「体の...感覚が、なぃな......」
首から下動かすこともできない。まあ、痛みが無いの事が幸いか。形なく粉々に粉砕された俺の肉体はなんとか人の形まで形成できた。
しかし、臓器や皮膚は再生されておらず見る者によっては悲鳴を上げて逃げ出すか失神するだろう。
俺も一条に頼んで鏡で自分の状態を確認した際は、気持ち悪かったから。
「正直、李土様のお躯が結晶化で飛散された際は...本当にお命があってよかったです...」
傍らにいる一条は跪き、李土へ沈んだ表情を浮かべた。
「...僕も死んだかと思ったさ。悠もあんなに力があったとはな」
まあ理由は分かる。自分で言うのもおかしい話だけど、他の純血種にはかろうじて勝てるほどの能力はある。小さい頃から俺の精気を与えてたんだ、同程度の力はあるはずだ。
首も満足に動かせない俺は視界に入る天井をただただ見つめるしかできない。
純血の血を二人分喰らっている。悠相手には容易に勝つことは可能であった。
「不便...だな」
「そうですね、ここまで再生するのには十年の月日がかかりましたから...」
「十年か」とポツリと呟く。
「カナメは、どうしてる?」
「カナメ様はお元気ですよ。人間に紛れ、公立の学校へ通われております」
(てっきり、黒主学園に通ってると思ってた)
きっとあの子なりの考えがあるのだろう。
「寮にお住まいですが、副寮長をされていると手紙にありました。
李土様の容態を心配されております」
「そうか、無事…ならいいんだ」
安心した、しかしよく人間と同じ生活を送れるなカナメは。ヴァンパイアには陽光は辛い。
十分すぎるほどに生きた故に顔を忘てしまった腐れ縁の当麻。でも息子の麻遠を見れば何となく思い出せる。
彼はあまり写真や絵を好きではなかった。その為に、一条家には彼に関するモノは最低限しか残されていない。
その息子である彼が李土と出会ったのは18になってからである。そして現在までに李土へと仕えている___。
「悠様と樹里様のご子息とご息女は黒主学園へ…優姫様は正体を隠され、普通科に通っていると聞きました」
一条から聞かされたここ十年の出来事。しかし一向に出てこない一つの名前。
「閑はどうしている。あれには可哀想なことをしたからな」
「ッ申し訳ありません。閑様は…我々が贄として用意した人間と共に逃げ出し……人間はハンターに狩られ、狂った閑様は…」
「な、に?」
膝を折って額を地にこすりつけるように謝罪をする一条麻遠。
閑は、あの子はヴァンパイアにした人間の男を愛し…檻から逃げ出したと。つまり、駆け落ち。
しかし、ハンターによって男は狩られ。怒りによって狂った閑はハンター夫婦を殺したらしい。
「閑様は縁者の躯を使い下位のヴァンパイアに成り済まし学園に入学して、何者かに殺害されました…」
「……」
そうか、あの子は…。
当時共に過ごした記憶、生意気な子ではあったがそこが愛おしかった。だんだんと狂いが生じる歯車。しかしそれでもやらなければならない。
(すまない閑……)
スッと目を細め天上を見つめる。毒づいてばかりいたが俺の意を汲んで、人間を認めてくれていたんだな。
ありがとう___。
「あと一つ、李土様にお伝えしたいことがあります。
李土様の血を唯一引かれる、御子が黒主学園に…」
「僕の子…?」
俺には養子として引き取ったカナメしかいないはずだ。
突然の一条の発言。見に覚えがないが、悪い予感がする。
「支葵家の娘の子、支葵千里。貴方様の実の子です」
(あの時の娘、か……)
過去の過ちに頭が痛くなる。
確か、うる覚えではあるが夜会の後に一条によって酒をたくさん飲まされひどく酔っていた時だ。
俺を介抱してくれた娘が支葵家の者だった。酔った勢いとはいえ、本当に軽はずみな行為でしてしまった最低な自分。
謝ったが、彼女は至極嬉しそうにして帰って行った。
あの日のことで彼女は妊娠をしていたのか。
「李土様にとてもよく似ておられます」
責任を感じ、頭が痛い。一条の声は聞こえないフリをして俺は目を瞑る___。