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――ギョンコルド広場〈王の処刑場〉。

ルフィ達はしらほしやジンベエの合図とともにギョンコルド広場へとその姿を見せた。

「“よわほし”の奴危ねェぞ」
「捕まった事自体計画外じゃ。…一人逃がすのもな」

しらほしはタダでさえ大きい。そんな彼女は確実と言っていいほどに敵の的になってしまうが、かと言ってここで一人逃がしてもそれは同じことだ。
そんな話をするルフィとジンベエを他所に、ナミが奪ってきた書状をしらほしに手渡した。

「はいコレ、書状!」
「ありがとうございます、皆様…!! ――これはお母様が残して下さった魚人島の希望…!! ……え? ルフィ様、今わたくしの事……」

戸惑うようにしらほしはルフィを見つめる。

「今までわたくしの事“よわむし”と……」
「ああ、くわしくは知らねェけど、お前思った程弱虫じゃなかった」
「え、」
「その通りじゃ、しらほし姫……。辛かったのう。何年も……!!」

10年だ。10年もの年月の間、しらほしは母、オトヒメを殺した犯人をたった一人で抱え込んでいたのだ。その人物を恨むわけでもなく、復讐心をもつわけでもなく……。

「申し訳ございません。わたくしが勝手に真実を胸の内に隠していたばかりに…」
「ええんじゃ。お前さんはそのままでええ!! 憎しみを受け継がん……これこそ偉人達の願い!! お前さんに息づいたその小さな“芽”がいつしか島中に広がり、皆が同じ様に考えられる日が来れば…、その時はもう争いも消え、魚人と人間のしがらみなどなくなる事じゃろう…」
「………、」
「耐え忍んだお前さんの数年間を否定する為じゃない」

ジンベエはそっとしらほしを見やり、言葉を紡いだ。

「たった一人でくる日もくる日も懸命に守り続けたその小さな“芽”を、今度はわしらに守らせてくれ!!!」

その言葉に、しらほしはポロッ…と涙を零した。途端に大泣きしてしまったしらほしは涙声のまま礼を言う。
そんな和やかな空気をぶち壊すのは今回の騒動の張本人、ホーディ。彼は己の内にある人間に対しての憎しみや欲望を思うがままに叫ぶ。それを黙って聞く麦わらの一味達。――だが。

「みろ、この腕に覚えのある海賊達の姿!! これがお前達の未来だ、“麦わら”!!! おれこそが真の“海賊王”にふさわしい!!!」

ホーディは、言ってはならない言葉を口にしたのだ。

「海賊王……?」

ルフィはその一言をきっちりと拾い、反復する。

「ジャハハハ、吹けば飛ぶ様なたった10人の海賊に何ができる!!! こっちは10万人だぞ!!! やっちまえ、〈新魚人海賊団〉!!!」
「「「ウオォオオォオオオオ!!!!」」」

魚人と奴隷にされた人間がそれぞれの武器を掲げてサニー号に向かって猛突進して来る。
戦闘体制に入るサンジやゾロだが、ルフィはスタスタと勝手に前へと進んでしまう。サンジが後ろからルフィを呼び止めるが、ルフィはそれを無視して迫ってくる敵に向かって覇王色の覇気を飛ばした。
その覇気を浴びた者たちは次々に口から泡を吹いて倒れていく。――残った兵士は、約5万。

「ホーディっつったな」
「!」
「お前はおれがブッ飛ばさなきゃなァ。お前がどんなとこでどういう“王”になろうと勝手だけどな」

ルフィは遠い場所に佇むホーディを鋭い瞳で睨んだ。

「“海賊”の王者は一人で充分だ!!!」

その言葉を合図に、麦わらの一味は皆それぞれの得物を手に持って戦い始めた。――2年間の修行の成果を、観衆に見せつけながら。
その頃、シアンは漸く広場が見えてくる位置までやって来た。が、突然現れた大きな船に目を見開いて足を止める。

「あ、れは…!!」

すると、同じ様に驚く声が聞こえてきてそちらへと目を移す。瞬間、またもや驚きに声を上げた。

「ねっ…ネプチューンさん!!」
「ム、そなたは…シアン!!」

まさかこんなところで再会できるとは思ってもみなかったシアンは慌てて近寄る。

「フカボシさん…! リュウボシさんにマンボシさんまで…!!」
「シアン…!!」

傷だらけなネプチューン達にシアンは泣きそうになる。まさかここまでひどいことになってるだなんて想像もしていなかったらしく、シアンは後悔でいっぱいだった。

「久しぶりじゃもん!! シアン!!」
「お久しぶりです、ネプチューンさん…。けど、今は再会を喜んでる場合じゃないですよね…っ、どうして、“約束の舟”…“ノア”が動いているんですか!!?」

焦った剣幕でシアンが尋ねるが、ネプチューンにも分からないのだ。何せその舟は動かすことすら禁じられた舟。それがまさに今、島を包むシャボンを破って落ちてこようとしている。――その時だった。

わたくしならこちらです!!!

しらほしが両腕を広げ、ノアを動かしている人物であるバンダーデッケンへと己の存在を知らせた。

「し、しらほし…!!」
「そんなっ……しらほし!!」

シアンはまさかそんなところにしらほしがいるとは思わなかったようで、手を口元に添えてしらほしの名前を呟く。すると、彼女を追いかけるルフィの姿を見つけた。

ルフィ!!?

シアンは大声でルフィの名前を呼ぶも、ルフィには聞こえるはずもなく。ただ空しく木霊した。

「行かねば…!!!」
「おいら達の大事な妹!! 必ず守りきる!!」

フカボシ達が上を見上げ、今にもしらほしの元へ行こうとする。シアンも今すぐ行きたいが、人間のシアンでは確実に足手まといになってしまう。

「……っ、お願いします、フカボシさん、リュウボシさん、マンボシさん…!! ルフィを、しらほしを……!!!」

何もできない不甲斐なさから悔しげに拳を握るシアン。けれど眼だけは真っ直ぐに三人の王子を見つめていた。

「あぁ、分かった!!」

力強く頷いた王子達に静かに礼を言い、シアンはネプチューンの側でジッと上を見上げた。

「……その約束の時まで、動かすことや傷つけることは許されない舟…“ノア”」
「…さすがじゃもん。赤髪の船に乗っておっただけある」
「……どうするんですか、ネプチューンさん」
「……人命第一じゃもん」

暫くして、フカボシの声が島中に響きだした。そうして彼が語るのは、やっと気づけたホーディの正体だった。

「ホーディは……!!! 環境が生んだバケモノだ!!!





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