BESTのネタバレ有
夢じゃない
SS
しり切れとんぼ
以上が大丈夫な方どうぞ
_______________いつか海の見える部屋で
そう願ったのはいつだっただろうか。
空白の原稿用紙の上を滑るように、ペンが転がっていく。いつまで経っても埋まらない空白から視線を窓の外へと投げる。
白い格子に、柔らかなカーテンが揺らめく。その度に僅かに香る潮の匂いに、子供達の笑い声。
ここには俺が望んだ全てがある。
だと言うのに、あの日、あの時出会った名前も顔も知らなかった男の顔が脳裏をチラつく。
知らないと告げた時、一瞬だけ見せた絶望と落胆と孤独の色が心をざわめかせる。
踏み入るべきだったのではないか、彼の孤独に。そんな考えがふと思い浮かんだが、今日初めてあった何の関係もない男の心の内側まで踏み込もうとなぜ思ったのか、俺には全く分からなかった。
−*−
―あの男が死んだそうだ。
最期は身投げだったらしい。
その話を芥川に聞いてから、あの日見たあの男の迷子の子供のような笑顔が脳裏に焼き付いて離れない。
もう書けない。俺はもう…小説を書く事はできない…_______________
あと数頁で完成する小説を俺は終ぞ書き上げることが出来なかった。
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