八月、某日。その日本丸内に設置されていた温度計は、日が沈む時刻であるのにもかかわらず、三十五度を表示していた。ここ最近で一番熱い日だったと、布を被る山姥切国広はぼやく。猛暑とあってか短刀たちは一日広間でぐったりと寝転がり、普段鍛錬だ修行だと元気のいい山伏や同田貫らも熱中症で倒れてはいかんと周りに止められ、縁側で大人しくしていた。今日の夕餉は素麺にしたよ、額に流れる汗を拭い歌仙が和泉守に伝える。天ぷらを揚げるのも一苦労だったと、彼の手伝いをしていた燭台切が苦笑した。とにかく、皆この暑さにやられている様子であった。そんな中をゆらり、普段通りの赤が通る。審神者だった。昼を終えてから溜まっている政府の書類と睨めっこをしてくる、そう告げ部屋にこもっていた彼女。夏着物をぴっしり身に纏う姿は汗一つかいていない。不自然なほどに、いつも通りだった。足袋と畳が擦れ合う音がぴたり、止まる。ほとんどの刀剣男士が集まる一室の中心で「ねえ」声を出した。全ての視線が注がれている。薬研藤四郎も読んでいた本をぱたんと閉じてから、審神者の方へと顔をゆっくり向けた。いつもより濃い紅をしているのだろうか、口角をキュッと持ち上げ真っ赤な三日月を作る彼女。
「今夜、百物語をしようよ」


mae tugi 1 / 10
aeka