「あー…、やだなぁ…」
柄にもなく張り切るからこうなるんだ…
可愛い柄の浴衣は今や着崩れてしまっているし、ロールアップした髪型はぐしゃぐしゃ。
慣れない下駄に靴擦れを起こし、鼻緒は切れてしまった。
足の痛みでこれ以上歩く事の出来ないわたしは、神社へ続く石畳の階段に腰掛けていた。 一人で。
「でも、これで良かったのかも…」
そんな事を呟くのには理由がある。
「夏祭り…?」
「う、うんっ!楽しそうだなって…」
「じゃあ、行くか?」
「いいの!?」
わたしは先日、意中の相手と夏祭りに行く約束を取り付ける事に成功した。その相手は、クラスメートの轟 焦凍。
浮かれたわたしは何日も前から浴衣を見に行って、ちょっと奮発して良い浴衣を購入までして当日を心待ちにしていたのに…
「えっ、轟くん…と八百万さん…?」
轟くんと約束を交わし、当日。
二人きりの約束だと思っていたのだけど、どうやら轟くんはそう解釈をしていなかった様で…
「あと、飯田と緑谷が麗日連れて来る。」
知らない間に、他に声を掛けていたみたいだ。
確かに、“二人きりで”とは言わなかったのだから、それも仕方ないかな…なんて。
ただ、この日にわたしは彼に想いを告げようと思っていたから、それはまた別の機会になってしまうなぁ…と、少し残念に思ったのと、緊張のイベントが先延ばしになってホッとしたのとで複雑な気持ちになる。
そして、暫くしてほかの三人も合流して、六人で回る事になった。
「名前ちゃん、良かったん?」
先ほど屋台でまとめて買ったチョコバナナを手渡しに来た、お茶子ちゃんが心配そうに顔を覗く。
「えっ何が…?」
「本当は、轟くんと二人きりが良かったんじゃないかなぁ〜って…」
言われ、先頭を八百万さんと肩を並べて歩く轟くんに視線を向ける。
二人は楽しそうに、談笑していた。取り付く島もない。
「…これで良かったんだよ。」
「名前ちゃん…」
それから暫く六人で固まって行動していたけど、肝心の轟くんとはあまり話せていなかった。
なんだか皆と一緒に行動するのが辛くなってしまって、わたしは…皆に気付かれないようにして皆から離れた。
その途中で、鼻緒がぶっつり切れてしまい、今に至る。
-ヒュー……ドンッ-…パラパラ…
「あー…、花火…始まっちゃったなぁ…」
本当に、楽しみにしていただけあって今の現状は、刺さる。
何やってんだろうな、わたし…。と、俯いて片方鼻緒のない両の足の甲を見詰めた。
下を向いていると、堪えているものが零れそうになった。
遠くで祭囃子の音が聞こえる。
今頃…彼らは、仲良く店を回っているのだろうか。
(あぁ、だめ…ここで泣いてしまったら惨めになる)
じわっと滲む視界。
花火の光に照らされていた自分の足元だったが、影が差す。
「こんな所に居たのか…」
聞き覚えのある、今一番聞きたくて聞きたくなかった声に、身体が硬直する。
少々息の上がった彼、わたしの事探してくれていたの?
「苗字、お前。足怪我してたのか?」
そう言って目の前にしゃがみ込む轟くん。
あぁ、ダメだよ。轟くん。
目線が合ってしまう。泣いてる事がバレてしまう。
わたしの願いは虚しく、パッと顔を上げた彼と目が合ってしまった。
そして、驚いた様に目を見開いた後彼は、悲しそうに目を伏せた。
「気付かなくて、ごめんな。」
何故貴方が謝るのか…。どうして、そんな顔をするの?
スっとわたしの頬に手が伸びてきて、涙を払う彼の指。どうして、そんな事するの?
期待しちゃうよ?
「悪ぃ…、正直二人きりだったら何するか分かんなくてよ。」
打ち上げ花火の照明を背に、酷く真剣な顔をする彼。
次の彼の一言で、わたしの時は止まったのだ。
「好きだ。」
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