02.「見つめるだけで壊れそう」
「これが・・・僕の・・・おとうと?」
自らの腕の中で眠る小さな命。安らかに眠るそれに李土はやわらかく微笑んだ。初めての兄弟の誕生に心から喜んでいた。
俺は生まれてから24年経ち、見た目は立派な大人に成長した。それからはゆるやかに年を取らなくなるらしい。だが24歳はヴァンパイアの中ではまだ子供の部類である。なかには何千年も生きる生きた化石(酷)もいるからな。そんな事言ったらお母様に怒られるから口に出さないけど。
普段見ることのない息子の表情かおに母は驚いたような顔をしていることに李土は気づいていない。彼の滅多に見られない希少な微笑みに心底安心したのか母は息子二人を優しく抱きしめる。
温かいその温もりに俺は目を瞑った。安心できる温もり、お母様は美しくて優しい人だ。お父様と揉める時も必ず俺の味方をしてくれる人。
「李土、その子は悠はるかよ。貴方の初めての弟ね・・・。
貴方はお兄ちゃんになるの、だから悠を守ってあげてね?」
「・・・はるかを・・・僕が、まもる・・・?」
「えぇ」と母は朗らかに微笑んだ。
(俺と、血の繋がった・・・弟、か)
不思議と胸の内が暖かくなる。ぎゅっと悠を抱きしめ、その頬に自信の頬をくっつけた。至近距離で伝わる息遣い。ヴァンパイアの異常な聴力で聴こえる命の鼓動。その重みを感じた。
李土は満面の笑みを浮かべて誰にも聞こえない声でそっと「僕がお前を護ろう」と呟く―――。
この呪われたヴァンパイアという宿命を自分が全て背負おう。君のためなら、兄としてどんなこともしよう。そう心に決めた瞬間だった。
「お母様、悠を・・・」
「もういいの?」
「はい、大丈夫です。悠もお母様のほうが安心するでしょうし」
腕の中で眠る弟を起こさないように母へ抱き渡す。俺はお父様に似てクルクルの癖毛だけど悠はお母様に似ているのか風で跳ねたような癖毛だ。そして、俺にはない玖蘭の者特有のダークレッドの瞳。
タイミング良く鳴る扉を叩く音。純血種の気配、お父様だ。確か今日はお祖父様の元に報告業務に行くと朝出掛けていたから、それを済ませて帰ってきたようだ。お母様が「どうぞ」と言えば、ゆっくりと扉が開かれ彼が入ってくる。俺と同じウェーブのかかった黒い艶のある髪を揺らしてお母様が横になるベッドの縁に座る。
「お父様はどうでした?」
「ああ、変わりはない。人間との共存のために王政を廃止して元老院を創設する話しをしていた」
(人間との共存、か。お祖父様はヴァンパイアの中でも変わり者として知られているからな)
しかも、王政を敷いている吸血鬼社会では玖蘭家が頂点にいる。お祖父様が現在の王で、もし次に継ぐとしたらお父様・・・最後に長子の俺という世襲制だ。
(絶対に継ぎたくはないけど)
「・・・李土、お前を次期当主にすることを反対された。お父様に何か言ったのか」
すごく、すごく怒ってる。怖い顔をしてこちらを真っ直ぐと見据える父の視線とかち合わないように気持ち良さそうに眠る悠をひたすら見るしかない。
「いいえ、僕は何も・・・。お祖父様は何か考えがあって、僕には玖蘭の当主が務まらないと判断されたのではないでしょうか」
「ふん・・・まあいいさ。お父様の意見は関係ない、お前の行く末を決めるのは父である私だからな。平和ボケしたあの方にはこの先の将来について、判断を鈍るだろう」
吐き捨てるように言葉を放つ父はいつも以上に感情が昂っているのか饒舌だ。
母は困ったように微笑んでいるし。本当にこの両親は苦手である。
お父様はお祖父様とは仲が悪い。会うたびに衝突していると聞く。父曰く、何事も平和的に解決しようとするその姿勢が気に入らないらしい。
合計13ページ