花京院は嫌な予感がしていました。
鼻を突くような磯の香りに日光を反射してキラキラと煌めく海面。やっと手配できた船に乗り込み、海路からエジプトを目指し始めた僕達。
まぁ、どうせこの船も沈みますけどね。
悟りきったような表情を浮かべながら、ビーチデッキチェアに腰をかけ本を取り出す。少し潮風が気になるが気にするほどでもないのでそのまま無視して本を読み始める。
「−−−それにしても、何じゃ?お前達のその格好は?」
しかめっ面と言うよりは理解出来ないと言った風に顔を歪めるジョセフさんに苦笑を浮かべながら口を開く。
「ガクセーはガクセーらしく、というのはコジツケですかね…?」
「天明の露出した姿が見たいが、他の野郎にその姿が見られると思うと露出して欲しくない。
……天明、俺と一緒に船室へ戻るぞ。」
「戻りません。」
絵文字のようにしょぼんとした表情を浮かべる空条先輩を文庫本で完全にシャットアウトする。
しばらくの間潮風に吹かれながら読書に勤しんでいると下の方から騒がしい声が響く。声を聞く限り片方が男の声でもう片方は幼い少女の声−というかこの声はくぎゅボイスではないですか!かーわーいーいー。可愛い女の子に可愛らしい声とかもう最高に癒しです。むさくるしい野郎共としか最近顔を突き合わせていなかったので最高の癒しです。ありがとうございます!!
内心のあらぶりを隠しながら、文庫本を閉じいかにも何があったのだろうか?という表情を浮かべる。
「なにやら下が騒がしいですね、何かあったのでしょうか?」
「…知らねぇよ、天明ほっときな…」
頭の方で腕を組み寝る体勢に入っていた承太郎先輩がちらりと片目を開けてこちらをみてくる。その流し目やめてください。心臓に悪いです。微かに早くなった鼓動を誤魔化すように、立ち上がれば水柱が上がる音が聞こえる。まさか、もう飛び込んだのですか?!
音のした方に駆け寄れば、エメラルドグリーンの海を悠々と泳ぐ子供の姿が。…着衣水泳とか、まさか自分の人生で本当にやるとは思いませんよね。
「っ!まずいですよ!この辺りは鮫が!」
うっすらと現実逃避していれば、船員さんの声に意識を引き戻される。確かここで空条先輩が彼女を助けるんですよね、と視線を投げれば我関せずといった風に寝転んだままである。
あれ、可笑しいな…
目の錯覚かと目を瞬かせるが、錯覚じゃあなかった。では誰が彼女を助けるのか?
1ポルナレフが紳士的に助ける。
2鮫は出てこず少女は奇跡的に助かる。
3原作通り空条先輩が助ける。
個人的には3を全力で押すのですが、空条先輩所か誰も動く気配すら見せない。お前達少女に戻れと叫んでる暇があるなら助けろよ!!
ええい、ここは選択肢4の自分で助けるを実行するしかない。
うっすらと少女の背後に黒い影が近づいてくるのを見つけ、胸中で悪態をつきながら片脚を柵にかけ勢いのままに海へと飛び込む。
あぁ、勿論自分を引き上げるためにハイエロさんは甲板に残ってもらっていますよ。
背後から焦った声が響くが知ったものか。もう海に入ってしまいましたからね!なるようになーれ!!
ざぶんと耳元を気泡と海水が撫でていく感触を感じながら、飛び込んだ勢いで沈んだ体が海面に出る様に海水を数回蹴る。海水から顔を出すとぺたりと顔に張り付いたため、前髪をかきあげながら少女を探すために視線をさまよわせる。
どうやら自身が飛び込んだ位置より少しばかり離れた位置に少女はいた。少女に近付くために今度は手を使い海水をかき分け近づく。
「大丈夫、ですか?!」
うぇ、話すと口の中に海水が入ってきて美味しくない。この娘がスタンド使いだったらスタンドを通して会話さするんだけどなぁ。アレできるよね?アブドゥルさんがそんなことできるって言ってたよね?
なんてそんな場違い(?)なことを考えていると甲板からポルナレフやジョースターさんがなにか叫んでいる。え?何ですか?
あ し も と に さ め が い る ぞ !!
「あっ…」
鮫の存在をまるっと頭から抜け落ちていた。恐る恐る視線を下に下げれば先程よりもはっきりと見える鮫の影。
一拍
「『エメラルドスプラああああああああああああああああああああああああああああああッシュ』!!!!!」
少女の腰を抱え素早く水を蹴り、鮫の頭上から逃げその場にエメラルドの雨を降らせる。側にハイエロさんがいた訳では無いのでエメラルドスプラッシュが海面に叩き付けられる反動で生まれる水しぶきを盛大にかぶる。
しゃわー、浴びたい…
吐き出したいため息を飲み込み、ハイエロさんに引き上げてもらうために視線を甲板に向ければ再びジョースターさんが叫び声をあげる。
あれ?まだなんかイベントあったっけ?
「天明!!後ろだ!!!」
「?!ハイエロファントグリーン!!」
切羽詰まった空条先輩の声に反応するようにハイエロさんに引き上げてもらうように名前を呼ぶ。
ぐんっと強く引かれる感覚に僅かに顔をしかめるが、その後に聞こえてきた空を切る音とバシャン!!という海面を激しく叩きつける音が響く。
人の性というか、そんな激しい音が背後から聞こえてきたら思わず振り向いてしまう。ゆらりと揺れる鮫よりもおぞましいその姿を見てしまったあなたはSANチエック、成功で0失敗で1d6のSAN値減少です。
そんな巫山戯たテロップを頭の中で流しながら、甲板へと降り立つ。
「天明!大丈夫か?!」
「う、海の中に深きものが…」
「ふ、深きもの…?」
「そうか!!この海はルルイエに繋がる海だったのか!!」
「おい爺さん花京院が壊れちまったぞ。」
「そんな事より先程ちらりと見えたスタンドの様なもの…もしやこのアヴドゥルが聞いたことのない『スタンド』やもしれない…!」
「ま、まさかこの女の子…」
この船の中にもしかしたら魔導書が…などとcoc脳に染まっているとみんながいつの間に出したのかナイフを握りしめる少女に疑心の目を向けている。
あ、船長(偽)が出てきた。
「この女の子かね…密航者というのは…」
ぎりりと少し離れていても聞こえそうな程少女の肩を強く握りしめる船長に少し眉を顰める。
「船長…おききしたいのですが船員10名の身元はたしかなものでしょうな?」
「まちがいありませんよ。全員が10年以上この船に乗っているベテランばかりです。
…どうしてそんなに神経質にこだわるか分かりませんけれど」
船長は一旦そこで言葉を切り、空条先輩の咥えていたタバコを取り上げる。
「甲板での喫煙はご遠慮願おう…君は灰や吸い殻をどうする気だったのかね?
この美しい海に捨てるつもりだったのかね?君は客だがこの船のルールには従ってもらうよ。未成年くん?」
「いや、突っ込むべきはそこではなく空条先輩が未成年でタバコを吸っているところなのでは?」
空条先輩の帽子についている金具で煙草を消している中ボソりとつぶやく。運良く誰の耳にも拾われることは無かったが。みんな聞き耳に失敗したな。
「待ちな!口で言うだけで素直に消すんだよ…大物ぶってかっこつけんじゃあねぇこのタコ!」
「おい承太郎!船長に対して無礼はやめろ!お前が悪い!」
「フン!承知の上の無礼だぜ!こいつは船長じゃあねぇ
今わかった!こいつはスタンド使いだ!」
「「「な、なにー!?!」」」
「すた、んど?
なんだねそれは…」
空条先輩の言葉に惚けたような顔をする船長と困惑気味に空条先輩を問い詰める3人を見ながらこっそりとハイエロさんを出す。
「『スタンド』使いに共通する見分け方を発見した。
それはスタンド使いは煙草の煙を少しでも吸うとだな…鼻の頭に
血管が浮き出る。」
『さらに、手の甲に令呪が…!!』
「「「「えっ!!?」」」」
「う、嘘だろ?!承太郎!!
って花京院、令呪ってなんだ?」
令呪が伝わらないとは…はっ!これがジェネレーションギャップ!!と1人悲嘆にくれながら甲板を見渡せば、空条先輩と僕と少女以外が鼻の頭と手の甲に目を向けている。
そう、あの船長も、だ。
その仕草に僅かに口角を上げた空条先輩はそのまま言葉を紡ぐ。
「ああ、嘘だぜ!だが、間抜けは見つかったようだな。」
「あれれ?僕今何か言いましたっけ?」
すっとぼけるようにそう告げながら船長を見やる。
その後は船長がDIOからの刺客だとわかり少女を人質に取られたり空条先輩がオラオラしたり、船に仕掛けられていた爆弾が爆発したり、その後漂流先で船を見つけたけどオラウータンがスタンド使いだったりちょっと上半身と下半身がさよならバイバイになりそうになったり再び漂流者したりと色々あったけど、とりあえずシンガポールなう!!
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「んんっ」
長い(と言っても一ヶ月に満たないが)漂流生活のせいで凝り固まった身体を解すように軽く上に伸びをする。久しぶりの陸地に久しぶりのシャワーそして何より柔らかいベッドの上で寝れることにここまで歓喜する日が来ようとは思いませんでした。
閑話休題
ジョースターさん曰く暫くはここシンガポールに滞在するとのことなので、僕達は今束の間の休息とやらを取っています。が、やはり先を急ぐ旅なため、シャワーを浴びた後空条先輩と共にドイツ行きの電車の切符を取りに行かなくてはならないそうです。
今日中であれば、少しくらい観光してきても構わないとジョースターさんに言われているのであまり気負わずに空条先輩とシンガポール観光をしながら切符を取りに行く予定なのですが、
なのですが!
待ち合わせ場所に向かってみるとそこには人っ子1人いません。先についてしまったのかと思い、15分ほど待ってみましたが一向に現れる気配がありません。
これはおかしいぞと首をかしげましたが、もしかしたら切符は今日ではなく明日取りに行く予定だったのかもしれないと思い直し、近くにあったプールサイドで日光浴しました。
日光浴後ジョースターさんに疑われたり、空条先輩がズタボロ状態で帰ってきたりと、大変でしたが現在列車でインドに向かっています。
「あ、空条先輩。そのがっつくようで恥ずかしいのですが、そのサクランボ頂けませんか?」
「…あぁ、いいぜ」
「!ありがとうございます!」
空条先輩の微妙な表情を気にすることなく好物のサクランボを食べる。…本家のようにレロレロレロレロレロレロレロレロ...という風にはできないので普通に食べると空条先輩が安堵のため息をついた。…ラバソ先輩、一回ふざけて本家のように食べたようにサクランボを食べたんでしょうか…
いつか会う機会があったら全力でエメスプしようと誓う天明であった。