怪談話
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「怖い話ですか?」
「日本じゃ夏の風物詩だろう?」
連日の猛暑。気分だけでも涼しくなりたい。ドス君は書類から顔も上げずに答える。
「そういう事なら、適任がそこに居るではありませんか」
「え、そこで私に振るの?」
冷房の直風を避けて座っていた鼠ちゃんが、読んでいた本から顔を上げ、顰めっ面でこちらを見る。
「怖い話は嫌いかい?」
「日本の怖い話って、海外のと性質が違うじゃん」
つまり、乗り気じゃないのか。反応からして嫌いでは無いのだろうけど。
「そんなに怖い話が聞きたいのであれば、一つ」
「お、何だい?」
乗り気じゃなかったもう一人が声を出した。鼠ちゃんも気になるのか、ドス君を見ている。視線は相変わらず書類に向いたまま、焦らすように数拍間を開けた。
「貴方が今座っている場所で、昨日、詩音が黒光りする虫を叩き潰してましたよ」
「えっ、ねえ、鼠ちゃん!言って!」
「大きさ的に外から入ってきた奴だし、ちゃんと拭いたし除菌もしたよ。安心して」
ゾッとした。心臓が跳ねる、とはこういう事か。そういう事じゃない!と思いつつ、しれっとしている彼女に突っ込む気がおきないのは、何故か。
「あのね、ドス君。私が求めてたのはそういう怖さじゃないよ、不正解!」
「体感温度は下がったでしょう?」
「下がったけど!」
突っ込んで、そっと息を吐く。この面子で怪談話なんて無理があったか。そもそも、そういう類の話で盛り上がる彼等でもないか、と話題を変えようとした時、そういえば、と鼠ちゃんが口を開いた。
「前に、ゴーさんのセーフハウスに遊びに行った時」
「嗚呼、あったね」
確か潜入調査をしていた時だ。仕事が終わるまでの間、私のところで預かっていた。
「あの時、リビングで寝泊まりしてたでしょ?夜、目が覚めたらね、テレビの裏側から頭が倒れてきて、目が合ったの」
「……ん?」
頭が倒れてきた?テレビの裏に何か落ちてただろうか。いや、その後ろは壁のはずだ。何かを置くスペースは無い。
「その後すぐ寝ちゃったし、夢だったのかどうかも定かじゃ無いんだけどね」
夢かもしれない。しかし現実かもしれない。曖昧なところが一層不気味だ。
「良かったですね、ゴーゴリさん。念願の怖い話ですよ」
「うん、何も嬉しくないね!」
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