2.金ぴか行進曲



入学式、登校初日。新調したリュックを持って、忘れ物がないか確認して、同じく新調したローファーを履く。コツコツと音が響いていいかんじ。
「は〜っ、たのしみ。」 管理人さんのいってらっしゃいに送られて、駅に向かう。 早めの電車に乗ったからか、人は少ない。
雄英の制服を着ているからか、先程からちらちらと視線を受けて、恥ずかしい。
……いやいや、恥ずかしがってちゃダメだ!胸をはろう、わたしはなんてったって、雄英の生徒だ!……うう、あと18点取れなかったら受かってなかったけど…。
自意識過剰な恥ずかしさを誤魔化すために、ポケットから音楽プレーヤーを出してイヤホンをはめる。 再生ボタンを押すといつも聞いているアーティストの声。今度新しいアーティストにも手を出してみようかな。


 高校の近くの駅だ。定期をピッ、とかざして外へ出る。ちらほらと同じ制服の人たちが歩いて雄英にむかっていて、わたしも続くように、そわそわと歩いた。今かかっている曲はアップテンポの大好きな曲。



 わたしの2倍…いや3倍?はある扉を開けて、中に入る。そろ、っと横開きのドアから足を出す。中に人はいるのかな。 席はどこに座るんだろう。ちらほらと座っている人たちが見えて、どきどきする。友だちになれるかな、仲良くしてくれるだろうか。
席順の紙が黒板に貼ってある。指定されたところか2回確認して、リュックを降ろす。
「俺は私立聡明中学の―――」
…突然自己紹介始めたぞ、このヒト。
はあはあ、と聞き流しながらよろしくと適当に握手する。なんだその態度は!も説教されかねなかったが、ガラガラと扉を開く音を聞きつけたのかそっちに向かっていった。ラッキー。
 先生が来るまで暇だなあ。早く来すぎてしまった。 始業時間まで30分はある。
カチカチと音楽プレーヤーをいじりながら今日のニュースを見る。新米ヒーロー事件解決! オールマイト 雄英就任 雄英高校入学式 ずらっと並ぶニュースには雄英の文字がちらほらと混ざっている。
オールマイト雄英就任の記事を見ながら、試験のことを思い出していた。 あの子、大丈夫だったんだろうか。0ポイントと言っていたけど、落ちたのかな。いや、オールマイトは救助活動ポイントもあると言っていたし、もしかしたら。
ざわざわとクラスが騒がしくなっていくのは、先程来たつんつん頭の人が飯田くんに怒られているからだろうか。
よくもまあそんなにツラツラと言葉を選べるものだ。あんまりあたまが良くないわたしには絶対にムリ。


突如、しいん、と静かになった。 イヤホンをはずして入口の方を見ると、あの男の子。あ、受かったんだ。よかったー。
飯田くん恒例の挨拶を受けて困ってるみたい。カワイソウ。


「ハイ静かになるまで8秒かかりました。時間は有限 君たちは合理性に欠くね
担任の相澤消太だよろしくね」
 寝袋からだるそうに出てきたのは担任の先生。 寝袋から服を出して、これを着てグラウンドに出ろと言う。
しぶしぶ自分の分を受け取って、女子たちと談笑しながら更衣室に向かった。





「苗字さん、あのときすごかったね!」
「え?」
話しかけてきたのは………ええと、麗日お茶子さん。
あのとき……、あのとき…?
「あ、入試のとき?」
「そうそう! わたし、あのとき落ちてきたデクくんを個性で浮かせようとしてたんだけどね、苗字さん すごかったよー」
「自分が怪我しちゃったけどね」
はは、と笑いながら体操服に袖を通す。着心地がいいなあ、さすが雄英…と無駄なところに感心しつつ、麗日さん……お茶子ちゃん、とおはなしする。
「何するんだろうねー」
「早く行かないと、また合理性に欠けるって言われちゃいそう」
「たしかに」
男子陣はもう集まってたみたい。 よーし全員いるなあ、それでは個性把握テストを始める。

相澤せんせーの宣言はみんなを驚かせた。

「ええ?!入学式は?!ガイダンスは!?」
そこそこまあまあ寒いぞこの服。入学式の季節 冬の寒さがまだ抜けず、かといって春が来たわけでもないこの寒さ。 冷え性なんだよわたし。
ごちゃごちゃ考えてるうちに話は終わったようだ。

ようし、がんばるぞ…ぉお?

「死ねえ!!!!!」

爆風。とも言える、突風が私を襲う。目が、目が!
705.2mと書かれたスマホを向けてくる相澤先生。これ他の人にも公開されちゃうやつ?

「よし」



「トータル成績最下位の者は見込みなしと判断し除籍処分としよう」

えっ。













一種目目 50m走

ひゃ〜、緊張する。お茶子ちゃんに隣だね!と笑いかけられながら、脚に力を込めて行く。50mか。5歩?6歩はあったら行けるかな。
お茶子ちゃんは服に触れて軽くしてる…?のかな、申し訳ない、わたしがトップをもらっちゃうんだ!
飯田くんには勝てないだろうけどそこそこの成績を出さなきゃ除籍処分。そんなのって、ないよね!
パァン!とスタートの合図と同時に踏み出す。敏捷力付与した足で駆け、気づくとゴールだった。よしよし。うまく行った。 ピッとゴールの近くの機械からは4秒06! と聞こえた。 よ〜しよし、いけるいける。
お茶子ちゃんはふわふわと走っていた。走る姿も可愛いとは、これいかに。
握力はフツー。攻撃力プラスしたら壊れそうだし。いや、いいのか…? 二回目で力を加えてみたけど、"握る"をプラスするのは難しい。 細かい付加の特訓が今後の課題かな。
立ち幅跳びも50m走と同じように、敏捷力ではなく攻撃力を付加して飛ぶ。反復横飛びは敏捷力、ボール投げは……お茶子ちゃんすごい、∞…。
ボール投げ、よしよし。腕に力を込めて、壊れないように。
ブゥウウン!と飛んでいったボール投げ。一回目でこれくらい行けば二回目は別にいいや。
記録は690.3m。除籍はない……かな?
最後はあの男の子の番。ここまで目立った記録を出していないけど、大丈夫かな?
せっかく助けたんだから除籍なんて勿体ないな。いい個性…まだ使い慣れてないみたいだけど、持っているのに。

SMASH。 ビュン、と飛んでいくボール。 今までの彼からは想像出来ないような。 うわ、すげー。私より飛んだのでは。彼の人差し指は腫れ上がっている。 ふむぅ、人差し指に個性を使ったのか…?
それなのにあんなになっちゃうってことは、ほんとうに…調整ができていない4歳の子どもだ。
隣でお茶子ちゃんは喜んでいるけれど、使う度に激痛を伴う個性は喜ぶべきじゃないと思うけどなあ、どうなんだろう。
  バクゴーくんが口をあんぐりと開けている。このままだと殺しちゃうんじゃないのかな。大丈夫?ミドリヤくん。
――と、思っていたのもつかの間。手のひらから爆発を繰り返しながらミドリヤくんにむかっていく。 相澤せんせーの個性であっけなく捕まった。すげー、なんだあの紐…ロープ…?……ほ、捕縛武器…?かっこいい……。
残りの種目も問題なくこなしていく。
長座体前屈はフツーだった。 個性がそういう個性じゃないし、しょうがない。


「ちなみに除籍はウソな」


えっ



「ちょっと考えればわかりますわ」、一位の八百万さんが呆れた様子で呟く。ええ、そうなの? 雰囲気的に、マジだと思ったんだけどなあ。
緑谷くんには保健室への紙が渡され、わたしたち生徒は教室に戻ることになった。
ぐうう。4位だった。 持久走が足を引っ張ったみたいだ。うん。きっとそう。
 ようし、体力をつけなきゃ。