この狭い世界を輝かせるのは変態のあんた(ヒソカ)




「げエッ」
「女のコがそんな声出すもんじゃないよ、なまえ」


ふーんふんふーん、今夜のおかずは何にしようかな、そうだな、まずはダイエット中だしサラダでしょー、でも草だけじゃきっとお腹減るからお惣菜でしょ、もちろん野菜のね!ごぼうサラダなんか食物繊維たっぷり!でもそれだけじゃ栄養偏っちゃうからDHAたっぷりの旬の秋刀魚も食べておかなきゃ。なにせ旬だしね、脂も乗ってて今の時期1番美味しいし、今食べなきゃいつ食べるの。それと少しは炭水化物も取らないと代謝下がってエネルギー効率上がんないから、ちょっと控えめに……あ!栗おこわがあるやないかい!これも旬や、旬やから食べねば冬に後悔するわこれ。あとはデザート。デザートなきゃ最終的に物足りなくなっちゃう。別腹だから太らないし。うーん、でもスタンダードなデザートばっかだなー。この国の産業どうなっとんねん、シュークリームとかプリンとか食べ飽きたわ、もっと頭捻って物珍しいデザートでも開発してみろや……ぁおおおおい!パンプキンタルトタタン、なにこれ新しい。いやぁこの国の産業もまだまだこれからだな、突き詰めれば美味しそうなのあるじゃないか。見直した。うん、こんなもんだろうか。いけない、一汁三菜、スープがない。スープは今私のなかでクラムチャウダーがブーム。これで間違いない。…………うん、なんかダイエットとか言ってる割にはそれなりの量になってしまった気がするけど今日も頑張って生きたしこれくらい大丈夫だろ。明日死んじゃうかもしれないし。そしたら死ぬ時にすごい後悔するわ。後悔先に立たず、今食べずにいつ食べるの。よしこれでおっ会計お会計、



「やあ、なまえ、偶然だね」
「………………ヒソカ……」



振り返るとそこにはピエロの格好をした変態Ver.ヒソカがお手を挙げて決めポーズして立っていた。一気に気分が落ちた。おい、ここはスーパーやぞ。お前みたいな変態が集まるストリップ劇場じゃないんだぞ。そら見ろ通りかかりのお婆ちゃんが時代は変わっていくのねえみたいな先進的な目線で見てるじゃないか。勘違いしておられるじゃないか。何それジョジョ立ちか。
私はこのピエロとお仲間だと思われるのは嫌なので無視することにした。つーかそれしかない。


「………………。」
「おっと、どこへ行くんだい、お嬢さん?」
「………………。」
「そこのなまえ=みょうじ25歳身長165cm体重53kg中肉中背体格ミディアムヘアで茶髪、色気もクソもない着古したゆるゆるの白Tシャツで薄汚れたデニムパンツの、連絡先は08、」
「ちょっとちょっとちょっと!わかった、わかったから!個人情報全部言うな!なんで体重知ってんのよ!?それでさり気無くディスるな!」


スーーーっと見知らぬ振りをして去ろうとカートを走らせたらば、ヒソカは私の個人情報を公衆の面前でペラペラと喋りはじめたため私は慌ててピエロスタイルの彼の元まで戻った。ついでに足を踏みつけてやった。


「あん、痛いじゃないか」
「変な声出すな。私の私生活における尊厳を踏みにじった罰よ。ああ、もうこのスーパー来られない……安くて特売が魅力的だったのに……」
「おや、キミお金に困ってるの?」
「そう困ってるわよ。口座に金も残ってないし、クレカの支払いもカツカツなの。だから鎬を削ってこんな遠いスーパーまで通ってるんじゃない。労力かけてんの」
「それは知らなかったな。じゃあここのお会計はボクが持とう」
「はあ?なんでよ、そんな義理ないからいいわよ、なんか怖いし」
「まあまあ、いいのさ。なんだかなまえにご迷惑かけたみたいだし」
「ご迷惑ならいつもの事じゃない。何、今回ばかりはボクが悪かったなあ〜みたいなこと言ってんのよ。言っとくけど毎度毎度だからね。ふざけてんの?」
「……辛辣だねぇ」
「事実を言ってんのよ」



普段から他者に迷惑かけているということを自覚無かったなんて、ヒソカこいつ、やはりどうしようもない男だ。旅団での仕事。ある時はつまらない役だからと団長の指示に従わずトランプタワー作って暇を持て余したり、またある時は逆に何かのスイッチが入ったのかフィーバーして予定にない人殺しまでしたり。私もそうだが皆もその尻拭いをさせられていることもある。特に団長に至っては、ヒソカは私の言う事しか耳に入っていないからとペアを組ませたりする。違う、団長、耳に入っていないんじゃない、こいつは知らんぷりしてるだけだ。ちょっと掻き回して何か面白い事でも起きないかな、と好奇心のみで勝手行動をしてるだけなんだ。最近は「ヒソカ?ああ、あいつはそういうやつだから」と許容されつつあるけど、ちょっと強く言ってやらねば私は我慢ならない。口が悪いと言われればそれまでだが。……しかしだな。


「まあ、でも?その厚意は受け取ってやらなくもないけど」
「おや、それは光栄だな」
「そうと決まれば、オラ、進んで金づるになってくれるならあんたの財布スッカラカンになるくらい使い果たす。金持ってんでしょ?」
「キミって女性なのに逞しいよね」
「褒めてんの?ありがとう」
「褒めてるけど皮肉でもあるよ」
「オッケーじゃあ黙れヒソカ」


もう一回足を踏みつけると奴は「ああだめだよ、」なんて恍惚の表情を浮かべ始めたからゾッとしてやめておいた。
そしてカラカラとカートを引いて再びスーパーを回り始める。ヒソカは隣で「なんだかこうしているとボクたち夫婦みたいだね」なんて言っていた。こんな奇術師スタイルでスーパーを練り歩く夫なぞいてたまるか。無視した。


「それで?何を買うつもり?」
「何だっていいでしょ、何でもよ。生活必需品。この際タンポンだってナプキンだってあんたの目の前で買ってやるわ」
「キミそういう性癖あるのかい?実はボクもなんだ。嬉しいな奇遇だね」
「性癖ちゃうわ!ただ買うだけよバカ!てゆーかあんたの個人的な性癖なんて知りたくなかったわ今年一番いらん情報!」


遠慮なしにカゴにブツを目に付いたものから片っ端から入れていく。食料、酒、洗剤、紙、なにもかも、はたまたケータイの充電ケーブルまで。ヒソカはそれをカートを押しながら「こんなものまで必要かい?」と私を窘めてくる。必要かどうかは問題じゃない、必要かもしれないということが今回の買い物において重要なのだ。それに私は細かいことを気にしない性格なので考えずに買うがモットー。


「ねえ、あんたの金なんだから、あんたも何か買ったら?」
「いらない」
「食べたいものとか、無い訳?明日必要なものとか、」
「その時に手に入れるさ。今ボクに必要なものは何も無い。ああ、なまえの手料理ならもちろん食べたいけどね」
「残念ながら私は味オンチだからこのお惣菜のラインナップなんだけど」
「それでこそなまえだねぇ」
「何馬鹿にしてんの」
「その逆さ。この世には二種類の女がいると思うんだ。料理の美味い女と、不味い女さ。ボクにとっちゃ、料理の美味い女なんてつまらない女だ。美味い料理なんて誰でも作れるだろ?」
「それはつまり、褒めてんの?貶してんの?」
「そんな深く考えるなよ。さ、お会計お会計」
「んん……?」


ヒソカの理論はなんだか納得させられるものもあるような気がしたがやはりなんだか褒められていることではないような……。

そしてレジに向かう。巨大なカートに詰めるだけ積んでそれを3台分。レジのオバさんも3人掛かりで一心不乱に計上をしていく。なんだか申し訳ない気持ちさえ出てきたが私は太客の気分だった。しかも支払いはヒソカだ。痛くも痒くもない。計上、18万ジェニーと小銭。なんだ、これだけ買ってもそんなものなのだな、と端で見る。そしてヒソカは宣言通り、彼のクレカをレジに通し会計を終えた。ヒソカの格好に訝しむレジのオバさん方。袋に詰めるのがこれまた大変だったが途中でめんどくさくなり隅においてあった空のダンボールを貰ってそっちにボンボコ詰め込む。まるで大人のおもちゃ箱のようだ。そしてそれらの荷物は車までもちろんヒソカに持たせてやった。しかしヒソカは何処吹く風で軽々と荷物を担ぐ。よかったねヒソカここでようやく世の為人の為の役に立ったんだよあんたは、とほくそ笑んだ。



「よし、これでおーけー。それじゃ、ありがとうヒソカ」
「よいしょ、っと」


よいしょだと?
ヒソカはそのまま私の愛車ラッタッタの助手席に乗り込みご丁寧にもシートベルトを装着した。シートベルト装着義務を何お前が守ってんだ。いやそれよりも、


「……ちょっと。降りなさいよ。あんたん家まで送って行ったりなんかしないわよ」
「こんなにたくさん食材も飲み物もあるじゃないか。これだけ手伝ったんだし、キミん家で夕食でもご馳走になろうかと思ってね」
「はーあ?あべこべよそんなの、お返しのお返しをしろって訳?」
「おや、それならいいんだよ、別に、ボクは」
「……な、なによ?」
「いやァ、ボク、今日はたまたまカード持っていなくてね。ちょっとキミのクレカで先に支払いして、後でキミの口座にいくらか振り込めば良いかなと思ったんだけど、」


そしてヒソカが手元からマジックのように現したそのカードはいつものトランプではなく、私の、唯一のクレジットカード。いつの間に!?私は光の速さで彼の手元からクレカをひったくって、2メートルに渡るレシートの控えと番号を確かめた。


「私の、カードで、支払い、されてる……!」
「ちょっと借りただけさ」
「いや貸してないし!これ私が唯一使えるクレカなのよ!?口座に金無いっての、あんたこれを狙って……、どうりで羽振り良く振る舞うと思ったら……」
「ボク羽振りは良いよ?言ったろ、後で振り込むって。けれど今キミにフラれたらきっとショックで振込みなんて忘れるんだろうなァ。悲しくて。でも仕方ないよね」
「こ、の、……!」
「さあ、どうする?請求のツケに怯えるか、ボクを夕食に招くか」
「くっ……」
「じゃあ行こうか、キミん家に。さあ、レッツラゴー」
「覚えとけよ変態」


イラついた私の運転でヒソカが車酔いでもすりゃいいのにと思ったが彼はもはやアトラクションでも楽しむかのように「キミの運転はスリリングだね」なんて感想まで述べてきた。余計イラついて急ブレーキも踏んでやったがむしろニコニコしていた。








「……ここがキミの家かい?」
「なに、なにか文句あるの」
「いや。意外で。まさか自宅持ってるなんてね」
「制約と誓約のさらに契約だからね」
「どういうことだい?」
「そういうことなの」


私の自宅は所謂邸宅だ。デカい敷地に庭付きプール付き7LLDDKKとかいう訳の分からない広さを誇る。門を潜り抜け、門から玄関までがまた遠いのだが、そして車を止めた。ヒソカは珍しく目を丸くさせていた。そんなヤツの顔を見るのは初めてだったかもしれない。まあ私も制約のせいでこんなことになるとは思ってはいなかった。そもそも幻影旅団なのに家持ってるっていう概念がおかしいと自分でもわかってはいるよ、うん。旅団じゃないよねなんか。


「さっさと運んでーヒソカー」
「あ、うん」


こんなに広い家でもやはりオンナのひとり暮らしなので実質は一つの部屋しか利用しておらずほかは空き部屋だったり誰かが遊びに来た時の部屋だったり物置部屋でもある。この間はクロロが本を読みに訪れた。そして本当に本だけ読んで帰って行った。曰く、『なまえの家は広くて静かで読書に向いている』とのことだった。それならそこら辺の公園でもいいじゃないですか、と言ったら『たまには虫が居着いていないか見に来る必要はあるだろう』と訳の分からないことを言った。まだ築浅で金かけたんだから虫なんかそう来てもらっちゃ困る。
ヒソカに荷物運んでもらいついに時刻は18時を過ぎていた。



「それで。夕食だけどー」
「おや作ってくれるのかい?」
「作ってもいいけど味の保証はないけど全部食べてもらわなくちゃ私納得しないけどそれでもいいわけ?ちなみにフィンクスは私の野菜炒めを最後まで食べきれなくて私の目を盗んでこっそり土に埋めて隠してた。もちろんその後私の鉄拳制裁タイム」
「死線を超えてきた旅団員がそうまでしても食べられないものって逆に気になるよ」
「ねーおいしいのにねー」


ヒソカは目を細めて笑った。
その好奇心にそこまで気になるんなら作ってやろうじゃないか、という気持ちになってきたので台所に立つ。工程はいたって普通だ。野菜を切り、炒めて、味付け、終わり。簡単なもんだ。ヒソカはそんな私の後ろに立ち、その手際を眺めはじめる。

「あ、ちょっと、それ、危ないんじゃない?」「えっ、それも混ぜるの?ウソ……」「ああ……これは食材が可哀想」などと小煩くヒソカは言っているうちに野菜炒めは完成された。さあ食え、と食卓にならべる。


「さあおあがりなさい!」
「……なかなかアーティスティックな野菜炒めだね」
「美味しそうでしょ」
「……そうだねなかなか」


私は買ってきたお惣菜を広げた。


「え、キミは食べないの?野菜炒め」
「それはヒソカのためのごはんだから」
「…………。」
「あ、いけない。お箸ーお箸ー」



台所までお箸を取りに行く。ついでに飲みものと、コップ2つ。もちろんヒソカのぶん。さすがに飲み物なしでごはんをどうぞとはならない、私の厚意だ。私やさしいなー、と独り言を呟きながらリビングに戻ると、


「そ」


ヒソカが居た。いやヒソカは居て当たり前だ。そうじゃなくて、ヒソカが私の秘密の戸棚の前に居た。さらにもっと言えば、ヒソカが私の秘密の戸棚を開けて何かを見ていた。ねえ、まさか、それは、


「ボクの写真じゃないか」


私はヒソカの手からその紙きれをまたもや光の速さでひったくった。バクバクと心臓が揺らぐ。ヒソカに背を向けたまま、奴を見れない。
それはこの家にたった一枚、この広い広い無駄に広い家の、その戸棚の、奥の奥に隠していた写真。ヒソカの盗撮写真。さらに説明をすれば、珍しく旅団の仕事で髪を下ろしていたヒソカに目を奪われて、その横顔を撮った写真。

まさかな、と思っていた。まさかヒソカを自宅に招いても戸棚の奥のこのたった一枚を見られることはないと思っていた。それをこの男は、ピンポイントでそれを見つけた。



「これは、そう、……趣味よ。カメラが趣味なの。ほらあんたってその巨体のわりに俊敏じゃない?いかにコマ割りで残像とかブレなく撮れるか今マイブームなの」


ヒソカは無言だ。


「べ、別に隠してたってワケじゃないし。ああああんたの写真なんて隠し持って何の得になるっていうのよ。勘違いしないでよね。あんたは私の獲物だからよ。だから、そう、やめてよね勘繰るのは」


それでも無言。


「な、何よ、何黙ってんのよ、何か喋りなさいよ。わ、私だけあたふたしてなんだかおかしいじゃない。何か言いなさいよ、……お、お願いよ、……何か言えヒソカ」


なまえは言い訳Maybe。ただ早口なのが心苦しさを醸す。
たぶん顔が真っ赤だ。こんな時、団長のようなポーカーフェイスが欲しかった。それなら至極最もらしく言い訳も通るだろうに。






「たぶん、ボクの勘違いじゃなければだけど」



ヒソカは口許に手を当て、その表情を隠すように言った。そして一呼吸おいて、



「キミの獲物はボクで、ボクの獲物もキミだ」



それは、どういうことなのだ。獲物同士。狩るか、狩られるかということか。私の獲物というのはそういう意味じゃないのだけれど、よくわからないよヒソカのバカ野郎。ちゃんと言え。



「明け透けな態度。横暴な言葉遣い。割と自分至上主義だし、ださくて女らしくない見なりだし、それに特に秀でて強いという訳でもない。単純だし、ボクがこの写真を見つけたのは、キミが不自然にもその戸棚にだけは視線を遣らなかったからだ」
「な、はあーっ!?」


全体的に貶された。気付かれまいと戸棚を見ないようにしていたのが逆に不自然にとられるだなんて。文句を言い切ってやろうと口を開いたが、ヒソカにそれは制された。ヒソカは私の唇に人差し指をあてて。まだ続きがある、とでも言いたげに。


「けど、今日。旅団の中で、キミをイイと言っている男がいた。キミに近しい男で、きっとキミも彼を嫌いではないと思う。疑問に思ったよ。だってなまえ=みょうじだ。乱暴だし物言いもキツいし魅力的な容姿でもないのにどうして彼はキミに惹かれる?」



ヒソカは。目線を外して、他の位置を見た。私から目を外した。少し言葉に詰まるように、言い難いというように。それがどういう意味を示しているのかその時の私にはわからなかった。くしゃりと、固めた髪を自ら崩す。



「キミを獲物に待つ男なんてこの狭い世界ボク以外に現れる訳が無いって驕っていたんだ。獲物が手中に入り込んでくるまでじっくり待とう、ってね。けれどそれはボクの過信に過ぎないと気付いた。だってキミは、ボクを見ているとは限らない」

獲物はおびき出すエサに釣られてこの手中に飛び込むものだけど、なまえにとってエサはボクの何だろう。そう考えたら途端に自信が萎む気がした。

「今日キミの元へ来たのは、勿論偶然じゃない。獲物は待つだけでは狩れないと思ったから、他の男に狩られる前にボクが狩ることにしたんだ。けれどキミの獲物もボクだなんて」



それって。
ねえ、それって、ヒソカ。たぶん、私の勘違いじゃなければだけど。


「だからその写真をキミが持っていると知って、ボクは勃った」


いやその情報はいらないけど。
ばかなの、もっと率直に言いなさいよ。もっと素直に。シンプルに。長ったらしく言ってたけど、それって、そういうことなんでしょ。ただ一言、それだけでいいってのに、意外と詩人なタイプってか。ねえ、勃ったのは青い果実がどうこうってことじゃないんでしょ。もっと他にあるでしょうが。


「…………獲物だのなんだの、そうじゃねーでしょ、ばかヒソカ」


獲物と一言に尽くす前に、好きです、恋人になってください、それでしょう。告白もしたこと無いの?無いか。


「私を好きならそう言いなさいよ」
「ボクは度胸のない男なんだよ、ハニー」
「なによハニーって。さぶいぼ立っちゃったじゃない」
「じゃあ暖めてあげるよ。ついでに舐めてもいい?」
「ふざけんな汚い。リステリン100回したら許可しなくもないけど」
「獲物を手に入れたんだから口にしたいと思うのは当然だろ?」
「私の獲物もあんたなんだけどその場合は?」
「じゃあ舐め合わなければね」
「きしょー」
「ひどいなあ」



そうしてヒソカは私に口づけをした。意外にもしつこくはなかった。



ねえ、つまり私たちは獲物同士、舌舐めずりあうのが幸福ってこと。知らないでしょうけど、私、スーパーに佇むあんたにときめいてたのよ。日常の非日常、凡人の変人。あの場にいたつまらない一般人様をみんな殺してしまいたかった。けれどもそうしなかったのは凡人がいるからこそあんたが引き立つと理解したから。普段ならば殺してお仕舞いだけど、たまには感謝しなくてはね、この出鱈目ばかり塵ばかり屑ばかりの世界にも。



この世界最高レベルの獲物にして好きな人。どうしてあんたなんかをターゲットにしてしまったのかわからないけれど、気持ちは同じなら話は早いわ。わかるでしょ?お互い様よね。だってあんたは有象無象の一つじゃない。唯一過ぎた。この狭い世界を輝かせるのは変態のあんた、そういうこと。私はどうかしら。同じように見えていればいいけど、あんたの股間の輝きにはきっと劣るわ。




ヒソカはその後私の野菜炒めを愛とかそういう力で乗り切って完食した。あんなまずそうなものを全部食べ切るなんて逆に引いた。もう今日はキスなんてしたくない。夕食を終えて、奴に言っておいた。


「ヒソカ、忘れないでよね。振込み。私ブラックリスト客だから次クレカが切れるのは痛手なの」
「ところでキミなんでそんなにお金ないの?お宝の分け前、キミも貰ってるだろ?」
「カンタンよ、制約と誓約と言ったでしょ。私の念能力は金銭を持っていると効力が下がり、貧しければ貧しいほど力は増幅される。だから私は金銭を持たないようにこの家とか土地とかに金を掛けてるの。他にも財産分与してるってわけ」
「それ、なんだか本末転倒だね」
「いつの間にか生まれてた能力なんだから出来ちゃったもんは仕方ないわよ。おかげで豊かだけど生活はカツカツ」
「じゃあボクが生活費を出す分には?」
「は?」
「その代わりボクもここにおいてくれよ。キミは金がない、ボクはある。キミは家がある、ボクは放浪者だ。生活費をボクが出せばキミは制約を守りながらキミの金を自由に使える。そして生活費に困る事はない。どう、理にかなってる話に思えないかい。それにボクの獲物が逃げたり盗られたりしないよう見張りしなきゃいけないしね」
「素直に私と一緒に暮らしたいと言いなさいよ」
「ボクは回りくどい男なんだよ、ハニー」
「まあ悪い条件じゃないけれどね、ダーリン」



そして奴はニヤニヤでもなくニタニタでもなく、ニコッと笑った。


「またスーパー、行こうね、なまえ」










よくわからん念能力を付与したがために設定ガタガタですけどヒソカとスーパー行きたくて書きましたすんません