手捌き
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「えっと……」
ぶつぶつと呟きながら卓子を二度叩く。札を追加してやる。手を振ったので、隣へ。その最中も、視線は手元を追っていた。──嗚呼、遣り難い。
「詩音」
「何?」
呼ぶ声に、鼠は視線を隣へ向けた。くすくすと笑いながら、ドストエフスキーが卓子を叩く。
「楽しいですか?」
「?うん、楽しいよ」
「それは良かった」
眉間に皺を寄せて、疑問の表情。思考が顔に出やすい性質のようだ。だからこそ、手元を見つめている時の、何を考えているのか分からない表情が気にかかる。
「おじさん」
「おじさんじゃないと言っているだろう!」
何だ、と問えば、体を伸ばした。
「ちょっと休憩!」答える前に立ち上がる。「私抜きでやってても良いよ」
退室する背中を見送り、扉が閉まると、ドストエフスキーに視線を向ける。
「どうする?」
「仲間外れにすると拗ねますよ」
ならば待っていようか。機嫌を損ねられても、私は対処法を知らない。
「随分とあの子に気に入られましたね」
「癖なのか、あれは?」
「癖と言えば癖です」
札を配られた時以外、視線が外れなかった。名を呼ばれなければ、ずっと動きを追われていただろう。
「君から彼女言ってくれないか?手元が狂いそうだ」
「構いませんが、無駄だと思いますよ」
申し入れは、やんわりと拒否された。目を伏せ、薄い笑みを口に乗せて、続ける。
「あの子は美しいものが好きですから」
まだ幼く見えたが、そこは女性という事か。しかしそれと、手元を凝視されるのとは、別問題のように思う。感性の相違だろうか。
「動いているものを追っているだけじゃないのか?」
「それもありますね」
赤子か。それとも小動物か。雰囲気は何処となく仔熊に似ている気がする。手持ち無沙汰に、集めた札を切る。
「洗練された、無駄も迷いも無い動きというのは、美しいものですよ」
「そうか」
かたん。扉の外で音がした。見ると、鼠が顔を出す。
「やってて良かったのに」
そう言っているが、表情は嬉しそうだ。待ってて貰えたのが余程喜ばしいのだろう。
「だって詩音、拗ねるでしょう?」
「拗ねないもん!」
席に着き、再び手元が凝視される。嗚呼これは、もうどうしようもないな、と苦笑した。
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