怪異からの誘い

バイト帰りの路地。
住宅街のこの道は街灯の数が極めて少なく、日が暮れると暗い道へと変わる。22時頃になれば人通りも少なくて少しの恐怖心を抱きながら歩かなければならない。

…ーリン チリン チリン

何処からか聞こえる鈴の音。

「な、に…」

肩にかけた鞄の持ち手を握る手に力が篭もる。
振り向いてはいけない。直感だけどそんな気がする。
その場から逃げたくて、ヒールを大袈裟に鳴らしながら早足になる。確実に遠ざかっているはずなのに背中には嫌な汗がじわじわと吹き出してきて気持ちが悪い。
体力の限界が近付いて息が上がってきた頃、目の前に人がいるのが見えた。

「…ひっ!?」

…ー行キマセウ、闇ヲ覗キニ行キマセウ、ソコハ地獄ノ入口ゾ

女が顔を上げニヤリと笑う。




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「…っ、あ、れ…私…」

瞬きを数回繰り返してぼやける視界で辺りを見渡した。そして、目の前に広がる光景にひゅっと喉が鳴る。
赤、青、緑、紫、ピンクと金色。派手な髪色をした少年達を見た瞬間に夢を見ているんだろうかとこの光景を疑った。
染めていたりウィッグを被っていれば不可能な色ではない上に顔も化粧でどうとでもなる。けれども、目の前の彼等は化粧をしているようでもなくウィッグを被っているようにも見えない。
では、これは一体どういう状況で彼等は何者なのか?導き出された答えは非現実的で夢物語でしかない、到底信じ難いものだった。

「初めましてっと言うべきかな?苗字名前さん」

花の女子高生と呼ばれた頃の写真が載った生徒手帳を持って、目を細める赤い髪をした男の子に声を掛けられてしまえば納得するしかない。
ここに居る彼等は"あの"彼等なのだと。

「ど…して…?」

どうして名前を知っているんだとかどうして生徒手帳を持っているんだとか、どうしてここに生徒手帳があるのかとかここはどこなのかとか聞きたいことは山ほどある。
その中で出てきたのは「どうして?」という一言だけ。

「どうして?それは名前を知っていることを言っているのかな?だとしたら貴女の生徒手帳を見たからですよ。あぁ、それとも何故生徒手帳を持っているのか、かな?あまりいい事でもないのは確かな事だがこちらもあまり余裕がない状態でね。そんな時に現れた人間がどこの誰なのかをある程度把握しておく必要があったんだよ。そうしなければまともな話し合いをする事も出来なければ恐怖心を抱いて身動きが取れなくなるものも出てきてしまう。ここまで理解してもらえたかな?」

要するに人様の鞄を勝手に漁ったってことが言いたいわけね。
あまり余裕がない状態って言われてもよくわからないし、仕方ないね。とはならない。ただわかることは逆らってはいけないことと聞かれたことには答えなければいけないということ。

「…聞きたいことは色々あるけど今は全部飲み込んでおきます」
「賢い選択だね。さて、僕たちから聞きたいのは貴女はどこから来て何故ここにいるのか、ここがどこなのか知っているのか?という点だ」
「どこからって言われても…なんて答えたらいいのかわからない、かな。職場から家に帰る途中だったってことはたしか。なんでここにいるのかここが何処なのかは私にもわからない。起きたら君たちが居たってだけ。それからー…