきじゃない。

一箇所に集めた木の実やどんぐりを眺める。
うんうん、これだけあれば良いかな。
どうやってあの人の所に持って行こうか。

またうーん、と考えて、街のニンゲンが四角い箱に物を入れていた事を思い出す。
キラキラした紐も付いてたな。よし、あれにしよう。

その辺の石と蔦を拾い、「ぽんぽこっ!」と唱えれば、石は白い箱に、蔦はみかん色の紐に変化した。
別に唱えなくても変化させられるんだけど、気持ち的にね。

箱に物を仕舞おうとした所で狸の手の限界を感じたので、葉っぱを頭の上に乗せ、また「ぽんぽこっ!」と唱える。

はい。ニンゲンの雌になりました〜。

たぬきの手では難しかった事もニンゲンの手だとすんなりできる。
ちゃっちゃと箱に物をしまい、紐を結ぶ。
もっと早く変化すれば良かった。
でもまあ、そもそもニンゲンになって何かする事に慣れてないからね。
変化するって思い浮かばないんだよ。

箱を持ち、海へ行く前に街へ降りる。
ニンゲンは洋服というものを着ているので、街のニンゲンを参考にして着替えようと思う。
ちなみに今は白い布を体に巻き付けたような服を着てる。
一度この服で街へ行ったらジロジロいろんな人から見られたから、変なんだと思う。
それからは誰かの服を真似るようにした。

こっそりと隠れて背格好が似ているニンゲンの雌を探す。
あんまりガチャガチャした服じゃなくて、できるだけ簡単そうな服を着たのがいいな。
ガチャガチャした服も真似できないわけではないけど、遠目だと細かい所がよく分からないから。
1人で歩くニンゲンの若い雌。
体の大きさも似てる気がする。
服もガチャガチャしてなくて簡単そう。

よし、あれにしよう。

「ぽんぽこ・・・」

ニンゲンに気づかれないように小さく呟く。
白いふわふわした生地で、上下繋がった服にした。
首周りはしっかり覆われてるのに、肩から腕と足は丸出しになる。
あったかくしたいのか寒いのかわかんないけど、首は大事だからね。
あと足元は紐がジグザグに着いてる黒い靴にした。
靴もね、ちゃんとニンゲンに変化始めてから履くことを覚えたんだよ。
足の裏痛くならなくて良いよね。

いつも思うけどニンゲンの服って胸とかお尻が窮屈なの不便〜なんでこんなの着てるんだろ?

***

さ、海に着いたよ!
あの人はどこにいるかな?

船の中にいると思うんだけど、入っていくのはちょっと怖い。
どうしたら会えるかな。

船の近くをウロウロしていると、中から誰か出てきた。うーん、あの人じゃなさそう。

「あ〜、お嬢さん?さっきからこの辺ウロウロしてるけど、何かあった?この辺うちらの船くらいしかないけど」

声をかけてきたニンゲンは助けてくれたあの人よりも大きい。・・・怖い。

「あ、あの。」
「ん?」
「ひ、あ、あの。会いた、会いたい人がいて・・・」

わーん、緊張して上手く喋れない!
大きいニンゲンは私の声が聞き取りにくいのか凄く顔を近づけてくる。やだあ。

「会いたい人がいんの?」
「・・・!」

うんうんと首を振りたくる。

「誰?名前分かる?」
「な、なまえ?なまえ・・・なに・・・」
「わかんないの?」

なまえってニンゲンにはみんなあるんだよね。前街に行った時も会ったニンゲンに聞かれたけど、分かんなかったんだよね。
たぬきはたぬきって種類だよね?
なまえってどうやって分かるのかか前に会ったニンゲンに聞いとけばよかった。

箱を抱きしめながらうつむくと、船から何人か降りてくる音が聞こえた。

「おーい、どうしたー?」
「あ、サッチさん。いやーこの女の子が会いたい奴がいるって言うんですけど、名前がわかんないらしくて」
「えーなに、女の子?」

ゾロゾロと船から降りてきたニンゲンたちが周りを取り囲む。
ニンゲン・・・ニンゲンが多い・・・そして近い・・・!

目元に傷があり、頭にパンを乗せたニンゲンが話しかけてきた。
パンは街で食べたことがあるから知ってるんだ。あれ美味しかったな〜でもなんでこのニンゲンなんで頭にパン乗せてるの?気になってそこにしか目が行かない・・・ん?パンの匂いがしないな。パンじゃないのかな。

「こんにちわ〜どしたの?ここ白ひげの船なんだけど、人違いじゃないかな?」
「あ、えと。たぶん合ってる・・・人違いじゃない」
「そう?じゃ誰に会いたいの?」
「えっと〜あ、の、ニンゲンの、雄、で」
「え?!」

あの人の特徴を言い始めた途端大きな声を出されて体がびくっとなる。
なんで急に大きな声出したの?こわい・・・。

「人間の雄って!男の事そんな言い方する子初めて見た〜オレらもニンゲンの雄よ?船に乗ってる奴は大体男だから他の特徴お願いね」

あはは!と雄たち、いや男たちが一斉に笑う。
こんなに近くで男に囲まれた事がないからどうして良いかわからない。
とにかく、他の特徴を言ってあの人に早く会わせてもらおう。

「うーんと、服、着てない」
「え?!裸?!」

また大きい声出された!もうやだ〜。
なんでいちいち大きな声出すの・・・?
もっとたぬきに優しくしてほしい。
なんか男たちがざわついてるけど続けて言うぞ。

「背中に絵が書いてあって・・・」
「うんうん」
「帽子かぶってて」
「いいぞだいぶ絞れてきたかも」
「良い匂いする」
「待って、急に分かんなくなった」

頭にパンを乗せた男は途中までうんうん、とニコニコして聞いてくれてたのに匂いの所で急に真顔になって周りの男たちと話し始めてしまった。
「良い匂いする奴なんている?」「いない」「イゾウかビスタ?」「服着てるじゃん」「ビスタの胸元の開け方はもう裸と言っても良い」「帽子も被ってるし」「でも背中の刺青見えなくない?てかあいつ背中に刺青ある?」「ヤッた後ならどんだけでも見れるっしょ」

しーん。

最後何か言った後急にみんなが黙って、言った人を揉みくちゃにし始めた。
ニンゲンの男ホントに急に大声出したり、固まったと思ったら攻撃し始めて意味わかんない。こわい。

「えっと、他の特徴聞いても良い?」

頭にパンを乗せた男がニコッと笑って聞いてきたけど、さっき1番こわい顔してた。
たぬきは見た。
もう色々怖すぎて足とか震えてきたけどなんとか踏ん張る。

「顔に点々が書いてある」
「はい分かった!エースだ!間違いない!」

また大きな声を出されて体がビクッとなったけど、あの人が誰かわかったみたいで良かった!

「エースにはなんで会いたいの?」
「えと、助けてもらったの」
「へ〜アイツやるなぁ、今呼びに行かせたからお嬢ちゃんはここで待っててね」

早く会いたいな〜、木の実喜んでもらえるかな。
恩返し、できるかな。

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