愛と情熱の国、上陸



この国を訪れた者達は、
いくつかの事に心を奪われるだろう。
一つは…かぐわしき花々と、
この国自慢の料理の香り。
また一つは…疲れを知らぬ女たちの情熱的な踊り。
――そしてもう一つは……


「コラーまて!! 返せー!!!」
「ワフワフ!!」
「待ちなさい!! マリオ、返しなさーい!!」

口にぬいぐるみの腕だけをくわえながら逃げる犬、を追いかけるのはその腕の持ち主である“ぬいぐるみ”だった。

「まったくもー、困ったコだ。綿がとび出ちまうよー!!」
「ワンワン!!」
「ぬ……ぬいぐるみ…?

もう一つ…旅人を驚かせるものは…。
町に溶け込み、
ごく自然に人間と共存する、
命を持ったオモチャ達の姿である――



――シーザー引き渡しチーム
シーザー・ロビン・ロー・ウソップ

「船で行きゃいいだろ、全員で!!」
「船じゃ不可能らしい」
「……あら、それは楽しみ」
「あ…安全に頼むぞ、オイ!!」


――サニー号安全確保チーム
チョッパー・ブルック・ナミ・モモの助

「カン十郎……!! 無事だとよいが…」
「ねェ!! 敵が来るってどういう事!?」
「えーっ!? 船番安全じゃないんですか!?」
「そりゃここは敵の本拠地だぞ? でも船番はサンジも一緒だから…あれ!!? サンジ!!?


そして残るは――…。

「こんにちは、兵隊です!! あれあれ? キミ達どこかで〜…お会いしましたかねー? んー、見た顔だ…あ! そういえば今朝の新聞に……いて!! しまった、糸がからまった!! 助けてー!!」
「こいつらオモチャ…??」
「ちょっとちょっと、助けてよキミー!!」


――工場破壊&侍救出チーム
ルフィ・ゾロ・フランキー・サンジ・シアン・錦えもん

『『『…………………』』』
「あ? そういやぁシアンはどこ行ったよ?」
「あれ? ほんとだ、迷子か?」
「クソマリモじゃねェんだから…にしても心配だな」
「う〜ん!! オモチャ動いてっし、シアンは分かんねェけどまあいいか!! とにかくメシだ!!!

ルフィ達がそう言って港町『アカシア』にある飲食店でご飯を食べている頃、シアンは一人、自分の意思で別行動をしていた。

「(チラッと見えただけだったけど…間違いない、あれは“CP-0”!! 何でそんな奴らがこの国に……)」

つけひげなんて断固として拒否したシアンはフード付きパーカーを着て顔を隠しているが、いつバレるか分からないからこそ用心深く周囲に気を張り巡らせる。

「…このオモチャは何なんだろう…」

住民に溶け込む数多くのオモチャ達。ごく自然に生活の一部として成り立っているその光景に、シアンは驚きながらもまずは情報を集める事にしたのだった。

「――コロシアム?」
「えぇそうよ。“コリーダコロシアム”。特に今日は特大イベントがあって、ファミリーの幹部様達がみんな集まってらっしゃるはずよ!」
「ファミリーって…」
「『ドンキホーテファミリー』。知ってるでしょう?」

こんな若い女から不意打ちで出てきた名前に、シアンは驚きを隠せなかった。この女が『ドンキホーテファミリー』の事を知っていたからではない、“恐怖”を抱いていない事に驚いたのだ。

「どうして、そのファミリーの幹部様達がコロシアムに集まるんですか?」
「詳しくは行ってみないと分からないんだけど…噂では、王が凄い賞品を持ってきてくれたとか!」

ここで一つの疑問が浮かび上がってきた。“王”というのはドンキホーテ・ドフラミンゴのこと。だが、そのドフラミンゴはもう王下七武海をやめて王位を放棄し、一海賊になったはずだ。それなのにどうして未だこんなに慕われて、しかも“王”なんてやっていられるのだろうか。

「あの、もう一ついいですか?」
「なに?」
「ドンキホーテ・ドフラミンゴは王下七武海をやめて、王の座を降りたはずですよね…? あんなに新聞で大きく報じられてたんですから…。なのにどうして……」

シアンの質問に女は「あぁ、」とニコリと笑った。

「誤報だったのよ、それ」
「誤報…!?」
「そう。今朝、“CP-0”が来て説明してくれたのよ。国王様の“王位”及び“七武海”権威放棄の件はミスだって」
「―――っ、」
「あ、ちょっと!どこ行くの!?」

女に挨拶もせずにその場から走り去るシアン。頭の中には怒りでいっぱいだった。

「有り得ない有り得ない有り得ない……!! どうしてドフラミンゴが“CP-0”――『世界政府』を振り回せるの!? そもそもこれが本当なら…!」

シーザー引き渡しチームが危ない。
瞬時にロビン達を頭に思い浮かべたシアンだが、電伝虫を持ち歩いていない今、連絡手段はない。

「みんな…今なにしてるんだろ…。まさかバラバラとか言わないよね…」

率先してバラバラになる殿を務めたシアンは自分の事を棚に上げてルフィ達を探すが、もう既にその予感が的中しているなんて思いもせず、ただ当てもなく走り続ける。

「グリーンビット…そうだ、そこへ行けばロビン達はいるよね…!」

だが、そこでシアンはまたも壁にぶち当たる。

「………グリーンビットって…どこだっけ」

ドレスローザに上陸する前にローが説明していたが、そんな説明をまともに聞いていなかったシアンは、首を傾げてぐるりと360度その場で回ってみる。が、建物に囲まれていて自分が今どこにいるのかすら分からない。

「あー…どうしよう。どうやってこのビッグニュースを知らせよう………ん?」

一人で唸りながら歩いていると、広場へとやって来た。外なのに大きなモニターがあり、何やら激しいバトルの様子が映し出されている。
これが先ほどの女が言っていた『コロシアム』か、と納得したシアンは(そう言えば、凄い賞品って何だったんだろう)と思い、暫くそこで鑑賞することに。

「すごい白熱してる…」
「おや、お嬢ちゃんもこういうの好きなのかい?」
「いえ、今日のコロシアムの賞品が凄いものだって聞いたもので…。それが何なのか知りたいんです」
「おや、知らなかったのか。なら教えてあげよう」

わーわーと騒がしい広場で、その男の声がシアンの耳にはよく聞こえた。それはそれは、不思議なくらいに。

「2年前、マリンフォードの頂上戦争で命を落とした男――〈白ひげ海賊団〉2番隊隊長、ポートガス・D・エースの持っていた“悪魔の実”が、今回の賞品だよ」
「…そ、れ…って…」

聞きたくない、そう思う反面、聞かなければならないという矛盾した気持ちがシアンの中を駆け巡る。そんなシアンの葛藤など男には知る由もなく、ついにその名前を口にした。

「最強種“自然ロギア系の悪魔の実 “メラメラの実”だ」

――ワーワー!
広場に集う民衆の騒めきが、より一層大きく聞こえた。




back