『七武海脱退』 ドレスローザの王位を放棄》
そんな一面にルフィ達も大騒ぎだ。
「これでいいんだ。奴にはこうするしか方法はない……!!!」
「ジョーカー……!! おれの為にそこまで!」
「――で、何でおれ達の顔まで載ってんだ!?」
「「「は?」」」
《『七武海』トラファルガー・ロー、“麦わらの一味”と異例の同盟。ローに対する政府の審判は不明》
バンッ!! と載せられたその顔は、お馴染みになっているルフィとローの手配書。それを眺め、(今頃シャンクス達、大騒ぎしてそうだ)と思いながら視線を外す。
「これがいかに重い取り引きかわかったろう? おれ達はただシーザーを誘拐しただけ。それに対し奴は10年間保持していた『国王』という地位と、略奪者のライセンス『七武海』という特権をも一夜にして投げ打ってみせた。
この男を取り返す為にここまでやった事が奴の答え!! こいつを返せば取り引き成立だが…」
「(……そう上手いこと、事が運ぶかが問題…)」
あのドフラミンゴの事だ。きっと何か仕掛けてくる、あるいはもう仕掛けているかもしれない。
シアンは最悪のシナリオを予想するも、今のままじゃあどうにもならないと首を振った。
ローはドフラミンゴに電伝虫をかける。数コール鳴ってから、ドフラミンゴの声が聞こえてきた。
《おれだ…。『七武海』をやめたぞ》
クッと口角のつり上がった電伝虫を睨む。ウソップ達はドフラミンゴが出たことに大層興奮していた。悪い意味で。
そこからはルフィが暴走し、ローの手から勝手に受話器を取ってドフラミンゴに叫びかける。茶ひげの事や子供達の事、そして――。
「お前の部下のシーザーのせいでなァ! シアンが大変な目に遭ったんだぞ!!」
《…フフッ、そうかそうか…。それは悪い事をしたなァ、シアンチャン?》
「…………」
「何だお前、シアンを知ってんのか!?」
《そりゃあ、“剣聖のシアン”と言われれば誰だって知ってるさ。それより、お前とシアンチャンが喉から手が出る程欲しがる物を、おれは今…持っている》
「お…おい、それは一体どれほどおいしいお肉なんだ……!!!」
「麦わら屋!! 奴のペースにのるな!!」
「お肉が一匹、お肉が二匹…」
「ルフィ!! 気をしっかり持て!! それが必殺『奴のペース』だ!!」
ルフィがごくりと唾を飲み込み、目をハートにさせる。そこからはローが電話を代わり話を進めていくが、シアンは先ほどの台詞が耳から離れず、考え込む。
「喉から手が出る程欲しいもの…?」
私にそんなのあったっけ、と首を傾げるが思いつかない。
「今から8時間後!! 『ドレスローザ』の北の孤島、『グリーンビット』“南東のビーチ”だ!!」
《!》
「『午後3時』にシーザーをそこへ投げ出す。勝手に拾え――それ以上の接触はしない」
ローがそう言い切った後、ルフィが無理やり電話を切った事で話は終わった。
人数指定が出来なかった事にサンジは不安を抱くが、ローの問題はそこではない。『スマイル』の工場についての情報が得られなかった事の方がよっぽど重要なのだ。
「トラ男〜〜、お前そこに行った事あんのかよ。ドレスろうば!!」
「ローザだ」
「ローザ!!」
「――ない。奴の治める王国だぞ」
ルフィの問いにローは即答で否定する。そんなローにルフィはいつものお気楽な笑顔を浮かべた。
「ほんじゃ、全部着いてから考えよう!! しししし、冒険冒険っ!!! 楽しみだなードレスローザ!! おれ、早くワノ国にも行きてェなー!!」
「バカいえ!! 何の計画もなく乗り込めるような…」
「サンジ、ハラへった。朝メシ何だ!?」
「サンドイッチだ」
「わー、おれわたあめサンド!!」
「私は紅茶だけで」
「おれはパンは嫌いだ…――!!」
いつの間にかルフィ達のペースにのせられていたローは、それでも大人しく船内へと入って行った。
「そういえば、錦えもんさんはどうして追われてたんですか?」
「――なぜ追われていたかは話せん!! しかし、元々は『ゾウ』という場所を目指して海へ出た」
「ゾウ…!?」
シアンが気になった事を尋ねれば、錦えもんはサンドイッチを食べながら素直に答える。しかし、錦えもんの言った『ゾウ』という国に反応したのはローだった。
「存じおるか!?」
「何から何まで奇遇だが……!! シーザーを引き渡し『SMILE』の工場を壊したら、次は『ゾウ』を目指すつもりだ。おれの仲間がそこにいる」
単独行動をしていたローだが、仲間は全員『ゾウ』にいるようだ。
錦えもんは侍三人とモモの助でその『ゾウ』を目指していたのだが、あえなく遭難。ドレスローザへ漂着したのは侍二人とモモの助だけ。
けれど、そこでドフラミンゴ率いるドンキホーテファミリーに追い回され、モモの助はそこら辺にあった船に乗り込み、そのまま出航。錦えもんはもう一人の侍、“カン十郎”が海へ逃がしてくれたおかげでパンクハザードまで行けたのだそうだ。
そんな話を聞かされれば、ルフィ達は黙ってなんていられない。そのカン十郎も助ける事に。
「あ、島の影が見えたよ!」
朝食を食べ終え、甲板に出ていた一味。前を見ていたシアンはぼんやりとその姿を現した島を指差し、声を張り上げる。
「うほーっ!! 何だ、あのゴツい島っ!!」
ワクワクした顔で船首に集まるルフィ達は、全貌を露わにした島に興奮を隠せずにいた。
「着いたぞー!!! ドレスローザ〜!!!」
――ここは愛と情熱の国 『ドレスローザ』
・
・
「コロシアムはいつも大盛況。お前のお陰だよ、ディアマンテ」
「何を…ドフィ、お前の王としてのカリスマ性の賜物だ」
「違う、お前の腕さ」
「よせ。人をコロシアムの英雄みたいに」
「お前こそコロシアムの英雄だ」
「やめろよ……そんな……」
「――じゃあやめに…、」
「そこまで言うなら認めよう!!! そう、おれこそがコロシアムの英雄だとな!!!」
暗い部屋の中、騒ぐ国民の声を他所にドフラミンゴはディアマンテと呼ばれた男と話す。
「んねー、んねー、んねー。持ってきたぞドフィ、
「寄りすぎだ」
「寄りすぎー、だけど!?」
「そこがいい…座れ」
いきなり上から降ってきたトレーボルから一つの箱を受け取り、座るように促す。ドフラミンゴはニヤつく顔を曝け出しながらも、その箱をゆっくりと開けていく。
「
(シアンだけは分からねェがな…)と内心呟きながらも、ドフラミンゴはその箱をディアマンテの目の前に差し出す。
「ディアマンテ、これをお前に一任する」
「待ってくれドフィ、おれにはムリだ」
「いや…お前に任せたい」
「よせ! 人を天才みたいに…」
「いや、天才のお前しかできねェ」
「やめろって…そんな……」
「――じゃあやめに…」
「そこまで言うなら、天才と認めるしかない!!! そうさ、あんな麦わらのカス野郎!!! どうとでもしてやる!!!」
突然豹変するディアマンテにも驚かないドフラミンゴは、箱から取り出した“それ”を己の手のひらに乗せた。
「――フッフッフ、飛びつくハズだ…。兄の能力“メラメラの実”!! 誰にも渡したくねェだろうよ!!! フッフッフッフッフッ!!!」
これから起こることが楽しみでしょうがない。
そんな意味が込められた、不気味な笑い声を上げたドフラミンゴは舌舐めずりをする。
「早く来い…ロー……シアン…!! おれがたっぷり可愛がってやる……」
サングラス越しに騒つく城下を見下ろしながら、ドフラミンゴはこれから始まる戦いを楽しみに待つのだった。
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