その手はきっと暖かかったのでしょう。
俺は源サイ。名だけでなく姓まである必要は、猫又である俺には無いのだが人型に化ける際に名前だけだと今の世はとても生き辛いのである。ではずっと猫の姿でいれば良いのでは?と思われるのだが猫の姿のままだと、ほけんじょだの、のら猫くじょだの、なんだのとそこそこ猫のままだと生き辛い世の中になってしまったのである。
しかし人型を取りすぎると、人型が幼子の姿の俺はけーさつかんとやらにほどーされてしまう。あれは困る。ほごしゃや、みもとほしょーにんとやらは俺にはいない。さらに言えば戸籍もない為けーさつかんとやらのお世話には絶対になれないのである。
そして何より、この世界においては『でゅえるもんすたーず』と言うかーどげーむのでっきを持っていないとじゅーみんとーろくできないという不思議な世界なのである。なんだそれ。今までいろんな世界を生きてきたが、そんな縛りを受けたことは無いぞ。
どの世界においても基本無一文な俺にはそのかーどげーむを買うことは出来ないし、むしろ猫になったらそれを持ち運ぶことは出来ない。
無理ゲーじゃないか…
こうして俺はこの世界において、ほけんじょと猫くじょの人達に怯えながら日がな一日暮らしていくのである。
閑話休題
多くの人が学校や会社に行ってあくせく働いたり学んでいる中、俺はたまたま見つけた日当たりの良い最高の場所で身体を丸め、睡眠を貪る。
そうやって気持ちよく眠っていると、じゃりっと砂を踏む音が聞こえる。耳を微かに動かし、片目を開き音の方向を見遣れば陽の光に透けるほどの白髪に兎の耳のようにピンとはねた髪を持った青年が立っていた。
彼は最近この場で眠っているとふらっと現れては俺を撫で回してふらっと消えていくのである。
おそらく今日も…
俺が僅かに身構えれば青年は持ち上げた手を一瞬止め迷ったように手をさ迷わせてから、恐る恐るといった手つきで俺の頭を撫でる。
俺が大人しくその手を受け入れていると青年の手からぎこちなさは消え、的確に気持ちいいところを撫で回してくる。ううーむ、中々のテクニシャン。
ごろごろと喉を鳴らせば青年は微かに口角を上げ穏やかな目で俺を見つめてくる。
青年は一通り俺を撫で終わったのか、はたまた満足したのか俺の体から手を離す。俺がもういいのかという意味を込めて一鳴きすれば、少しだけ名残惜しそうな顔をしてから彼は「またな」と呟いた。