01.「未知の道を行く意味」


「さむ・・・」

掛布を頭まで引っ張り上げると寒さをしのぐために布団の中に潜り込む。ふかふかとした敷布は肌触りが良く、俺はその気持ちよさにうつらうつらと夢の中へ旅立とうしていた。

しかし、そんなことが許されるはずもなく・・・。

「さぁ李土様お時間ですよ。旦那様と奥様がお帰りになられておりますから、着替えましょう」

「さいとう・・・・・・まだ、ねむい・・・」

目を擦りながら起き上がった李土に執事の彼は眉をしかめる。そして掛布に手をかけると、勢い良くそれを奪い取った。主から奪い取った毛布をぽいっと部屋の隅に控えるメイドへ投げ渡してしまった。

(こいつ・・・!!ムカついたッ!)

寒い、すっごく寒い。まだ冬の終わりの時期―――外の気温はかなり低いんだよ。

「り、李土様!なりませんッこの斉藤めが旦那様に叱られますから!!」

主へ尊厳もない日頃の彼の態度に苛立った俺は、天蓋付きベッドの柱にしがみつく。それに対し、斉藤はまだ幼い主の腰を掴んで引っ張ろうとするが子供のくせになかなかしぶとい。

「お前の事なんかどうでもいい!お父様に怒られてしまえ!僕はまだ眠いんだッ!!」

必死に抵抗するがむなしく、自分は子供で相手は大人。引っ張られる力の強さに負けて手を離してしまった。

「さあさ、メイド達も控えております。すぐに仕度させてもらいますからね」

「斎藤、覚えていろ・・・」と悪態をつく主に素知らぬ振りをして合図を送れば、そそくさと準備を始める玖蘭家に仕えるメイド達。もう彼女達は顔馴染みである。いつもの二人のやり取りも見慣れたのか、笑顔で彼女達はテキパキと李土の着替えをこなしていく。

(・・・めんどくさいな)

あの頭の固い両親にはあまり会いたくない。良い人達ではあるだろうけれど―――。

俺の異質さに気が付いているのか母は距離を置いて接してくる。父は良き玖蘭家の当主にしようと教育熱心だ。俺には家を継ぐ気はないけれど。

誰にも信じてもらえないだろうが、俺は秋人という名前を持つ普通の男子高校生だった。そう前世の記憶が俺にはあるのだ。つまり、現在は第二の人生を歩んでるらしい。そりゃ自分でも吃驚したって。でも現状どうにか出来るわけでもない、神のみぞ知るというべきか・・・・・・。

前世の記憶で覚えてる限りでは学校から帰宅してから友達と遊び、夕食を食べた後に疲れて自室のベッドに寝たはず。そこから目が覚めると言葉も喋れない赤ん坊でさ。ビックリしすぎてしばらく放心状態だった。様子がおかしいことに気づいた周りにはとても心配されたよ。現在は玖蘭という超お金持ちの子供で、玖蘭李土という名前だ。

そうこうしてるうちに準備が終わったらしい。最後に櫛で髪の毛を整えて鏡に写る自身の身形みなりは完璧である。

「さぁ、夜会からお戻りになられた旦那様と奥様をお出迎致しましょう」

俺の手を繋いで、笑顔でそう言ってきたのは執事の斉藤勇雄。この屋敷の全てを任されている筆頭家令である。彼が俺の教育係兼お守役だ。

この躯の持ち主の一族は古くからある有名な家らしい。そこに産まれたからにはそれ相応の教育がされる。しかも、"ヴァンパイア"という種族だとか。いきなり人間からヴァンパイアに転生だなんて・・・。

この世界は人間とヴァンパイアという二つの種族が存在するんだってさ。今はお互いに何とか共存しているけれど、昔はそうではなかったとか。

(・・・どうでもいいけど)

前世では平凡家庭だし、父さんと母さんも普通の顔で俺自身も並程度の顔でモテたことすらもない。それが今ではヴァンパイアになったお陰で、美少年って言葉で括れないくらいの美貌の持ち主になってしまった。珍しい紅と蒼のオッドアイの瞳でさらにミステリアスな雰囲気を発し、ヴァンパイアのせいもあって誰もが俺に魅了されてしまうらしいよ。ヴァンパイアは総じて美しい。この世界の父も母も皆美形だ。

最初はラッキーと喜んでたけど・・・。授業でヴァンパイアについての話を聞いていけばいくほど逃げ出したくなった。

ヴァンパイアは皆、化け物並みの身体能力に人間の血が少ない一部の一族は特別な力も持っている。その中でも、古 来より人間の血が一滴も交じっていない"純血種"という存在が最強最悪で且つ、全てにおいて謎に包まれてるってね―――嫌になるだろ。俺の産まれた家も純血の家系である。

つまり、俺もその純血種ってことだ。

(ああ、ヴァンパイア辞めたい・・・)




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