願 歌
「むかつくんだよ、」
眉根を寄せて、その綺麗な目を尖らせ、私の手首をその長い指先で掴み、力いっぱい壁に押し付けて
「むかつく。」
彼が何に苛立っているのか、皆目検討がつかない訳では無い。
ここに来る前彼は私を呼び付け、「なんでお前が岩ちゃんといるわけ?」と怒りを顕にした。
大方、昼休みに私が岩泉と自販機の前で話していたのを通りすがりに目撃していたのであろう。
「あんなにカオ、近づけちゃってさ。そんなに俺に見せつけたかった?」
言葉に出しつつもその情景を思い出したのか、及川の指が私の手首にめり込む。
及川の、指。大切な、大切な、指。
「そんなわけ、」
ただ、話していただけなのだ。本当に。来月の母の日のプレゼントの話。岩泉らしい、きちんと吟味したものを渡したいという姿勢。
「ゆめちゃんは俺のセフレでしょ?岩ちゃんに近づくような勝手な真似しないで。」
そうだ、私と及川はセフレで、それ以下でも以上でもない。
及川の指。後ろから突かれている時に、つー、と私の背中をなぞる。僅かな刺激にも反応する私を及川はかわいい、と愛でた。
そんな及川の。私よりも、いや誰よりも優位にたっている及川について、私は思案していることがある。
「そんなに岩泉が大切?」
彼ははっ、と一瞬顔を驚愕させた。が、次の瞬きの瞬間それは見事な笑顔に変わっていた。
「岩ちゃんも大切だけど、それよりも大切なゆめちゃんを岩ちゃんに盗られたくないから。」
胡散臭い笑顔だな、と心で思った。
及川は知らないだろうけど。
別れ際、岩泉が私の首元をサラリと触り、
「及川より、自分の体大切にしろよ。」と切なげに笑ったこと。
「うん、大丈夫だよ?」と笑い返すと、前髪をよけた私の額に岩泉の少しあつい唇が押し付けられたこと。
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