「“証”?」
「おう! 俺たちが、フィーと過ごした“証”」
「私たちが幻じゃなく、ちゃんと実在して、フィーと一緒に生きたっていう“証”よ」
「そっ…そんな簡単に言うけど、これ、見るからに膨大な魔力を使うよ!? なにより複雑な構造だから、いくらゴドリック達でも無理だよ!」
テーブルの上に広げられた大きな羊皮紙には、凡人には到底理解できないであろう図面がびっしりと書かれていた。端から端まで埋め着くされたそれを、サラザール・スリザリンはフンと鼻で笑う。
「こんなもの、一日あれば事足りる」
「こんなもの!? こっこれが一体どれくらい難しいか……!」
「こんなものだ。……こんなものでしか、フィーと一緒に生きたという“証”が作れない」
ワイングラスを傾けて、目を閉じたサラザール。彼が発した台詞に、他の三人もうんうんと首を縦に振った。
こんなものなのだ。四人にしてみれば。こんなものでしか自分達が生きた“証”を残せない。――自分の命を残すことができないのだ。それに比べれば、彼らにはその他のもの全て『こんなもの』となってしまう。
「本当はね、ずっとずっと、一緒にいたいの」
「ヘルガ……」
「だけど、それはどう足掻いたって不可能。……嫌でも先のことを考えちゃう」
ツー…っと羊皮紙に指を這わせていくヘルガは、いつもの明るさを閉じ込めて深い息を吐いた。
「何度も願ったわ。……永遠の命があればいいのにって。まさか、この私がそんなことを願うなんてね」
「ロウェナっ……」
ハイテーブルにもたれかけ、ぐるりとワイングラスを回す。中に注がれたワインがそれにつられて大きく波打つ。
「……“証”だなんだって言ってるけど、欲望を包み隠さず言えば――」
ゴドリックの台詞に、とうとうフィーは涙を流した。まさか、彼らがこんなにも自分との未来を望んでくれていたなんて。とても一朝一夕ではできやしないものを生み出そうとしたのも、それを『こんなもの』と称するのも、全てはたった一つの願いから。
「約束してしまうことで、フィーを縛ることになるのは重々承知だ。……だけど、身勝手だけど、……約束してほしいんだ」
「っ……、ん、うんっ…!」
涙でぼやけて、前が見えない。それでもきっと、四人は笑っているんだろう。
ポタポタと大粒の雫が、テーブル上にある羊皮紙に落ちていく。無数ものシミが浮かびゆくが、誰も咎めはしなかった。
「約束、するからっ……! だから、だから…っ…」
それ以上、何も言えなかった。
ゴドリックに抱きしめられ、嗚咽が止まらない。ちゃんと言いたいのに、喉が締まったように言葉が出なかった。
「……ありがとな、フィー」
幾度も聞いた台詞だった。けれど、今まで以上に意味が込められた『ありがとう』だったと、フィーは後に思う。
こうして、世界最高峰とまで称されることになったイギリス屈指の魔法魔術学校“ホグワーツ”は、たった四人の創設者によって建設されることになったのである。
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カタン…と、小さな物音が書斎から聞こえる。大きな屋敷でも、その音はよく響いた。梟と白蛇は、その音を発した自身の主人をジッと見つめていた。
「……流れが、大きく動きそうな気がする」
大きな窓から夜空を見上げ、星を眺める。キラキラと輝く星々は、決して良い意味を持ってはいなかった。
彼女のデスクの上にある数々の写真は、皆一様に手を振っている。まるで動画のように。彼女は外から目を写真へとやると、ゆっくりと微笑んだ。
「さあ、忙しくなるね」
その言葉に同調するかのように、梟と白蛇は小さく鳴いた。
「――彼女の役目は、もうすぐ終わる」
10年前に聴いた声と、同じ声が聴こえた。だがそれもやはり確かな確証はなく、違和感を拭えぬまま女は書斎を後にしたのだった。
「……“証”だなんだって言ってるけど、欲望を包み隠さず言えば――忘れないでほしい。ただそれだけなんだ」
一日として忘れたことのない約束に、女は長い廊下を歩きながら震える息を吐き出した。