Epilogue.わたしをわたしと思わぬために
「貴方様は私を見誤った・・・」
目の前に在る棺へ話かける。返事はないことは分かっている。
ただただ、目の前のそれに行くあてのないこの気持ちをぶつけたかった。
一条家は玖蘭家の中枢を支える貴族の筆頭長___。『誰よりも貴族で在り王の柱となる』と教えられ幼少期より育ってきた。実父は確かに貴族の中の貴族であった。
だが、玖蘭家の柱となれずに人生が綻びたのだ。それを直に見てきた私にはそうななりたくはないと心に誓った。
「誰よりも貴族で在り王の柱となる・・・」
吸血鬼社会には最早、王は居ない。残ったのは柱となれだ。だからこそ私は吸血鬼社会の繁栄のため柱とならなければならない。
(・・・仮初の王など必要はない)
仮初の王の成そうとする事はあまりにも犠牲が多すぎる上に、全てが終わった時舞台から去るということは全てから逃げるということだ。全ての犠牲になった者達から。
「貴方様は力を使う王で在った。だが、本当に貴方様に従う全ての者はその思想に共感し着いて行ったとお思いですかな。
貴方様は純血の君。それは変えようのない事実だ、貴方に殺されまいと恐れ畏怖の念を抱く者ばかりですぞ・・・。
私は賢さを使う柱でありたいと思ってきた・・・誰よりも貴族で在った父のように」
「・・・"お養父様"には完敗ですな。私は貴方様を一度たりとも憎んではいませんでした。私は貴方様に生きてほしかった。
それすら叶わぬ今、共に逝きましょう・・・」
一輪の花を棺の上に置く。一条麻遠は孫の拓麻より受けた傷により体は結晶化が始まっていた。死を迎える躯を動かし、向かったのは玖蘭家の地下廟。
全ての事が終わった元主である玖蘭李土が眠っている場所であった。棺から覗く白い透き通る肌・・・閉じられた瞼は二度と開くことはない。最後に彼と言葉を交わしたのはいつだったか。
カナメ様が姿を留めるために力を使われたのだろう。結晶化が始まる直前でその姿は時を止められていた。
「最期にその御身を一目見れ、て・・・・・・」
ああもう限界だ。ピキリと最後にヒビが入り、彼の体は粉々に砕け最期には灰となる。棺の傍らには紫のアスター。
(・・・私の愛はあなたの愛より深い___)