3.幾星霜かを隔てて
午前はとっても暇なお時間。英語の授業で寝たらプレゼントマイクに耳元で爆音で起こされたのでちょっと不機嫌である。いや、わたしが悪いんだけど。うん。でもほら、きぃーんってくるのはいただけないの。
お昼休み、お茶子ちゃんにご飯を誘われたので一緒に行くと、広い食堂にたくさんの生徒が一堂に会している。 お茶子ちゃんが緑谷くんと飯田くんを見つけたらしく、一緒に食べることになった。緑谷くんの怪我はもう治ったらしく(リカバリーガールさまさまだそう)、普通に動かすには問題がないらしく、よかった。
途中から個性の話になり、あの無茶な個性は今まで無個性だと思っていたが、発現が随分と遅れ身体がついていかなかった、発現したのはつい最近――などなど、言い訳のように焦ったように言葉を紡ぐ姿に違和感を覚えるも、それ以上追求してもなにも出てこないだろう、と美味しい美味しいご飯を頬張った。
「それと……苗字さん」
「えっ?わたし?」
「うん、君に……言わなきゃいけないことがあって。
あの時は、救けてくれてありがとう」
君がいなきゃ、僕は死んでたかもしれない。という緑谷の目は真っ直ぐにこちらを射抜いている。
ああ、と萎縮してしまって ううん、乱暴な救け方をしてしまってごめん、とこちらも言うと、飯田くんはあの時はすごかったなど肥大して話をいうので、少しずつ誤解を解きながらご飯を食べた。
「苗字さんの個性ってどんなのか、聞いてもいい?」
「え?わたしの個性?…ええと、ね 『付加』だよ」
「『付加』?」
「そう。物理的攻撃力だとか防御力だとか、ステータスをプラスするっていうのかな。そんな感じ。」
「へ〜!だから個性把握テストのとき、あんなにすごい結果出せてたんだね」
「うん、体力付加がないのはネックだけどね。」
もうご飯を食べ終わったのか、ふむふむ、ブツブツと呟く緑谷に声をかけ、昼休み終了を告げるチャイムが鳴る前に食堂を出た。
そして、ついに 午後の授業、『ヒーロー基礎学』!
登場したナンバーワンヒーロー、オールマイト。見るだけでぶわっと勇気がわくような、素敵なヒーロー。わたしの憧れのひと!
コスチュームを着ての訓練。ヒーローチームと敵チームに分かれて、核爆弾(ハリボテ)をタッチしたら勝ち……らしい。
被覆控除によって作られたわたしだけのコスチューム。基本体術を駆使して戦う近接スタイルなので動きやすいようにかなり……かなり、身体に沿ったライン、といいますか。
肋骨くらいまでのシンプルなチューブトップ。そう、肋骨くらいまで―――お腹が丸出し。
……お腹壊さないのかな、これ。 今度改善するときはその都度を書いておかなきゃ。 ミリタリーなアウターを羽織り、ボタンをとめると 真新しい服の匂いが伝わってきた。
ベルトにはロープや緊急用の包帯、絆創膏やハサミなどといった、救急道具が入っている。ポーチにまるまると小さく収まったそれは 救助活動用のものだ。
脚も…かなり露わになっている。引き締まっている自信はないといったら嘘。
自分の身体のどこに自信がありますか?と言われたら、脚って答えるくらいには。きちんと靴下を伸ばして、上の方から伸びるガーターをパチンと止めた。よし、これでオーケー。
隣で着替えてたお茶子ちゃんにビックリされたけど、手袋をして、靴を履いて。なかなかにかっこいいんじゃないか、わたし?! って思っていたら、思わぬ、伏兵。
「やっ、八百万さん…!」
「発育の…暴力…!」
胸元…ババーン! 腕…スラーン! 脚…キラーン!といった具合。ベルトがエロさを強調している。端正な顔立ち、キリリとした瞳、わたし、助けられたら惚れちゃう。
「それでは、これより対人戦闘訓練を始める!」
くじ引きで決めるチーム分け。アメリカンな舞台設定。ヒーローチーム、敵チーム。
わたしは敵チームだった。D。相手は……緑谷くんとお茶子ちゃんだ。
一人あぶれるので三人チーム。三人対二人は厳しい ということで わたしは基本的な攻撃は禁止、ということになった。バクゴーくんがチッと大きく舌打ちしたの、聞こえてるぞー。
基本的に攻撃は禁止。 逆に言えば基本的じゃない攻撃はオーケーということだ。
犯人確保のテープを巻き付けたり――間違えた、これはヒーローチームにしかないんだった――、核をハリボテとして扱うのなら 持って移動も可能だろう。
「飯田少年、爆豪少年、苗字少女は敵の思考をよく学ぶように! これはほぼ実践!ケガを恐れず思いっきりな!」
「度が過ぎたら中断するけど…」
バクゴーくんはヒーローコスチューム…いや敵にも見えるけれど。を着てなにを考えているのやら。体力テストでも突っかかっていたけど、中学が一緒だったりするのかな。 緑谷くんに向かってかなりいらいらしている。
いきなり飛び出したりしないよね?
「それでは今回の作戦だが――」
マジメな飯田くんが切り出すと、バクゴーくんがすぐに、「おい」 と話しかけてきた。何かいい作戦でもあるんだろうか。
「デクは"個性"があるんだな……?」
……無個性みたいな言い方をする人だ。
「入試の時に使ってたよ ド派手なやつ」
「……そうか」、のあとにクソナードが……!と敵顔負けの表情で言っているのが見えてヒュッと喉がなる。怖いよー、あの人怖い。
ところでクソナードってどういう意味なんだろう。そんなことをしていたら5分が経過してしまった。
始めの合図が聞こえると バクゴーくんは飛び出して行ってしまった。あーあ、もー!
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「麗日さん!」
「はい!」
突然の爆豪くんの奇襲攻撃。相手チームは三人。さっきデクくんに言われた 三人目の存在を常に気にすることに気をつけて上の階へ進む。5階建てのビルの見取り図を頭に浮かべながら、最もいいルートへの道を辿る。 15分間の制限時間だ、あまり時間はかけられないし かといって適当すぎると飯田くんか苗字さん――おそらく苗字さんが索敵に出ると思う、とデクくんは言っていた――に見つかってしまう。小型無線で連絡を取られては挟み撃ちにされてしまうだろう。わたしの個性はあまり戦闘向きではない。それに、2対1なんて。デクくんがうまく爆豪くんを退けてこっちに来れば2対2だけど…。向こうは三人チームだから苗字さんが攻撃しないことになっているし、なんとかなっちゃったり、するかな?
デクくんはつよい個性だし、作戦とかもすごいし、もしかしたらって思っちゃうんだよね。
「(……見つけた!)」 なんとか見つからずに来れたみたい。 近くの柱に身を隠して、なんとかデクくんが来るまで見つからな――「飯田くん!」 え?!
「むっ!来たか麗日くん……!」
なんで……?!