刺激
俺の日常は、完璧なようで、どこか物足りなかった。
妻との関係は、世間から見れば理想的だろう。
穏やかで、優しくて、互いに尊重し合っている。
不満はない。
だが、そこに情熱はなかった。
退屈ではなかったが、魂が震えるような刺激もなかった。
その空白を埋めるために、俺は毎週木曜日に愛人を連れ込むようになった。
最初は、背徳感と新しい刺激に酔いしれた。
だが、それもすぐに慣れ、ルーティンと化していった。
毎週違う女を連れ込んでも、満たされない何かが俺の中に残っていた。
彼女たちの嬌声も、やがてただの音に聞こえ始めた頃、俺は新たな「愉しみ」を見つけた。
それは、偶然だった。
いつものように愛人との行為を終え、カーテンを閉めようとした時、ふと向かいのマンションの窓に目が止まった。
部屋の明かりは消え、窓辺の椅子に、ひとつの小さな人影がある。
それは、毎朝出かける時に見かける、清楚で、どこか古風な雰囲気を持つ女子大生だった。
彼女がいつも座っているのを見て、俺は「熱心に勉強しているのか」くらいにしか思っていなかった。
だが、その夜、彼女の姿はいつもと違った。
彼女は、窓からじっとこちらを見つめている。
いや、正確には、こちらではない。
俺と、今ベッドにいる愛人との間に繰り広げられた光景を、彼女は貪るように見ていた。
次の瞬間、俺は息をのんだ。
彼女が、胸元からゆっくりと手を下げていく。
その指が、へその下あたりで止まり、やがて、一番敏感な場所に触れた。
その行為に、俺の身体が内側から熱を帯びていくのを感じた。
愛人との行為で感じたどの快感よりも、強烈な興奮が全身を駆け巡った。
彼女が、俺と愛人の行為を「おかず」にして、一人慰めている。
その日から、俺の木曜日の夜は変わった。
愛人を連れ込んでも、意識は常に、向かいの部屋の彼女にあった。
愛人が俺の胸を撫でると、彼女も自分の胸を撫でている。
愛人が快感に喘ぐと、彼女もまた、苦しげな吐息を漏らしているのがわかる。
「…っ、はぁ…っ…」
彼女が漏らした、誰にも聞かれないように必死に抑えつけられたその吐息は、俺の耳には、官能的な子守唄のように聞こえた。
彼女が自分を慰めるために、どんなに苦しんでいるのか。
想像するだけで、俺の心臓は激しく高鳴った。
そして、愛人との行為が終わり、彼女が満足げに部屋を去った後も、俺はすぐにカーテンを閉めなかった。
彼女が一人、絶頂を迎える瞬間を、俺は窓越しに見つめ続けた。
彼女が、快感に震え、やがて全身の力が抜け落ちていくその姿を見るたび、俺の中に、それまで感じたことのない深い興奮と、背徳的な充足感が満ちていく。
毎週木曜日、俺は新たな「愉しみ」のために愛人を連れ込む。
そして、彼女は俺と愛人の行為を「おかず」に、一人ベッドで身を捩る。
互いに盗み見合うことで、俺たちは言葉を交わすことなく、最も深い部分で繋がっていた。
この関係は、もうやめることはできないだろう。
満たされない日常を埋める、俺だけの、特別な夜がそこにあった。
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